「『8時だョ!全員集合』は全部のバランスが秀逸だった」高木ブーインタビュー|連載 第83回
「体操のコーナーのときの仲本は、本当に生き生きしてた」――。ドリフターズの人気を不動のものにした伝説の番組「8時だョ!全員集合」は、今も多くの人々の記憶に残っている。後半のコントで大活躍したのが、体操服姿の仲本工事さんだ。高木ブーさんが、ハードだったけど楽しかった「全員集合」の思い出をポツリポツリと語る。(聞き手・石原壮一郎)
体操コーナー、「ハイ、ポーズ」はラスベガスのショーをヒントに生まれた
「8時だョ!全員集合」という怪物番組がなかったら、その後のドリフターズもない。たいへんな16年間だったけど、楽しい思い出もいっぱいある。最高視聴率は50.5%(1973年4月7日)だったらしい。そのときは局やスタッフが大騒ぎだったな。
番組のメインはやっぱり前半のコントで、ネタ作りもリハーサルもいちばん時間をかけてた。毎週木曜日に翌週のネタを決める会議があったんだけど、長さん(いかりや長介)が納得するまでは終わらない。午後3時頃から始まって、夜中まで延々やってたな。そうやってギリギリまで粘ったからこそ、面白いものが作れたんだろうけどね。
前半のコントだけじゃなくて、ほかのコーナーも充実してたのが、「全員集合」のすごいところだったと思う。少年少女合唱隊がなかったら、志村(けん)の「東村山音頭」も「ドリフの早口言葉」も生まれなかった。加藤(茶)の「ちょっとだけよ」も、後半のコントでいきなり出てくるのがよかったよね。合間には人気歌手がヒット曲を歌ってくれる。盛りだくさんだったし、全部のコーナーのバランスが秀逸だった。
後半のコントの名物のひとつといえば、仲本の体操コーナーだよね。以前に仲本がインタビューで話してて思い出したんだけど、いちばん最初に仲本とマットの上で体操をしたのは、宇多田ヒカルちゃんのお母さんの藤圭子さんだった。たぶん、最高視聴率を記録した頃だったと思う。もの静かなタイプの藤圭子さんが、必死ででんぐり返しや腕立て伏せをしてる姿が大ウケしたのがきっかけで、独立したコーナーになったらしい。
あのコーナーをやってるときの仲本は、本当に生き生きしてた。中学高校とやってた体操がコントで役に立つ日が来るなんて、ぜんぜん想像しなかっただろうね。ミュージシャンとしての仲本とは、ドリフの前も含めてそれまでに10年以上の付き合いがあったけど、体操が得意だなんて話は聞いたことがなかった。最初の体操のコントは、どういうきっかけでやることになったんだろう。長さんに「なんかないか」って言われて、苦し紛れで「僕、体操できます」って言ったのかな。本人に確かめたいけど、それはもうできないんだよね。
アイドルたちも、みんな楽しんでた。いろいろな女性アイドルが出てたけど、仲本はやっぱりキャンディーズの3人が、動きもコントを盛り上げるカンもずば抜けてたって言ってたな。男性アイドルだと、西城秀樹君やにしきのあきら君の動きが、横から見てても抜群だったね。
途中から、うまくいってもいかなくても「ハイ、ポーズ」と言いながら決めポーズをするようになった。あれはメンバーみんなでアメリカのラスベガスに行ったときに、マッチョな男性ダンサーが肉体美を見せるショーをやってて、それをヒントにしたんだよね。
楽しそうにやってた体操コーナーだけど、仲本はすごく神経を使ったんじゃないかな。出てくれてるアイドルは運動神経も体の硬さも人それぞれだけど、絶対にケガをさせるわけにはいかない。楽しく盛り上げて、流れによっては最後はちょっとだけ負けたりもする。本番当日は入念に準備体操をして、リハーサルをしながらこの人にはどこまでやらせて大丈夫かを確かめてたみたい。そういう陰の努力を見せるタイプじゃなかったけど。
「全員集合」での仲本と言えば、忘れられないのが番組が始まって1年もしない頃に、加藤の代役をきっちり務めたこと。とある事情で加藤が1カ月ぐらい番組を休むことになった。当時のドリフのコントは加藤が中心で成り立ってたから、誰かが代わりをしなきゃいけない。長さんは「荒井は違うし、ブーたんは……」と思って、仲本に加藤の代役をやらせた。そしたら、仲本はその役をしっかりこなしたんだよね。
仲本はいつもは一歩下がったところで、僕と同じようにドリフの中で脇役をやってたけど、長さんにもテレビを見てた人たちにも「やればできる」ってところを見せつけた。それもすごいけど、加藤が復帰したら元の脇役にすっと戻ったところもすごい。仲本が「自分だって前に出られる」と言い始めたら、ドリフがバラバラになっただろうね。
なるべくしめっぽい話はしないようにしてるんだけど、どうしてもいろいろ思い出しちゃうな。まあ、仲本はすごいって話だからいいか。今ごろ空の上でニコニコしながら、「ブーたん、もうそのぐらいで勘弁してよ」なんて照れてるんじゃないかな。
ブーさんからのひと言
「『全員集合』当時の思い出は、語りつくせないほどあります。こうやって、僕からみなさんに少しずつですが、伝えていきたいと思っています。そして、ドリフはこれからも頑張っていきますので応援してください」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。2021年6月に初めての画集『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)を上梓。毎月1回ニコニコ生放送で、ドリフとももクロらが共演する「もリフのじかんチャンネル ~ももいろクローバーZ×ザ・ドリフターズ~」が放送中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が好評発売中。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。