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連載

認知症の夫を支える妻たちが明かした本音に驚愕

 介護作家の工藤広伸さんは、盛岡に住む認知症の母を東京から遠距離で介護する傍ら、講演会、ブログ、書籍の執筆などで精力的にご自身の介護経験や情報の発信を続けている。

 そんな工藤さんが、先日出席したイベントで出会った女性たちの話が今回のテーマ。認知症の夫を介護しているという女性から聞いた思いがけない本音とは?

 * * *

 ある介護イベントに参加したわたしは、夫の認知症介護をする70代後半から80代前半の女性3人と、同じテーブルでお話しすることになりました。

 認知症の介護家族という同じ立場ではあるものの、わたしとは世代も性別も全く違います。それでも認知症の話になると、介護の悩みで共通する部分も多く、会話も盛り上がりました。

 そんな夫を支える妻たちの話す様子は、わたしがイメージする認知症介護家族とは、だいぶ違ったものでした。

認知症介護家族の集まりでの喜怒哀楽

 認知症介護家族が集まって話をするとき、その場の空気に喜怒哀楽が生まれます。今まで参加した介護家族の集まりで、特に40代、50代の女性が集まって話をするときは「哀」の感情が、場を支配することが多いです。

 孤独で誰にも相談できず、自分の親をひとりで介護する女性たちは、介護仲間に会えた、話を聞いてもらえたという安堵の気持ちから、涙を流してご自身の体験を語ることが多いように思います。

 その涙につられ、他の参加者も共感して涙する…。介護家族同士で、分かり合えた瞬間に、今までピンと張っていた気が緩み、自然と泣いてしまうのだと思います。

 涙と同じくらい、見かけるのが「怒」です。担当するケアマネジャー、介護職員への不満、迅速に動いてもらえない地域包括支援センターへの怒りなど、介護家族としての思いを吐き出し、スッキリして帰られる方もよくいます。

 「喜」「楽」といった感情でお話しされる方は、そう多くはないのですが、認知症介護歴が長い方や、達観して介護をされている方とお話しをすると、こういった空気になることもあります。

 わたしも認知症介護の道半ばではありますが、意識的にこの「喜」「楽」の感情を持つようにしていますし、そういった考えを持った家族とお会いできると、とてもうれしい気持ちになります。

 今回、テーブルを囲んだ女性3人が、まさにこの「喜」「楽」の感情で、ご自身の認知症介護の体験をお話ししてくださいました。わたしはてっきり「哀」の話になると思って覚悟していたので、そのギャップに驚いたのです。

参加女性3人のプロフィール

 最初、認知症介護をされている皆さんの状況を聞いて、わたしは相当ご苦労されているように思えました。

 1人目は、夫が脳梗塞を発症し、認知症らしき症状がみられるという方、2人目は、8年もおひとりで夫を介護してきたけど、何かのきっかけで、介護保険サービスを利用することができたという方、3人目は、100歳を超えた親を最近看取ったあと、今度は夫の介護が始まったという方でした。

 それぞれの話を聞き終わったところで、ある方がこのようにお話しされました。

「わたしはね、夫の認知症介護をしている今のほうがよっぽど楽しいし、幸せなんですよ」

 えっ? だって、お一人で8年も夫の認知症介護されていたのなら、それは大変でしょう。100歳の親を看取って一息つきたいのに、次は夫が認知症になったって、普通なら自分は不幸だと考えてもおかしくありません。わたしの父も脳梗塞になりましたが、麻痺がもし残ったら、介護がどれだけ大変か…それなのに、なぜ?

 実は、3人の妻たちに共通していたのは、「亭主関白」ということだったのです。

 認知症になる前、彼女たちの夫は、「女は3歩下がってついてこい」というタイプだったそうです。それが認知症になったおかげで、そういった偉そうな態度をとることがなくなり、今まで夫の言動にビクビクしながら生きてきたのに、その必要がなくなって、ホッとしているという話でした。

 夫に支配されていた自分の時間も、夫の認知症のおかげで、むしろ自由になったというのです。

 ある方は、夫をショートステイやデイサービスに送り出したあと、習い事をしたり、友人とお茶をしたりするようになったのだとか。

 3人の妻たちにとっては、認知症介護以上に、夫に尽くし、夫の言う事に従う日々のほうが大変だったというわけです。

それぞれ違う自分の中の大変さの基準

 皆さんにとって、今一番大変なことは何でしょう?

 仕事でしょうか?兄弟や親族との人間関係でしょうか?ご自身の健康問題でしょうか?子育てでしょうか?

 認知症の介護をしているというだけで、誰もが大変なものだと思ってしまいます。しかし、その人自身の中で、認知症介護よりも大変な経験をされ、それを乗り越えた経験があれば、相対的に認知症介護もそれほど大変ではないと思えることもあります。

 さすが人生の先輩方。認知症介護という新しい苦労を、つらい、苦しいと言わない姿に感銘を受けました。

 30分の短い時間でしたが、イベントは終始笑いに包まれ、誰も泣くことなく終了しました。認知症について笑って話すことができたこともよかったし、同時に勇気を頂いた気がします。

今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

このシリーズのバックナンバーを読む

●認知症介護 「褒める」を実践した人たちから届いた声とは

●「せん妄」を認知症と間違わないために知っておくべきこと

●自分の便をいじってしまう「弄便(ろうべん)」その対処法

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