介護福祉士・安藤なつさんら経験者が語る「介護はひとりで抱えないで」安心の頼り先を見つける5つのステップ
親の食事を用意し、トイレや入浴を介助し、話し相手にもなる―長らく“美談”とされてきた献身的な介護は、あなたも相手も身を滅ぼす危険性をはらんでいる。介護現場の厳しさと対策を経験者と専門家に聞いた。
教えてくれた人
野原広子さん/女性セブンライター、安藤なつさん/お笑いコンビ・メイプル超合金、川内潤さん/NPO法人「となりのかいご」代表理事
家族の介護疲れが深刻な問題に
「私の介護は、要介護認定の申請書を書くために市役所を訪れた日から始まりました」
そう振り返るのは在宅介護の末、93才の母を看取ったオバ記者こと野原広子さん(66才)。
「もともと気丈だった母の様子がおかしくなったのは、父が胃がんで他界して1年が経った頃から。近所の人たちと行き来してひとり暮らしを楽しんでいたのもつかの間、熱中症で倒れて病院に運ばれたり、地元に住む弟が様子を見に行くとげっそり痩せていたり。
『ご飯なんか食いたくねえ』と言うけれど、弟が買っていった弁当は食べる。要は自分で用意するのがおっくうになっていたの。そうしたことの積み重ねで『定期的に見守りをしてくれる人がいないと生死にかかわる』と思って要介護認定を受けることにしたのはいいけれど、18才で上京した私は地元の行政の仕組みや介護制度どころか、窓口の場所がどこなのかすらわからない。
そのうえ、60代までホームヘルパーとして働いていた母は他人の世話になるのはいやだというし、ひとりで抱え込んでいたら大変なことになっていたはずよ」
幸いなことに、オバ記者には介護経験があり、地元の行政に関する情報にも通じている幼なじみや実家近くに住む弟がいたうえ、頼りになるベテランのケアマネジャーとも巡り会えた。
「母は入退院を繰り返した後、最期は病院で息を引き取りました。自宅にいたときは枕を並べてシモの世話も含めて在宅介護をしたけれど、ひとりでできることには限界があると改めて気づかされました」(オバ記者)
→オバ記者が体験する「古武術介護」とは?体を痛めずラクにできる新介助術をプロに学ぶ
介護歴20年以上のお笑い芸人・安藤なつさん「早めに“頼る”決断を」
介護業界に携わった実経験から「家族だけで介護を担うのは困難」と実感しているのは、お笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさん(42才)。芸人として活躍する傍ら、20年以上前から介護現場に籍を置く大ベテランであり、今年3月には介護福祉士の資格も取得した。
「叔父が小規模デイサービス施設を運営しており、そこで小さな頃からボランティアをしていたことが介護の仕事に就くきっかけでした。20才でヘルパー2級の資格を取り、その後は深夜の巡回介護も担当しました」(安藤)
在宅介護をしている家庭を訪れた安藤さんは、その壮絶さを身をもって感じたと続ける。
「安否確認やおむつ交換のために、在宅介護をしている家庭を一晩で十数軒回っていたのですが、ひとりで介護をしている人はトイレの介助やおむつの交換のために一晩中、体も心も休まらない状態で過ごさなければならない。それは夜だけに留まらず、日中も同じでしょう。物理的にも大変なうえ、日々弱っていく親や義父母のケアをするのは気持ちの整理がつかないことも多く体力的にも精神的にも疲弊しやすい。
また、介護の悩みは抱え込んでも好転することはそうそうありません。だから、早めに“頼る”という決断をすることで介護する側・される側両方が救われると感じたのです」
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親の介護は「頼り先」を見つけることが大切
介護に関する相談を受け付け、自然で無理のない”家族孝行”を実践する手助けをするNPO法人「となりのかいご」代表理事・川内潤さんは、家族が外部に頼ることで劇的に状況が改善された例があったと話す。
「フルタイムで働きながらもお母さんを一生懸命介護していた娘さんのケースです。お母さんは“子供が親の面倒を見るのは当然のこと”という考え方の持ち主で、第三者に世話をされるのを嫌がって、まだ自分でできることも多いのに娘に頼り切ってしまったうえ、『コップの水がぬるい』とか『歯ブラシが硬すぎる』などと細かい文句までつけるようになり、とうとう娘さんの方が参ってしまったのです」
相談を受けた川内さんは、要介護認定を申請することに加え、2人で一緒にいる時間を減らし、会話もできるだけ少なくするようにとアドバイスした。
「娘さんが距離をとるようになると、それまで頼り切っていたお母さんは生活するうえで困ることが多くなった。
すると、これまでホームヘルパーが入ることやデイサービスに行くことを嫌がっていたが、徐々に受け入れられるようになり、親子関係も改善しました。
このように、本人が“困る”という体験をするのが重要。『大変だ』と言いつつ許容してしまうことで負担を増やしているのは、実は家族側なのです」(川内さん)
もし彼女が「となりのかいご」を頼らなければ遅かれ早かれ、共倒れになっていただろう。いざというとき、あなたの声を聞き、寄り添い、必要なタイミングで力を貸してくれる「頼り先」が、介護生活を大きく変える分岐点となるのだ。
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