「仲本工事はミュージシャンとしてもすごかった」高木ブーインタビュー|連載 第82回
「毎日思い出してる。でも、まだ天国の仲本に声はかけられない」――。突然の別れから、もうすぐ1ヵ月。高木ブーさんのショックと悲しみは癒えない。仲本工事さんとはドリフターズだけでなく、加藤茶さんを含む3人で結成した「こぶ茶バンド」の活動も、大切な思い出だ。ミュージシャンとしての仲本さんについて語ってもらった。(聞き手・石原壮一郎)
仲本の歌、とくにロックンロールは「こりゃかなわない」と思った
そろそろひと月が経つけど、ショックや悲しみはまだまだ尾を引いてる。毎日何度も、ふとした拍子にあの笑い顔を思い出すんだよね。だけど、心の中で仲本に声をかける気持ちにはなれない。天国に行ったってことが、まだ実感できていないのかな。
でも、いつまでも僕が暗い顔をしてたって、仲本は喜ばない。まして僕たちは、人を笑わせることや、明るく楽しい気持ちになってもらうことが仕事だもんね。僕にはまだまだやれることがある。いつか長さん(いかりや長介)や荒井(注)さんや志村(けん)や仲本に再会する日まで、前を向いて精いっぱい歩いていきます。
多くの人にとって仲本と言えば、「8時だョ!全員集合」のコントで長さんをからかってたり、アイドルに体操を教えて「ハイ、ポーズ」ってやってたりっていうイメージが強いかもね。「ドリフ大爆笑」での雷様や「バカ兄弟」の仲本も、すごく面白かった。
もっと知ってもらいたいなと思うのが、仲本はミュージシャンとしてもすごいヤツだったってこと。仲本とは、あいつがまだ学習院大学の学生だったときに、僕も所属してたジェリー藤尾さんのバンド「バップ・コーンズ」で出会った。セカンドシンガーのオーディションに合格して入ってきたんだから、歌の実力は抜きん出てたってことだよね。
実際、たいしたもんだった。ジャズ喫茶のステージで演奏するときに、ジェリーさんが出られないときは仲本が歌うわけだけど、お客さんもお店も文句言ったりしなかったもんね。そりゃ、ジェリーさん目当てのファンは不満だっただろうけど、仲本の歌には仲本の歌のよさがあった。とくにロックンロールは、「こりゃかなわない」と思ったな。ハワイアンだったら、僕もちょっとは自信があるんだけどね。
1966(昭和41)年に、ドリフターズがビートルズ日本公演で前座をやったときには、仲本が『Long Tall sally』(のっぽのサリー)を英語で歌った。あのやりづらい状況で、立派に歌い切ったのはたいしたもんだよ。2年前の夏の「24時間テレビ」(日本テレビ系)では、仲本と加藤と僕の3人で、54年ぶりに『Long Tall sally』をやった。あれは楽しかったな。仲本の歌も僕たちの演奏も、昔より2年前のほうがよかったと思ってる。
3人では「こぶ茶バンド」として、テレビで番組をやったり全国をツアーで回ったりしてた。工事の「こ」と僕の「ぶ」、そして加藤の「茶」を合わせて「こぶ茶」。誰が名付け親なのかは知らないけど、3人の雰囲気にピッタリないい名前だよね。結成は1999(平成11)年で、その年に「こぶ茶ルンバ」っていうCDも出した。そうそう、去年の秋にももクロと武道館でコンサートをやったときに、久しぶりに3人でその歌をやったな。
こぶ茶バンドのステージは、だいたい前半にコントで後半は歌だった。名古屋の御園座で、ゲストもたくさん出てもらってお芝居をやったこともある。ドリフターズでは日本全国を何周も回って、いろんな場所でたくさんの人にコントを見てもらっていたけど、こぶ茶バンドを始めてまたそのときがよみがえったみたいだった。
そこでも仲本は大活躍だったな。やっぱりボーカリストとして一流だから、洋楽でもコミックソングでも安心して任せられる。ふたりでコーラスをやる場面なんかは、「ここはこうしようか」って簡単な打ち合わせをするだけで、すぐに合わせられた。60年一緒にやってきたからこその阿吽の呼吸ってヤツだよね。仲本ほどやりやすい相手はいない。加藤もそう思ってたんじゃないかな。
コントの部分は加藤が中心になって内容をまとめて、音楽的なアイデアは仲本と僕が出し合った。3人だったから、長さんがいたときみたいに長い時間じゃなかったけど、「全員集合」の毎週の会議を思い出してワクワクしたな。
こぶ茶バンドも10年ぐらいやったあと、しばらく活動を休んでた。でも、3年ぐらい前にまた復活したんだよね。同じ時代に活躍した歌手の人たちといっしょに、各地で公演してた。こぶ茶はステージで演奏しながらギャグをやったりするんだけど、みんないい歳じゃない。今の年齢だからこその微妙な「間」が面白かったし、やってて楽しかったんだよね。もっと続けたら、また別の「円熟味」が出てきたんじゃないかな。
それを言っても、もう仕方ない。高木ブーも「ザ・ドリフターズ」も、また少しずつ前進していきます。まだまだやりたいことがいっぱいあった仲本の分まで、僕らが笑顔でがんばらなきゃね。
ブーさんからのひと言
「仲本とは、彼が大学生のときから一緒にバンドもやってきたから、さみしくてたまらないよ。でも、仲本の分まで前を向いて精いっぱい歩いていかないとね」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。2021年6月に初めての画集『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)を上梓。毎月1回土曜日20時からニコニコ生放送で、ドリフとももクロらが共演する「もリフのじかんチャンネル ~ももいろクローバーZ×ザ・ドリフターズ~」が放送中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が好評発売中。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。