井上順さんが語る補聴器生活20年「難聴を公表したらたくさんの優しさに巡り会えた」
井上:そう。確かに、日常生活にはいろんな雑音があります。でも、気になる音はお店で調整してもらえるんです。ぼくは毎月1回、リオネット補聴器のお店にメンテナンスに行ってますが、その都度、「いま、こういう音が気になっているんです」と相談する。それに応じて、お店のかたが補聴器を調整してくれます。
で、その調整が自分に合っているかどうか、つけたまま店の外に出て、建物の周りをぐるりと1周散歩しながら確認してみる。いろいろな音を聞きながら快・不快を確かめるんです。
1回の調整ですべてが100%になるわけでなく、ちょっとずつ、ちょっとずつ改善して自分の体に合わせることでよりよい補聴器になっていくんです。
補聴器は難聴になった人生を照らす道しるべ
オバ:補聴器を少しずつ自分の体になじませていくって、いい言葉ですね。
井上:そうすると、なんとなく愛情が湧くじゃない。補聴器は単なる道具でなく、難聴になった人生を照らす道しるべ。自分の体の中に機械的なものが入るのに抵抗感を持つ人もいるかもしれませんが、助けてくれるもんだと思えば、自分の体の一部であり、相棒みたいに感じられるんです。
オバ:なるほど。それにしても、こうして見ると、補聴器ってずいぶん小型化されているし、カラフルになっているんですね。
太田:ちなみに、順さんが今日つけていらっしゃる超小型の両耳タイプは補聴器のふた色が耳の穴の色に合わせたチョコレート色になっていますが、この色は弊社のオリジナル色です。耳の中の色に合わせるため、いろいろな色を試して作りました。
井上:ぼくは職業柄、耳かけ型は選ばなかったけれど、耳かけ型の色合いがきれいで、女性のかたはアクセサリーのようにファッション感覚で使えるんじゃないかな。素敵だと思いますよ。
オバ:本当ですねぇ。私の母がつけていた昔の補聴器と比べると、ずいぶん進化していて…補聴器に対するイメージがすっかり変わりました。順さんにとって、補聴器のある暮らしはいまや自然なものですか?
井上:補聴器をつけてもう20年。補聴器なしにぼくの生活は成り立ちません。一年365日、就寝時と入浴時以外はつけています。朝起きてベッドの脇になかったら、そりゃもう大騒ぎです。
オバ:じゃあ、朝起きたらすぐにつけて、食事中も?
井上:もちろん。だってこれなしには野原さんと対談できなくて、「筆談でお願いします」ってなっちゃいますよ。
オバ:あらま(笑い)。
井上:いまさらながらですが、音がきちんと聞こえる生活はいいものですよ。補聴器をつけてから、それまで忘れていた、おしんこを食べるときの「ポリポリ」とか、せんべいの「バリバリ」だとか、そんな音が聞こえるようになって、それだけでも喜びなんですよ。音があるとよりおいしさを感じられるから不思議です。
オバ:順さんは、仕事のとき、ご自分が補聴器をつけていることを相手に知らせるようにしていますか?
井上:ええ。仕事前に「難聴です。それでよかったら」と言うようにしています。
そういえば、7年くらい前ですか、渋谷の本屋で(脚本家の)三谷幸喜さんにばったり会ったとき、「NHKの大河ドラマ(『真田丸』2016年放送)の脚本を執筆中ですが、順さんにお願いしたい役があるのですが…」と声をかけていただいたんです。そのときも「補聴器をつけてたら時代劇はさすがに無理でしょ」と返しました。でも、三谷さんは「大丈夫ですよ」って誘ってくださって。で、ふたを開けてみたら、ぼくは織田有楽斎役で、頭巾をかぶっている役どころでした。
オバ:あらら(笑い)。
井上:まぁ、それは笑い話ですが、難聴を公表してから、たくさんの優しさに巡り会えて本当にありがたく思っています。
オバ:難聴を通して得たものも多かったんですね。
井上:この耳が難聴になって、自分が素直になれたことを尊く思います。若い頃はこんなに謙虚じゃなかったから。きっと神様が難聴を通して、「人の気持ちを理解しなさい」って教えてくれたんだと思います。いま、周囲の温かさと新しい世界に改めて感謝しています。
■補聴器購入までの主な流れ
【1】医師の診断
【2】お店に相談
【3】聴力測定
【4】補聴器の選定
【5】補聴器を試す
【6】補聴効果の確認
【7】試聴器の貸し出しまたは購入
【耳あな型の場合】
【1】耳の穴にスポンジまたは綿球を挿入 【2】印象材を耳に入れ、型を取る
【3】取った耳型を店からメーカーに送る
【4】オリジナルの補聴器が出来上がる
プロフィール
■オバ記者/野原広子、65才。1957年、茨城県生まれ。体当たり取材を得意とする本誌名物ライター。最近ちょっと聞こえづらいことが増えたのが悩みで、昨春看取った母(享年93)が補聴器の愚痴を言っていたことや聞こえが悪いと不機嫌になったことを思い出すという。
■井上順/1947年、東京都生まれ。76才。16才で「ザ・スパイダース」に加入。堺正章(76才)とのツインボーカルで人気を博す。解散後は歌手・司会・俳優と多方面で活躍。日々の活動やダジャレをつぶやくTwitterが好評。初エッセイ『グッモー!』(PARCO出版)を刊行。
取材・文/北武司 撮影/矢口和也
※女性セブン2023年3月2・9日号
https://josei7.com/
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