熱中症の予防策8選「水分は1日8回こまめに、手のひらを冷やす」熱中症の見極め方を専門家が指南
今年はすでに累計1万人以上の人が熱中症で救急搬送され、亡くなった人も出ている(2023年7月9日時点)。今後も猛暑が続くと予想されており、熱中症リスクは増すばかりだ。だが調べてみると、命を守る手立てはたくさんありそうだ。正しい予防と対策を習慣づけてこの夏を乗り切ろう!
「温度」「湿度」「水分補給」に注意せよ!
7月に入ってから九州では線状降水帯による大雨続きで甚大な被害が出ている。その一方で、梅雨の晴れ間や梅雨明けの厳しい暑さが続いている地方も多い。総務省発表の速報値によると、連日30℃超の東京都では、6月26日~7月2日の1週間に333人が救急搬送され、前週の124人の約2.7倍を記録した。日本気象協会は、「8月には東北南部から沖縄の広い範囲で熱中症傾向は『厳重警戒』に。北海道や東北北部でも、日によっては『警戒』や『厳重警戒』ランクになる可能性がある」と予想している(下図参照)。
つまり、日本列島のほぼ全域で熱中症のリスクは極めて高く、例年以上の対策が必要ということだ。
熱中症にならないための「暑さ対策8選」
【対策1】気温だけでなく湿度にも注目すべし
猛暑だけが熱中症のリスクを高めるわけではない。下の表を見てほしい。東京都の2011年7月18日と8月15日の気象情報を比較すると、8月15日の方が気温は低いが湿度は高く、熱中症の救急搬送者数も倍近いことがわかる。
「湿度が高いと汗が蒸発しにくいため、体の熱を外に逃がすことができず、熱中症になりやすい」
と言うのは、日本気象協会が推進するプロジェクト「熱中症ゼロへ」のリーダー・泉澤里帆さんだ。
「湿度が何%か、すぐにわからなくても、天気予報では湿度の影響を加味した暑さ指数ランク(※1)が示されます。暑さ指数が28以上になると『厳重警戒』、31以上になると『危険』となり、日常生活の指針としても不要不急の外出を避けるよう呼びかけられます。また33以上が予測されると『熱中症警戒アラート』が発表されます。それを聞き逃さないで、昼夜を問わずエアコンなどですぐに熱中症対策をしてください」(泉澤さん)
(※1)暑さ指数(WBGT)は、熱中症の予防を目的として1954年にアメリカで提案された指標。人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目し、【1】湿度、 【2】日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 【3】気温の3つを取り入れて導き出している。
【対策2】エアコンは必須。28℃超でスイッチオン!
熱中症対策が必要なのはわかっていても、今年は電気代の高騰もあり、75.2%の人が「エアコンの使用に、ためらいを感じている(※2)」という。
「2021年の東京23区の熱中症による死者の約8割は65才以上。その8割の家には、エアコンが設置してあるのに使っていませんでした。エアコンをつけていれば、死は防げたはずなんです。電気代の高騰がこの傾向に拍車をかけないか心配です」と言うのは、看護師の杉本弥生さん。
杉本さんは高齢化率約6割の都営戸山ハイツアパート(東京・新宿区)にある「暮らしの保健室」で、よろず健康相談にのっている(予約不要・無料)。
「私は毎年、地域の住民のかたを対象に、6月の暑くなる前から8月くらいまで、定期的に熱中症・脱水症講座を行っています。戸山ハイツにおいては救急搬送は年々減少してはいますが、それでも残念なことに、救急搬送されたり、亡くなるかたもいます。昨年も不幸にも4人くらいの高齢者が亡くなられたとご近所からの情報がありました。高齢者は家にいる時間が長く、限られた年金で暮らしているため、電気代の高騰は生活にダイレクトに響きます。『節約のために暑さはがまんできるからつけないでおこう』と考える人が多いのです。エアコンをつける目安は、気温が25℃を超えたら使用を検討し、28℃を超えたら必ずつけるよう指導しています。高齢者は体温の調節機能が落ちてくるため、暑さを感じにくい。ですので、自分の体感を信用せず、気温で判断するようにお願いしています。住宅事情によって、エアコンの冷房を寒く感じる場合は、ドライ機能を使ったり、扇風機を併用して住空間を快適に整え、熱中症リスクを排除してください。電気代より『命』の方が大切ですから」(杉本さん・以下同)
熱中症の症状を軽んじていると、どんどん重症化してしまう。だが、ちょっとした異変に気づいて対処すれば、最悪の事態は避けられ、予防もできる。史上最悪の猛暑に殺されないためにも、いまから徹底した熱中症対策をして、家族と自分の命を守り抜こう。
(※2)ダイキン工業による「電気代値上げとエアコンの節電に関する意識調査」(全国の男女528名に2023年5月24~26日実施)
【対策3】1日8回を目安にこまめに水分補給
もうひとつ、熱中症リスクを大いに高めているのは、水分補給が充分にできていないことだ。
