城戸真亜子さんの「認知症介護心得5か条」13年にわたる義母の介護経験から得たこと
タレントとして画家として多方面で活躍する城戸真亜子さん。2004年から13年間、認知症の義母を介護した経験をもつ。義母を“母”と呼ぶ城戸さんはどんな想いで介護と向き合ったのか。ご自身が壁画を描いた老舗の喫茶店で義母との時間を振り返っていただきました。
ある日突然始まった介護で用意したもの
介護はある日、突然始まることが多いといわれているが、城戸さんの場合も例外ではなかった。
きっかけは2004年7月、義父にがんが見つかったことだった。義理の両親は2人暮らし。手術のために入院する間、認知症の義母をひとりにしておくことはできず、同居が始まった。
城戸さんはまず、太いペンとA4のコピー用紙を用意したという。
「紙に大きな字で“トイレ”、“お風呂場”、“電気のスイッチ”など、思いつく限りの言葉を書き、該当する場所に貼りました。これは小川洋子さんの小説『博士が愛した数式』の内容を参考にしたんですよ」
そして、義母の記憶の代わりとなるよう、天気や食べたもの、その日の出来事などを綴った日記をつけるようになった。
「当時の私は仕事でもプライベートでもつまずいてしまうことが多く、自分に対して不甲斐なさのようなものを感じていました。
だから、記憶が失われていく母の不安や戸惑いは自分のことのように分かりましたし、そうした要素はできる限り取り除いてあげたいと思ったんです」
母を「義母」と呼ぶのは寂しいんです
城戸さんは、エッセイや書籍で、介護をした夫の母のことを“義母”でも“姑”でもなく「母」と書く。
「母は茶道や華道の先生をしており、お作法や所作が惚れ惚れするほど美しく、人柄も笑顔も本当に素敵でした。
大勢の人を家に呼んで食事をするとき、私が料理をうまく作れなかったりすると、『いつもはできていても、こういう時に限って失敗しちゃうのよねぇ』と自然に助け船を出してくれる。そんな優しい人だったんです」
姉妹がいない城戸さんにとって、義母は姉のような存在でもあった。
「母は、私と女同士で話すことを楽しんでくれていたようです。母は姉でもあり、お友達のような存在でもありましたから、“義母”と書いたり呼んだりするのは、ちょっと寂しい気がしているんです」
義父の退院後、城戸さん夫妻の家で義理の両親と4人で暮らしていた時期がある。
「ありがたいことにお仕事の機会はいろいろといただいていました。でも、求められている役割をうまくこなせないことが多々あり、とても悩んでいました。“こんなに仕事ができない私なんて、生きている意味があるのだろうか”と思い詰めたこともありました。
母の介護や両親との同居が始まったのは、ちょうどそのころでした」
介護を通して生きる意味を教わりました
義理の両親との生活は、城戸さんにある種の救いをもたらした。
「ごくごく普通のお世話をしているだけなのに、2人とも100%の笑顔で『ありがとう』と言ってくれるんです。その言葉に『私、生きててよかった』って、心の底から思えたんです。
ただそこにいるだけで気持ちがほぐれ、心を満たしてくれる。それが家族のぬくもりであり、ありがたさであることに初めて気がつきました」
2007年8月に永眠した義父の姿からは、生きる意味を教わったという。
「父は遠くの八百屋さんから大きなスイカを買って来てくれたりと、がんで痩せてしまっていましたが家族のために尽くしてくれました。そんな父の姿を目の当たりにし、人は誰かを喜ばせるために生きているのだということを実感しました。それまでは仕事と自分のことしか考えていなかった私ですが、父から生きることや幸せの本当の意味を教えてもらったように思います」
城戸真亜子さん「私の認知症介護」5か条
1.先回りして準備する
「失禁対策としてソファに防水シートと洗える布をかけておくなどの準備をしていました」
2.メモは敬語で
「“ゴミはここに捨ててくださいね”などのメモは、敬語のほうが心に届くようです」
3.人の手を借りる
「家族や友人など頼れる人を身近に。私はケアマネジャーさんに力になってもらいました」
4.いいこと日記を書く
「いいことだけを書くことで気持ちが整理でき、振り返ったときにはいい思い出になります」
5.創意工夫を楽しむ
「母の場合は蒸しタオルで体を拭くと気持ちよく目覚めてくれることが分かりました」
教えてくれた人
城戸真亜子さん
1961年愛知県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。’86年より毎年個展を開催。「ギャラリー珈琲店・古瀬戸」の壁画なども手がける。テレビ、CM、執筆など幅広く活動中。著書に『ほんわか介護 私から母へありがとう絵日記』(集英社)など。
撮影/楠聖子 イラスト/城戸真亜子 ヘアメイク/鈴木將夫 取材・文/熊谷あづさ
撮影協力/ギャラリー珈琲店・古瀬戸
初出:女性セブンムック 介護読本Part2 ~人生100年時代 親・家族・自分のことをみんなで考える~