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ピンキーとキラーズ今陽子さん(70才)認知症の母の介護で学んだ「接し方で笑顔は増える」

 1968年、ピンキーとキラーズのデビュー曲『恋の季節』が大ヒットし、一躍、スターの座へと駆け上った今陽子さん(70才)。“明るく元気なピンキー”のイメージそのままで、現在もミュージカルやコンサートなどで活躍中だ。実はその一方で、数年前から認知症を患ったお母様の介護をしており、著書『認知用の母が劇的回復を遂げるまで』にお母様との日々を綴っている。海外公演や舞台の公演に飛び回りながら、介護を続けている今さんに、現在の心境や介護に関するエピソードを伺った。

今陽子さん「母が90才のときオレオレ詐欺の被害に」

 今さんは、長年、お母様との2人暮らし。掃除、洗濯、料理はもちろん、手書きの帳簿をつけたり確定申告をしたりと、お母様は芸能活動に邁進する今さんの生活を支えていた。そんなお母様に異変が生じたのは、2017年2月5日に90才の誕生日を迎えた直後だった。

「いつもなら私よりも早く起きて台所に立ち、具だくさんの味噌汁や玉子焼き、野菜サラダといった朝食を用意してくれているはずの母が、椅子に座ったままボーっとしているんです。帰宅しても同じ様子で、夕食の用意もありません。そんな母を見たのは初めてでした」

 オレオレ詐欺に騙されて100万円を盗られたり、家の鍵や財布、カードを入れたバッグをなくしたり、ガスの火をつけっぱなしにしたりなど、お母様はいろいろな失敗が目立つようになった。

「母の異変に気づいて悩んでいましたが、誰にも相談できませんでした。私は元気で明るい母が自慢で、差し支えないときには仕事場に母を連れていくこともありました。周囲のスタッフは、母のことをよく知っています。だから、母が認知症になって私の手をわずらわせているとは言えなかったんです」

ケアマネに伝えた「芸能人だが特別扱いしないで」

 その後、今さんは介護経験のある親しいサポートバンドのメンバーにお母様のことを打ち明けた。その方のアドバイスで、役所で手続きをして要介護認定を受けることを知ったという。

「これまで私の確定申告から何から事務的な手続きはすべて母がやってくれていたので、私は役所で用紙をもらって書類に記入する、必要な書類をそろえるといった作業をした経験がほとんどないんです。何度も役所に足を運び、なんとか手続きを終えることができました」

 こうしてお母様は要介護1と認定を受け、今さんはケアマネジャーを探しはじめた。

「今、お世話になっているケアマネジャーさんは50代の女性の方です。初めてお目にかかった時、『私は芸能人ですが、特別扱いはしないでください。介護は初めてなので、いろいろとご指導をお願いいたします』と挨拶をしました。

 もう3年ほどのおつきあいになり、時々、くだけた話をしたりもするようになりました。彼女がジャニーズ好きだと知ってからは、『今度、ジャニーズの方とミュージカルをするんです』と雑談をしたりもしています」

 ケアマネジャーさんと良好な関係を築くことは、今さんの大きな助けになっている。

「たとえば、ショートステイを利用する場合、2か月前にお願いをしないといけないのですが、私の仕事は2か月前に詳細な予定がわからないことが多いんです。ケアマネさんからは、『少し余分に予約しておいて、お仕事の予定がない日はおひとりの時間を大切になさってください。そうじゃないと、長い目で見た時に今さん自身が持たなくなりますから』とアドバイスをいただきました。私の仕事のことも理解してくださった上で介護サービスを提案していただき、とても助かっています」

 しかし、介護サービスを利用し始めてからも、お母様と過ごす日々の中で様々な問題が生じた。

「母はなかなか集団生活になじめないようで、『明日もデイサービスに行かなきゃいけないのかい?』と何度も繰り返して言うんです。『同じことを言わせないでよ!』と怒ると子どものように泣きじゃくり、また私が大声で怒鳴り、自己嫌悪で落ち込んでしまう…。そんな毎日が続いていました」

自身の心臓手術がきっかけで母への接し方を変えた

 介護をしながら芸能活動と慣れない家事を続けて2年が過ぎた頃、今さんは胸に痛みを覚えることが増えた。狭心症と診断され、薬を使いながらそれまで通りの生活を送っていた今さんだが、2019年9月に胸の激痛に襲われた。

「自分で救急車を呼んで病院へ搬送してもらい、すぐに手術を受けることになりました。手術には家族の同意書が必要です。私には4才下の弟がいるのですが、彼には母をみてもらっているので、病院に来てもらうことはできません。仕方がないのでマネージャーに連絡をして駆けつけてもらい、同意書にサインをしてもらいました。すぐにバルーン・カテーテル手術を受け、翌日には関西での船上コンサートに出演したんです。私の人生って、母の介護以上に支離滅裂ですよね(笑い)」

 テンポ良く語り、豪快に笑う今さんだが、心臓の手術を機に「自分は生まれ変わった!」と思うようになり、お母様への接し方を見直すようになったそう。

「以前からお世話になっている、横浜鶴見リハビリテーション病院院長の吉田勝明先生の著書『認知症は接し方で100%変わる!』を参考に、まず、怒ることを我慢しました。

 母が同じことを繰り返して言っても『そうねえ』と相づちを打ちながら聞いてあげることにしたんです」

 また、今さんは、お母様との会話を楽しむようになったとも。

「たとえば、以前の私だったら、母が『私は何歳才なったのかね?』と言えば、『この間、お誕生会をやったでしょ!』と声を荒げていました。

 でも、『お母さんは何才だと思うの?』って、聞き返すことにしたんです。そうすると、『70才くらいかねぇ?』、『お母さんは若く見られるから70才でも通るけど、サバを読んじゃだめでしょう。だって娘が68才なのよ』、『そうかい、もう68才になったのかね』と会話が続くんです。

 私が接し方を変えてからというもの、母は明るく元気になりました。『行ってくるね』と笑顔で手を振って、デイサービスの迎えのバスに乗るようになったんです」

 90才から95才まで母の介護に直面した日々のことは著書『認知症の母が劇的回復を遂げるまで』に詳しく綴られているが、今さんが接し方を変えたことで、「母の表情がいきいきしてきて、施設のスタッフさんからも、お母様が明るくなったねって報告されるんですよ」

 しかし、95才を過ぎたとき「新たな壁」に直面することに――(後編に続く)。

プロフィール

今陽子(こん・ようこ)さん

1951年愛知県生まれ。歌手。幼少よりジャズ・ポップスを好み、作曲家いずみたく氏に師事し、15歳でソロデビュー。16歳で「ピンキーとキラーズ」を結成。デビュー曲『恋の季節』が17週連続でオリコン1位になるなど、ダブルミリオン(約270万枚)を記録し、数々の音楽賞を受賞。解散後、1981年に単身渡米し、ニューヨークで歌・ミュージカルを学ぶ。帰国後はミュージカル、舞台、ライブ、テレビなどで活躍中。2022年12月7日~25日までミュージカル『スクルージ~クリスマス・キャロル~』に出演。オフィシャルブログ『This is my Season『今』を生きる』https://ameblo.jp/yoko-kon/

撮影/横田紋子 取材・文/熊谷あづさ

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