「高齢者のかたがたに水分を摂っているかと聞くと、皆さん飲んでいると答えます。でも、さらに突っ込んで聞くと、夜中にトイレに行きたくなるので、夕方からは控えていると答えるかたが意外と多いんです」
成人の場合、体の約55~60%を水分が占めているが、高齢者は約50%しかない。もともと水分が少ないので、水分摂取を少し怠るだけで、若い頃より脱水状態になりやすいのだ。
「加齢によってのどの渇きを感じにくくなっているので、『のどが渇いたら』などと悠長なことを言っていては、水分不足に陥りやすい。さらに、大量に汗をかく夏は、一度に大量に水分を摂っても体内に充分吸収できないまま、汗や尿として排出されてしまいます。毎年『今年こそは、熱中症で命を落とさないように!』と強調し、具体的にお願いしているのが水分補給のタイミングを習慣づけること。朝起きてから、3食とその合間の10時、15時、入浴前後、就寝前の8回に分けて水分を摂る習慣をつけることをおすすめしています。毎日決まった時間に水分を摂っていれば、熱中症・脱水状態に陥るリスクは減らせます」
1回につきコップ1杯をゆっくりと、500mlのペットボトルなら、数回に分けて飲むのがおすすめだ。
【対策4】すいか+塩、みそ汁での水分・塩分補給も◎
水分補給は飲み物でなくてもOKだ。
「すいかに塩をかけて食べたり、食事の際にみそ汁を飲むのは、水分と塩分の両方が摂れるのでおすすめです」
すいかは約9割が水分で、夏野菜のきゅうりやトマトも水分が豊富。体を冷やす作用もあるといわれており、熱中症対策としても役立つ。
「ビールで水分補給をするというかたがいますが、アルコールには利尿作用があるため、のどの渇きは抑えられても体の水分補給にはつながりません。アルコールを飲む場合は量を控え、飲んだお酒の倍の量の水も飲むように指導しています。コーヒーや紅茶などカフェインが入った飲み物にも利尿作用があるため注意が必要です」
【対策5】料理中の湿度上昇で熱中症の危険度UP
夏の暑い日はできるだけ火を使わずに料理したいと思うものだが、実はコレ、熱中症対策としても有効なのだ。
「キッチンで火を使って調理すると、熱とともに蒸気による湿気が発生して高温多湿の環境が生まれるため、熱中症リスクが高まります。エアコンをつけて室温を調整し、こまめに水分補給を行いましょう。調理中も、体を適度に冷やせるグッズを利用し、できるだけ火を使わない調理方法に切り替えるといいでしょう」(泉澤さん・以下同)
キッチンにある保温系の家電は熱を持つので、こまめに電源を切ることも大切。また、脱衣所、洗面所などの冷房の効いていない場所、浴室などは、ほかの部屋に比べて高温多湿になりやすいため、こうした場所でも熱中症に注意が必要だ。
【対策6】寝ている間に足がつったら要注意
昼間に建物が温められると、夜になって外の気温が下がっても、室温がなかなか下がらないことがある。
「閉め切った室内では、夜間に室温が上がってしまう場合もあるので、適切に冷房機器を使用し、快適な睡眠環境を作りましょう。通気性や吸水性のよい寝具を使ったり、エアコンや扇風機を適度に使用したりして、睡眠環境を整えることが大切です。ぐっすり眠ることで体調がよくなり、翌日の熱中症予防につながります。寝ている間にも水分は失われるため、寝る前に水分補給をしたり、枕元に飲料を置いておくといいでしょう」
「寝ている間に足がつる」「朝起きたら体がだるい」といった症状があれば脱水症状のサインだ。
「夜にトイレに起きたくないからと夕方から水分を控えるのは命とりになる可能性もあります」(杉本さん・以下同)
【対策7】涼感が手のひらからじんわり全身に!
寝苦しくてなかなか寝つけないときは、エアコンを積極的に使用しつつ、手のひら冷却といって保冷剤などを両手に持つといい。手のひらの血管で冷やされた血液が全身を巡って深部体温を下げることができ、入眠しやすくなるのだ。ただし氷で冷やしすぎると血管が収縮してしまうので逆効果。15℃をキープするのが最適とされており、専用グッズも市販されている。
手で持つと15℃を2時間以上キープして手のひらから放熱、寝つきがよくなる。
【対策8】通気性のよい服&直射日光を遮る
暑さ指数が高いときは不要不急の外出を避けるのがいちばん。だが、どうしても必要なときは涼しい時間帯を選び、短時間で用事を済ませよう。外出時には、接触冷感や通気性がよく吸汗、速乾性にすぐれた素材、木綿や麻などの天然素材の洋服を着用するのがおすすめだ。
「タイトな服は熱がこもりやすいので避け、ゆったりした服を着れば、風を通し、熱がこもるのを防げます。手ぬぐいで保冷剤ポケットのついたネッククーラーを作り(下の写真)、首に巻いて冷やすのもおすすめです。出かける10分以上前から首を冷やして深部体温を下げておくと、体温の上昇を抑えられます」
冷感グッズに風を当てると、さらに涼しさを感じることができる。帽子や日傘で直射日光を遮り、必ず飲み物を持参し、こまめな補給も忘れずに。
・外出の10分前には首元を冷やす
市販の手ぬぐいを縫い合わせたネッククーラーは、洗濯機洗いOK。「暮らしの保健室」で販売中。