夫の定年後に妻が備えるべきこと「親の介護費用、退職翌年の住民税」ほか実例に学ぶ
定年退職を迎えると収入が減り、不安を感じる人も少なくない。手取りがいくらになり支出はどれくらいになるか、正しく知れば未来の不安も減らせるはず。定年後は何にお金がかかるのか、専門家と体験者に聞いた。
定年後は収入は減るが非消費支出も減る
金融庁の「老後30年間で約2000万円が不足する」という試算を発端に、老後は2000万円必要だと思われてきた。しかし、今後70才まで働くのが当たり前になれば、そこまで心配する必要はなさそうだが…。
ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんもこう話す。
「定年後は確かに収入が減ります。しかし、支出も減ります。ですから、やみくもに“足りなくなりそう”などと不安になるのではなく、まずは自分の手取り収入がどう変わるかを知ることが大切です」
再雇用後の手取り収入、退職金の手取り額、原則65才からもらえる年金受給額など、手取りでいくら入るのかを調べるといいという。
参考までに、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」の統計によると、2019年の税込み年収の中央値は、57~59才で約350万円、60~64才で約280万円、65~69才で約180万円だ。
「このように収入が減れば、所得をもとに算出される税金や社会保険料などの『非消費支出』も減ります。ですから、手元に残る金額が現役時代に比べて大きく減るかといえば、そうでもありません。
とはいえ、定年後の70才以降は再雇用も就職も難しく、フリーランスなどで稼ぐ生活が想定されます。夫婦で働き、月約5万円ずつ稼いで、合計約10万円を年金収入にプラスする方法が望ましいでしょう」(井戸さん・以下同)
いちばんの想定外は親の介護費用
定年後の支出として、非消費支出が減るのはわかったが、予想外の出費も増える。その一例が上記だ。
特に、多くの人から“意外とかかった”という話が出たのが、親の介護費用だ。親の財布から出せばいいと考える人もいるだろうが、入院の一時金、見舞いの交通費などが、想定外の支出になる。
「継続的にかかる介護費用の平均は約8万3000円で、高額介護サービス費で4万4400円を補助されても、4万円程度は持ち出ししていることに。思っていたより親がお金を持っておらず、子供が払わざるを得ないケースもよくあります。親が高齢者施設に入る際、入居一時金が不足して子供が補塡したという話もよく聞きます」
定年後に困らないためにも、親の資金状況を把握しておくことが必要だという。
「お盆などで帰省した際、“お母さんをサポートしたいから、いざというときどうしたらいいか教えてほしい”などと親の意向を確認しつつ、通帳やクレジットカードの整理を一緒にしましょう」
読者からは、
「親がポイントカードだと思っていたカードが実はクレジットカードで、いつの間にかドラッグストアで約10万円もの枕を買わされていた」
「引き出しから思わぬ請求書が出てきて、90代の親に借金があったことを知った」
という声も。親の財布は、自分で管理できない部分だからこそ、“想定外”が起こりやすいのだ。
60才以降は病気やけがの可能性が高まる
次に多い想定外の出費が、自分や夫の急なけがや体調不良だ。まだ若い、まだ動けると思っていても、60才を過ぎたら何が起きてもおかしくない。65才で定年を迎えると同時に夫の介護生活に入ったという妻も少なくないという。
一時的な疾患で終わればまだしも、それを機に働けなくなったり、住み替えを余儀なくされると出費もかさむ。
「私の夫も定年後の69才のとき、外出中に転倒し、40日間入院。退院後もリハビリ生活を送ることになりました。その入院や治療で病院に払ったお金は約25万円。健康保険の適用で3割負担でしたし、高額療養費制度も使いましたが、意外に出費が多かったです。というのも、当時はコロナ禍でパジャマなどの持ち込みができなかったため、有料レンタルサービスなどの雑費がかかりました」
ただし、けがの場合、働いている人なら労災保険が下りるケースもあるという。
「通勤中や職場でけがをした場合、フリーランスなどの雇用形態を問わず、労災保険が使えます。勤務先の健康保険に入っていれば傷病手当金ももらえます」
いずれにせよ、介護が必要になった際、介護保険サービスや障害年金などの公的な制度を申請できるよう、いまから情報収集しておきたい。そのほか、どんな支出があるかは上記を参考にしてほしい。人生は想定外の連続。社会的には長く働ける制度が整いつつあるが、実際に夫婦ともに働ける期間は短いかもしれない。無理なく働けるよう、ライフプランを練っておきたい。