レモンを日常的に摂取することで期待できる意外な健康効果
紅茶にいれたり唐揚げにかけたりと、添え物としての印象が強いレモン。健康に関してはビタミンC摂取に役立つことが知られているが、日常的にレモンを多く摂っている人たちへの調査で、それ以外にさまざまな働きがわかってきたという。レモンの持つ意外なパワーとは?
レモンの島では5日に1個レモンを摂取
日本でレモンの生産量が最も多いのは、広島県。その歴史は古く、同県の資料によると1898年に、現在の同県呉市豊町大長が、ネーブルの苗木を購入した際に混入していたレモンの苗木を、試しに植えたことから始まったと言われている。その後、レモン栽培は活発化し、1953年には栽培面積が全国一となった。
レモンは温暖な気候と急斜面の地形との組み合わせが栽培に適していると言われている。同県の中でもレモンの栽培が盛んなのは、瀬戸内海に浮かぶ大崎上島(おおさきかみじま)。レモンの生産だけでなく、島民は日常的に食生活の一部に取り入れている。
大崎上島住民の健康寿命は、平均80歳。これは全国平均よりも7歳も高い(第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料より)。性別では男性は76.4歳、女性は83.7歳。全国平均は男性72.14歳、女性74.79歳(広島県調べ)なので、こちらも高いレベルにある。
島民の健康状態に注目した、県立広島大学保健福祉学部理学療法学科の飯田忠行教授は、同島で健康調査を行った。調査期間は2017年2月~2018年2月の1年間で、島民90人(61.9歳±10.8歳、男性26人、女性64人)を対象とした。
その結果、まずわかったことは、島民はレモンを平均、5日に1個程度食べているということ。レモンの消費量は、全国平均では1人あたり年間5個。同島では15倍も多く食べている計算だ。そこで飯田教授が島民の身体状況をくわしく調べた結果、平均的に骨密度が高いことがわかったという。レモンと骨は、にわかにイメージが結びつかないが、理由があると飯田教授。
「骨密度が高いのは、レモンに含まれるクエン酸が持つ、『キレート作用』が関係していると考えられます。キレート作用とはカルシウムなどのミネラルを、腸から吸収しやすい形に変えることです。これにより、血中カルシウム濃度が維持され、骨密度を維持することにつながります。通常カルシウムは人体に吸収されにくく、食物から摂取した場合、約70%が体外に排出されてしまいます。特に高齢になると腸から吸収されるカルシウム量は低下する傾向にあり、体は骨に蓄えられているカルシウムを使って補おうとします。その結果、骨粗しょう症になりやすくなるのです。島民のみなさんは、普段から多くのレモンを摂ることで、自然とカルシウムが体内に吸収されやすくなっているので、平均よりも骨密度が高くなった可能性があります」
レモンを多く摂ると高血圧まで抑えられる
さらに飯田教授が調査を進めたところ、島民にある特長が見られたという。
「レモンを定期的に摂取している人の方が、最高血圧が低く抑えられていることがわかったのです。レモンが血圧を下げる理由は、皮に含まれる『レモンポリフェノール』と、果汁に含まれる『レモンフラボノイド』が関係しています。高血圧自然発症ラットを用いた研究でも、レモン果汁やレモンフラボノイド類が血圧に影響を及ぼす可能性があるという報告があります」
レモンの酸味や甘みによって塩をあまり使わなくなることも、同島の住民の高血圧抑制に役立っていると見る医師もいる。県立広島大学では、ポッカサッポロフード&ビバレッジなどの民間企業と共同で、800人を対象としたレモン摂取による健康効果の調査を始めている。
では島民は実際に、レモンをどのように摂取しているのだろうか。レモンはかなり酸味が強いので、ミカンのように食べることは難しそうだが、大崎上島町でレモン農家を営む岩崎農園の岩崎太郎さんは、こう話す。
「大崎上島町の人たちは、レモンを食生活に積極的に取り入れています。レモン果汁を調味料にするため、しょうゆさしにいれて常備している家庭も多いです。また、レモン果汁をお湯やお水、牛乳などに入れて飲んでいます。レモンの皮まで使った家庭料理も多く、丸ごと食べているのも、この地域ならではかもしれません」
レモンを使った家庭料理としては、鍋料理がよく食べられているという。熱を通すことで皮も柔らかくなり、食べやすくなるからだ。カルシウムを同時に摂取したい場合は、鍋の具材に牛乳やチーズを組み合わせるといいそうだ。
生産地が温暖な地方であることやレモンスカッシュなどのイメージがあるため、夏の果物のように感じられるレモンだが、国産レモンの収穫は11月からで、旬はむしろ冬とのこと。骨を丈夫にし高血圧を抑えるために、レモンの島に住む人々にならって「レモン鍋」で食卓を飾ってみては?