精神科医・和田秀樹さんが教える「60代うつ」を乗り越える方法 日常生活に現れる兆候のチェックリストも
60代は大切なものを失ったと感じる「喪失体験」が多く生じると言われている。社会的地位や肩書きに縛られず、心も身体も充実した第二の人生を生きるにはどんな心持ちが必要だろうか。61才でうつを経験した女優の小山明子さんの実体験をもとに、精神科医の和田秀樹さんに60代のうつの壁を超える方法を教えてくれた。
「人との交流」は脳を活性化させる
健康意識の高まりや医療技術の進歩により、日本人の平均寿命は世界でもトップクラスになった。人生100年時代と言われる中で、定年退職や生活環境の変化により60代でうつを発症する人も増えつつある。
年を重ねると身体機能が低下し、人と会ったり話したりすることが億劫になりやすく注意が必要だ。
「人とのコミュニケーションは最高の脳トレになります」
そう語るのは精神科医の和田秀樹さんだ。
「誰かと言葉を交わすことで脳は活性化します。いじめられている子供の中でも親友がいて話ができる場合は自殺しないケースが多いと確認されており、話を聞いて悩みや苦しみを共有してもらえた実感はメンタルヘルスにおいて非常に大切です。
いくつになっても趣味や社会活動などを通じて、人と交流することはうつを防ぐためにとても有効。井戸端会議でも電話でもいいから誰かと話してほしい」(和田さん)
61才でうつを経験した小山明子さん「人との交流で社会復帰」
61才でうつになった女優の小山明子さん(88才)を窮地から救ったのも、まさに人との関係だった。
「水泳教室が終わると、近所の鮮魚店で魚を買うことが日課になりました。その鮮魚店のおばさんがすごく威勢がよく、魚のいろいろな調理法を教えてくれて、主婦ってこんなに楽しいんだと初めて感じました。
それまでの私は女優としてしか社会とつながっていなかった。だから大島を看病していても、うつになったときもずっと内に閉じこもっていました。だけど鮮魚店のおばさんとの出会いで、初めて主婦として社会とつながることができたんです。
また、朝早くから地域のゴミ出し当番に参加するようになったらご近所にも顔見知りができ、当番後に朝ご飯をごちそうになるようになった。ほかにもヨガ教室のメンバーや子供の友達のお母さんとの関係が広がり、人との交流で心が豊かになって社会復帰につながりました」(小山さん)
趣味はリラックスのためにあることを肝に銘じたい。思わぬ「若返り効果」があるのは、学生時代の友人や同郷の仲間との再会だ。
「青春時代に同じ時を過ごした人たちと何十年ぶりに再会し、食べて飲んで楽しく昔話をすると、気分がどんどん若返ります。気がついたら、中学生の頃の顔に戻っているかもしれません」(和田さん)
女性の場合は、おしゃれや恋愛を楽しむこともうつの予防効果が期待できる。
「おしゃれをすると行動範囲が広がり、脳の若返りと活性化を促します。また恋愛をすると相手の反応にハラハラドキドキして脳が活性化し、気持ちが前向きになって肌ツヤなど外見にもいい影響があるので“もう年だから”とあきらめず、どんどん挑戦してほしい。ただし恋愛がトラブルに発展するとうつを促進するかもしれないので、のめり込みすぎないことも大切です」(和田さん)
年齢に関係なく、いくつになっても恋愛はできるのだ。