おひとりさまの「終活」失敗事例から学ぶまずやるべきこと・死後の手続きチェックリスト
では、そもそも“任せられる人”とは何なのか。
「本人の医療・介護の支援、お金などの意思決定の支援、逝去後の事務などを法律的に行う権限がある人を指します。役割は大きく分けて2つ。1つは、支払いが滞った際の連帯債務保証で、もう1つは契約者本人の最終的な身元の引き受けを保証する役割です。特に選定しなければ、通常は家族が担うことになります。その責任と負担の大きさを考えると、友人や知人には荷が重く、家族以外だと身元保証等高齢者サポート事業者といった専門業者に依頼するケースが多いといえます」
家族以外に老後のさまざまな処理をお願いする場合は、3種の契約を法的に結んでおいた方がいいという。
「体は不自由なものの自分に判断能力がある場合は、“委任契約”を行っておくと、困ったことが生じるごとに依頼すれば助けてもらえます。しかし、認知症などで判断能力がなくなった場合は、“任意後見契約”を結んでおかないと、銀行口座からお金を引き出したり、入院や老人施設への入居手続きなどはしてもらえなくなります。さらに逝去後は、“死後事務委任契約”が必要となります。これをしないと、遺体の引き取りや葬儀・墓の手配、逝去後の各種届出の提出などをしてもらえなくなります」
いずれも、この人(あるいはこの事業者)と決めた相手との間に契約書を交わし、公正証書を公正役場に提出する必要がある。特に任意後見契約は、将来、認知症になった場合に必要不可欠となるため、この契約だけでも、と締結する人が増えているという。
「任意後見契約を結ぶ前に認知症を発症して判断能力がなくなった場合、4親等以内の親族が申立人となり、家庭裁判所に後見人を選んでもらうよう申し立てをすることになります。これを法定後見制度といいます」
たとえば、家族や親族と疎遠なまま認知症を発症したとする。すると、家庭裁判所が互いを知らない親族を後見人に選ぶ可能性もある。そのため、それまでの人生を知らない親族により、望まない待遇を受けることもあるという。
また、裁判所が選んだ後見人等については、不正がないよう監視する体制はあるものの、充分に機能しているとはいえないこともあるという。自分で判断ができなくなった後でも、納得のいく対応をしてもらうには、やはり元気なうちに信頼できる人を選び、任意後見契約を結ぶことが大切なのだ。
では、信頼できる人はどうやって探したらいいのか。法律に詳しい士業等の専門家は頼もしいが、介護や細かい生活支援については専門外で、費用も高くなりがちだ。そのため、身元保証等高齢者サポート事業者といった専門業者に依頼するのもおすすめだという。終活ビジネスが注目されつつあるいま、これらの事業者は年々増えている。しかし、まだ業界団体や監督省庁がないため、事業者は厳選した方がいい。
「事業者が提案するサービスが、どこまで適用されるのかしっかり確認しましょう。たとえば“身元保証だけ行う”という事業者は危険。入院の際の身元保証人になるだけで、お金の管理も含めた生活支援を含んでいないケースがあるからです。基本的に、身元保証・委任・任意後見・死後事務委任をセットで行う事業者でないと、動けなくなったときに意味がないと思います」
他人に老後を任せるときに結んでおきたい3つの契約
【1】委任契約
<契約内容(一例)>
・自分の意思を自分に代わって医療従事者に伝える
・老人ホーム見学の付き添い、選定の相談
・老人ホーム入居の際の身元保証人
・手術後の帰宅の付き添い
・金融機関の手続き支援
・不動産売却の相談
<備考>
必要に応じて、親族または双方合意して契約を結んだ第三者に依頼する
【2】任意後見契約
以下の「任意後見契約を結ぶと依頼できること」を参照。
<備考>
契約後に認知症などを発症し、自分で判断ができなくなったときに効力を発揮する
【3】死後事務委任契約
<契約内容(一例)>
・遺体の引き取り
・遺産分配を除く事務全般
・葬儀主宰者の指定(葬儀、火葬、納骨)
<備考>
認知症の人は契約の締結ができないので元気なうちに契約を
◆任意後見契約を結ぶと依頼できること(一例)
■財産の管理
・不動産の管理(賃貸の場合は契約や更新も)
・預金の預け入れ・引き出し
・年金の入金確認や受け取り
・税金や公共料金の支払い
・生命保険や火災保険などの支払いや受け取り手続き
・通帳、キャッシュカード、保険証書、不動産権利書など、重要書類の管理
・遺産分割協議の交渉や訴訟などの相続手続き
■介護や生活面の手配
・日常的な生活費の管理
・住民票や戸籍など必要書類の受け取り
・介護関連の申請手続き
・介護サービス提供機関との契約や費用の支払い
・病院ほか医療機関の契約手続き、入院の手続き、費用の支払い
・老人ホームの体験入居の手配、入居契約の締結手続き
専門業者の相場は150万~200万円
費用や支払い方法も事業者によって異なる。月額契約なのか一括払いなのか、死ぬまでにいくらかかるのか、明確にしている事業者かどうかも見極めるポイントになる。
「委任契約から死後事務委任契約まで、一括で150万~200万円が相場です。大幅に安い場合は、サービス内容が中途半端で、いざというとき、手続きしてもらえないケースがあります」
家族がいない、いても頼れない、頼りたくない場合でも、いまは“家族の代わり”にサポートしてくれる体制があるので安心してほしい。しかしどれも事前の契約が必要だ。墓を決めたり、遺言書を書いたりする前にまずは、自分の権限を安心して託せる相手を探そう。
※ここでいう家族とは、主に4親等以内を指す。
◆こんなにある!自分ではできない死後事務は死後事務委任契約者に任せよう
■各種手続き
□ 死亡届の提出
□ 葬儀、埋葬の手続き
□ 年金の支給停止
□ 健康保険、介護保険資格喪失届の提出
□ 病院や施設の支払い、退会手続き
□ 預貯金などの資産や遺品の整理
□ 家賃や公共料金などの支払いや解約といった各種手続き
□ 住民税、所得税、固定資産税などの手続き
□ SNSなどの個人情報の消去
□ 電気・ガス・水道・スマホ・Wi-Fiなどの解約や支払い
□ クレジットカードの解約等の手続き
■葬儀
□ 葬儀の手配
□ 墓の手配・納骨
■荷物
□ 家財道具の処分
■その他
□ 友人・知人への通知
□ ペットの引き取り手を探す
□ パソコンやスマホのデータ消去
教えてくれた人
司法書士 太田垣章子さん
OAG司法書士法人代表。30才のときに離婚し、仕事と育児をしながら司法書士試験に合格。終活問題に詳しく、『家族に頼らない おひとりさまの終活~あなたの尊厳を託しませんか』(ビジネス教育出版社)などの共著がある。
取材・文/前川亜紀 イラスト/白ふくろう舎
※女性セブン2023年5月4日号
https://josei7.com/
●おひとりさまが明かす「真の友達」との関係|終活ジャーナリスト・金子稚子さん、ピアニスト・ホキ德田さん