おひとりさまの「終活」失敗事例から学ぶまずやるべきこと・死後の手続きチェックリスト
死後はもちろん、認知症や意識不明の状態になるなどして、自分では何も決められなくなったとき、家族がいない“おひとりさま”はどうなるのか――“おひとりさま”だけではない。家族がいても迷惑をかけたくない人、遠方にいて駆けつけてもらえない人は年々増えている。納得のいく最期を迎えるために、私たちがすべきことは何か。実例とともに解説する。
終活をしないと孤独死&無縁仏に
東京都に住む56才の会社員Tさんは、ある同僚女性のことが忘れられないという。
「私と同期入社のWさんは3年前、出勤途中に倒れ、意識不明のまま病院に運ばれましたが、そのまま亡くなりました。急性心筋梗塞でした。彼女は未婚で子供もおらず、両親はすでに他界。一人っ子のため、きょうだいもいませんでした。社内では葬式はどうなるのだろうなどと囁(ささや)かれていましたが、死後の事務手続きを誰にも頼んでいなかったようで、結局行われませんでした。まだ53才と若かったので、終活をしていなかったのでしょう。噂では、行政が手続きを行い、共同墓地に埋葬されたそうです」
終活をしていなかったせいで、誰にも看取られずにひとりで死に、葬式も行われず、無縁仏として埋葬されたのだ。Wさんと同じ独身で身寄りのないTさんにとって、彼女の最期は他人事と思えず、すぐに終活を始めたという。
「とりあえずエンディングノートと遺言書を書きました。死後は親の墓に入る予定です」と、Tさんは言う。
日本の法律はおひとりさまに厳しい
現在、女性の生涯未婚率(※)は、17.8%(男性は28.3%)。つまり女性の5~6人に1人が“おひとりさま”だ。ところが、日本の法律はいまだおひとりさまに厳しいという。
「日本のさまざまな手続き、特にお金に関すること・命に関することは、すぐに連絡が取れる“家族”がいる前提で作られています。自分の意思が伝えられなくなった場合の入院手続きも、死後の事務手続きもすべて決定権は家族にあり、それ以外の人間は、通常できません」
とは、司法書士の太田垣章子さんだ。Wさんのように家族がいないのに終活をしていないまま亡くなると、たとえ貯金があったとしても他人が自由に引き出せないため、病院に治療費も払えない。遺体の引き取りや葬儀・墓の手配もしてもらえないため、無縁仏として行政に埋葬されることになる。
人生の最終段階の決断を他人に任せるのではなく、自分で決めたいなら、老後と言わず、まだ体も脳も元気に動く50代のうちに、終活を始めた方がいいのである。
(※)『少子化社会対策白書』(2022年内閣府)より。
墓も遺言書も後回しでいい!まずやるべきはコレ!!
終活の第一歩は「(※)任せられる人」を決めることから
(※)本企画でいう“任せられる人”とは法的権限を持った取りまとめ役を指す。
終活とは、自分がどう生き、どう死ぬかを決めて終わりではない。“その権限を誰に託すか”が最も大切なのだ。その方法を紹介する。
近年、俳優の財前直見や秋野暢子、芸人のいとうあさこら著名人が終活をしていることを告白しているせいか、おひとりさまで終活を始める人が増えつつあると、太田垣さんは言う。
終活は面倒だからと後回しにせず、早めに始める人が増えてきたのはいい傾向だが、一方で、終活の考え方や進め方に対する誤解が多く、前出のTさんの終活も無駄になる可能性があるという。
「終活ブームの影響で、家族がいない、あるいは頼れない人たちがエンディングノートを書き、友達と老後の助け合いを約束し、墓を買うケースが増えています。これで終活は完璧だと安心している人が多いのですが、ノートに書かれた内容を誰が実行し、墓に埋葬する手続きは誰がするのか、そこまで決めていないと意味がありません」(太田垣さん・以下同)
2022年に亡くなった女優の島田陽子さん(享年69)は生前、自分が入るための墓を用意していたものの、遺体を引き取る親族がおらず、一時期無縁仏になった。これも、家族以外で死後事務手続きを任せられる人を法的に決めておかなかったために起きた出来事だ。上記のような入院時のケースでも、手続きを任せられる人(この場合、身元保証人)が求められる。
Tさんもこのままでは同様の失敗をすることになる。
「最近増えているのは、上記の例にもあるように、自分が入院したときなどの手続きを、友人や知人に“口約束”でお願いするケース。友人や知人は、家で倒れていたときに救急車を呼ぶことはできますが、手術や入院の手続きはもちろん、遺体の引き取りや葬儀・墓の手配などはできません。原則的に他人がこれらの手続きをするなら、法的な契約を結ぶ必要があります」
このケースの場合、救急搬送された病院が、身元保証人不在でも緊急特例として受け入れてくれたが、リハビリ病院に転院するときは、身元保証人を求められたという。