猫が母になつきません 第358「はは」
明日施設に入所するという日の前の晩。いつものように深夜に母が起き出して私の部屋に来ました。私はもう寝ていましたが母が部屋に入って来たことには気がつきました。いつもなら私を揺り起こして話しかける母が、その日は私の肩まで覆うようにそっと布団を掛け直してくれて黙って部屋を出ていきました。私は母に施設に入るとは言わず、幼馴染みのところにまた遊びに行こうと言っていました。母は施設でいろんな人とおしゃべりしたのが楽しかったらしく、また行きたがっていましたし、自分が今いる場所がよくわからなくなっていて「ちょっと行ってくる」とすぐそばに施設があるような感覚で行こうとしたりもしていました。「明日行こうね」「行ってもいいの?どこに泊まるの?」「お部屋たのんでおいたからそこに泊まればいいよ」「そう、じゃいいわね」。日付や場所やいろんなことが曖昧になって、いろんなことをすぐ忘れてしまう母を私は曖昧な説明で施設に連れて行こうとしていました。そしてそのまま家のことも忘れて施設で楽しく過ごしてくれたら…。最後の夜、ずっとわがままな子供のようだった母がなぜか急に母親らしい振る舞いを見せたこのシーンは、何度も何度も繰り返し私の脳裏に浮かんで、夢を見ていたような気持ちになるのです。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。
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