「日本で唯一“ろうたけた”女性は上皇后美智子さま」下重暁子さんが惚れ込む美智子さまの芸術的センスと母・正田富美子さんの教え
女性が惹かれるのは、人生の手本になる魅力的な女性だ。作家で評論家の下重暁子さんが、惚れ込むのは、「ろうたけた女性」だという。「ろうたける」とは品がよく、毅然としている様子を意味する言葉。下重さんが「日本でただ一人のろうたけた女性」と語るのが上皇后美智子さまだ。下重さんが心惹かれた美智子さまの生き方、魅力を語ってもらった。
「ろうたけた女性」とは皇后美智子さまのことである
私が惚れ込んでしまうのはろうたけた女性。
いまではすっかり使わなくなりましたが、「ろうたける」とは品がよく、毅然としている様子を意味します。
言葉が使われなくなると同時にいまの日本にはほとんどいなくなってしまいました。そんな中で唯一の“ろうたけた女性”であると思うのは上皇后美智子さまです。
数年前の国体で私がご挨拶しようと並んでいたとき、美智子さまは「あなたの本を読みました」と声をかけてくださいました。なかなかこちらからお声がけするのは難しいので、気を使ってくださったのです。
会話をするときも美智子さまは相手がしゃべりやすいように聞き手に回り、気取らず丁寧でありながら、きわめてフラットな言葉遣いで、質問に自然に答えてくださいます。
芸術家としての感受性の豊かさに心惹かれる
そうしたお気遣いの心はもちろん、私がそれ以上に心惹かれるのは美智子さまの芸術家としての感受性の豊かさです。毎年の歌会始で美智子さまが作られる御歌は非常に文学性があります。40年以上にわたる詩歌にまつわる活動を紹介する本『降りつむ』に収録された朗読のDVDを聴くと、美智子さまがいかにご自身の感性で作品を深く理解し、朗読を披露されたかわかります。
皇室に入られてさまざまなご苦労があったのに、持って生まれたセンスや個性を失わなかったことも本当に素晴らしい。特に最初は大変だったでしょうが、自分のなかにある大切なものを失うことなく磨き続けられた。お年を召して上皇后になられてから、ますます実り多くなったように感じます。
美智子さま以上に「ろうたけた女性」は正田富美子さん
それはやはり、ご両親の教育の賜物ではないでしょうか。実は私が美智子さま以上に「ろうたけた女性」だと思うのは、美智子さまの母君である正田富美子さんです。
明治生まれの富美子さんは、すっくとした立ち姿に気品と勁(つよ)さを漂わせていました。美智子さまとお話しする機会があった際、「お母さまが素敵だと思います」とお伝えしたら「非常に厳しい人でした」とおっしゃいました。
実際、皇室に嫁がれた美智子さまは公にはほとんど正田邸に里帰りされませんでした。伝え聞くところによると、富美子さんが娘の帰宅を許さなかったそうです。実家に戻って甘えが出てはいけない、と心を鬼にしたのでしょう。
お母さまの教育方針に加えて、ご自身の才能と努力のおかげで美智子さまは芸術的な感性を磨くことができたといえるでしょう。美智子さまが、皇室という大変な環境にいながらそれを成し遂げられたのだから、私たちの誰が「自分のいる場所が悪いからできない」と言えるでしょう。
一度きりの人生のなかで、大切なものを失わず守れるかどうかは自分次第。背筋を伸ばし、一生懸命に磨く努力あるのみです。
下重暁子さん/作家・評論家
1959年、早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。アナウンサーとして活躍後、民放キャスターを経て文筆活動に入る。『家族という病』『極上の孤独』など著書多数。
文/池田道大
※女性セブン2023年9月14日号
https://josei7.com/
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