女優・南果歩さんが何度も励まされた瀬戸内寂聴さんの言葉「いまがいちばんよ」の意味
女優の南果歩さんと瀬戸内寂聴さんは、雑誌の対談がきっかけで以来、約30年近くも交流があったという。瀬戸内さんに会うと毎回同じことを聞かれて同じことを言われるのだが、その言葉に何度も励まされたという南さん。一体どんな言葉が南さんを勇気づけたのか、詳しく教えてもらった。
教えてくれた人
南果歩さん/女優
1964年、兵庫県生まれ。1984年に映画『伽倻子のために』のヒロイン役オーディションに合格しデビュー。以降、女優業を中心に活躍。執筆活動も行う。
南果歩さん×瀬戸内寂聴さん「初対面で運命的なものを感じた」
初めて瀬戸内寂聴先生(享年99)とお会いしたのは31才のとき。雑誌の対談がきっかけでした。
当時、私は妊娠がわかったばかりでまだ公にはしていなかったのに先生がいきなり
「あなた、ひょっとして赤ちゃんがいない?」とおっしゃったので驚きました。
運命的なものを感じ、その後も生まれたばかりの子供と一緒に、京都にある先生の寺院・寂庵を定期的に訪れるようになりました。
寂聴先生の魅力は何といっても底なしの明るさです。本当に屈託なく、おかしいときはケラケラと笑うし、好き嫌いが明確ですごくはっきりとモノを言う。
「人間、いい顔ばかりして生きられないわよね」と言ってくださるので、私も外では絶対に言えないような本音を吐き出しながらも、ユーモアあふれる先生のお話で最後はいつも笑って寂庵を後にしていました。本当に幸せな時間でしたね。
「いまがいちばんよ」に何度も励まされた
先生の口癖は「それであなた、いくつになったの?」というもの。会うたびにそう聞かれ、私が答えるといつも「そう! いまがいちばんいいときね!」とおっしゃるんです。
10代の少女ならともかく、ミドルエイジになった女性に「いまがいちばんよ」と言ってくれるのは寂聴先生だけ。あれは、すごくうれしかった。
先生ご自身が51才で“瀬戸内晴美”から“瀬戸内寂聴”になり、ご自身の力で未来を切り開かれた経験から、「人生はここから面白くなるのよ」と励ましてくれたのだと思います。
私は2度の離婚と乳がんを体験しましたが、そのたびに大先輩である先生の言葉に励まされ、「そうだ。まだここから人生を面白くしていけるんだ」と自分に言い聞かせていました。
「人は人、自分は自分」の距離感で人間関係を築ける人
大正、昭和、平成、令和と4つの時代を生き、女性がいまよりもっと生きづらく、やりたいことがあってもできない女性が大勢いたことを誰よりもよくご存じだからこそ、そうやっていつも背中を押してくださったのだと思います。実際に説法や著書でも、女性が自分の意見を持って生きることの大切さを繰り返し説かれました。その姿には多くの女性が勇気づけられたことでしょう。
だから私も、かっこいいと思う女性、惚れ込んでしまう女性は「自立している人」。 私の思う「自立」とは自分の意見を持ち、それを伝える知性がありつつ、人に強要することなく、「人は人、自分は自分」という距離感で対人関係を築ける人のこと。必ずしも経済的な自立はマストではないと思うし、主婦業を全うしながら自立している女性はたくさんいます。
寂聴先生が2021年11月に99才で亡くなられてから2年弱。あの明るい声を聞けなくなりましたが、「いまがいちばんいい。いまこの年齢を謳歌しなくていつ楽しむんだ」という先生の声はいまも私の心に残っています。
文/池田道大
※女性セブン2023年9月14日号
https://josei7.com/
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