猫が母になつきません 第357話「かばん」
母はかばんに強いこだわりを持っています。スーパーに買い物に行くときなどお金は私が出すので母は手ぶらでもいいのですが、かならず自分のかばんを持って出ます。私が「かばんいらないから家に置いておいたら?」と言って持たずに出ようものなら「かばんは?かばんは?」とずっとかばんを気にするので好きにさせることにしました。しかし持ったら持ったで「忘れる」という心配が常にあって「持ってたのこのかばんだけだった?」と別のかばんを探すのです。この日はどこにも出かけていないのに「実家にかばんを忘れてきた」と言って「すぐにでも取りに行かなくては」という衝動にかられる母。ひとりで外に出て言ってしまわないように要警戒です。かばんから気をそらせようと他の話題をしたり、デザートを食べさせたりしてもなかなかうまくいきません。認知症の「こだわりの法則」。認知症によって判断力・思考力・制御力のコントロールできなくなり、人の言葉が入っていかないのでいつまでも「こだわり」が続きます。実家にいる伯父に電話をして「うちに忘れていないよ」と言ってもらっても「私が押入れに隠したから見つけられないんだわ」と。実際、家にいてもよくかばんを隠して忘れてしまい大騒ぎします。探しているのが実在のかばんとは限らないのがやっかい。ずっと昔に使っていたかばんも復活するし。今母はすごい物持ちなのです。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。