60才からのうつ対策「おすすめは肉食、焼き鳥やもつ煮込み」食事や食べ方を専門医が解説
医学の進歩や生活環境の向上で年々延びている日本人の寿命。その反面、長くなった老後に不安を感じ、定年退職や夫婦、交友関係の変化により「うつ」になる高齢者も増えている。うつを防ぐには食生活を見直し、脳と関係がある「腸」を健康にすることが必要だと専門家はいう。高齢者の「うつ」を予防する食事法を紹介する。
腸の不調がうつを引き起こす原因に
人生100年時代が到来し、還暦と同時にみられる「60才からのうつ」が増えている。気分の落ち込みや疲れ、不安、不眠といったさまざまなうつの症状を訴える人の食事には共通する傾向があるという。
人間の体は食べたものでできている。うつ対策は「食事」のコントロールも必要不可欠だ。この分野で近年、注目されているのが「脳腸相関」。脳と腸が密接に関係し、互いに影響を与え合うことを示す。
松生クリニック院長の松生恒夫さんが解説する。
「小腸と大腸を合わせた腸の中には約1億個の神経細胞があります。これは約1000億個ある脳の神経細胞に次ぐ数で、腸は『第二の脳』と呼ばれます。人間の体は基本的に脳の指令でコントロールされますが、多くの神経細胞を持つ腸は脳の指令に従うだけでなく、独自に働くことができます。それほど重要な働きをする腸は、脳と約2000本の神経線維でつながり、『脳腸相関』というネットワークを形成して互いに影響し合っています」
松生さんは、食事が腸を通じて、脳に影響する可能性を指摘する。
「便秘に悩んでうつ状態になり、心療内科で抗うつ剤を処方された患者が、治療で便秘が改善すると明るくなっておしゃべりを始めるまで回復したケースがあります。ほかにも患者の腸が整ったら、うつ症状がよくなった例もある。栄養バランスが偏った食事で糖質や脂質の摂取量が増えて野菜が減ると、排便力低下で腸がダメージを受けるので、バランスのよい食生活を心がけてほしい。納豆やみそ、キムチやザーサイなどの植物性乳酸菌を意識して摂ることも大切です」
『60歳うつ』の著者で、メンタルクリニックオータム院長の秋田巌さんも「60才のうつは栄養不足で生じるパターンが多い」と指摘する。
「現代の日本人は糖質を過剰に摂取し、たんぱく質や鉄分、ビタミンやミネラルの摂取量が絶対的に少ない。実際に高たんぱく低糖質食に切り替えて足りない栄養素を補うと、多くの患者のうつ症状が改善します。肉や魚でたんぱく質を摂り、不足分はプロテインやサプリメントで補うと効果的です。女性は急に低糖質食に変えると体調を崩しやすいので、緩やかに糖質制限することもポイントです」
高齢者こそ「肉」を食べよう
精神科医の和田秀樹さんが「60才うつ」の対策としてすすめるのは「肉食」だ。
「年を重ねるほど肉を控えるようにいわれますが、肉を食べるとうつを予防するセロトニンが増加するので、シニアこそ肉を食べるべきです。高齢になれば動脈硬化を予防するよりも自分が食べたいものを食べた方が低栄養を防ぎ、うつの原因になるストレスも軽減できます。私のおすすめは栄養価が高く安価な焼き鳥ともつ煮込みです」
オリーブオイルを使い、豆類や魚介類、野菜や果物が中心の「地中海食」がうつ病の発症率を減らすとの研究もある。
“ソロ飲み”は孤独感が増す可能性もあり注意
何を食べるかではなく、「どう食べるか」も肝要だ。
「夫婦が家の中で差し向かいでいつもと同じメニューを黙々と食べるのではなく、たまには外食して気分転換することも必要でしょう。食べるもの、食べる店、食べる相手を変えると脳を刺激して老化を防げます」(和田さん)
ただし、アルコールの摂取には気をつけたい。
「過度のアルコール摂取はセロトニンの分泌を減らし、うつ症状を進行させます。酒を断つ必要はありませんが、晩酌は日本酒なら2合、瓶ビールなら2本程度にとどめましょう」(和田さん)
うつが疑われる場合は、飲み方にも注意がいる。
「特に喪失体験に直面した中高年男性がひとりでお酒を飲むと孤独感が強くなり、どんどん自分の世界に入り込んで悲観的になっていきやすい傾向にあります。うつっぽい人は“ソロ飲み”を避け、誰かと一緒に飲むことが大切です」(精神科医の片田珠美さん)
教えてくれた人
松生恒夫さん/松生クリニック院長、秋田巌さん/『60歳うつ』著者でメンタルクリニックオータム院長、片田珠美さん/精神科医、和田秀樹さん/精神科医
文/池田道大 取材/平田淳、三好洋輝、村上力
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号
https://josei7.com/
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