兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第162回 家族信託ってどうなの?】
63才の兄と2人暮らしをするライターのツガエマナミコさん。一緒に外出すると夫婦に間違われてしまうことがあって、とても不本意ですが、それよりも大変なことが満載な兄との生活にツガエさんの苦労は絶えません。なぜなら、兄は若年性認知症を患っているのです。ツガエさんが悩みや苦悩を赤裸々に明かす連載エッセイ、今回のテーマは「家族信託」です。
* * *
「成年後見制度」か「家族信託か」
最近、「家族信託」という言葉を知りました。
認知症になって判断能力が極端に落ちると、個人の財産は凍結されて、家族でも勝手に動かせなくなることから、「成年後見制度を利用する」という選択肢があることはずいぶん前から見聞きしてまいりましたが、「家族信託」はまったくのお初ワード。
「成年後見制度」の場合は、選任されるのは第三者の法律家などで、個人の財産は後見人の管理下に置かれます。もちろん個人が亡くなるまで一定の料金を払い続ける有料制で、家族が必要と思っても後見人の許可なしにはビタ一文も動かせません。家族が後見人になるパターンもあるようですが、毎年お金の出入り報告書を役所に提出しなければならないなど、わたくしの理解が正しければ、なかなか面倒という認識でございます
「家族信託」はお金や不動産などの管理や処分の権限を家族に託す制度なので、認知症が進んでも個人の財産は凍結しないのだとか。
兄の財産は年金と保険以外ほとんどないので、面倒な制度は要らないと思っております。ただ、ひとつだけマンションの権利を半分ずつにしているのが気がかりなのです。
いつか兄が施設に入り、わたくしも老人になり、現金を使い果たし、生命保険も解約して、あとはマンションを売らねばとなったときに、兄が亡くなっていればいいのですが、長生きでパッパラパーになっていたら(すでに片足突っ込んでおりますが)売るに売れないことになるのでございます。
そこまで考えなくてもいいのか、考えたほうがいいのか、それすらも判断できないというのが正直なところでございます。
もし家族信託をするなら、本人の判断能力があるうちに契約を結ぶ必要があるとのことなので、するなら今が限界か、もしかするともう遅いかもしれません。そしてその契約にもなかなかの一括金がかかるとも……。
まだまだ勉強不足でメリット、デメリットが整理できておりません。法律も制度も年々変わっていきますし。しかるべき法律家にご相談したほうがいいのでしょうね。それをするにも、しっかり勉強しないと的を射た質問も理解もできなくて、30分の相談料金を無駄にすることになりかねない。う~む、どっちに転んでも面倒なことでございます。
いろいろな制度はあっても、何が必要で何が不要で、我が家(兄とわたくし)にとってどれが最適で便利なのかがわからないのがもどかしい。今一番ほしいものは、一読でスッと理解できて、ササっと選んで、パパっと利用できる聡明な頭脳でございます。
そんなツガエは、やっと2年間のマンション理事の任期が終わり、ただの住民になりました。最後の理事会では、なにやら3階のお宅から2階のお宅に漏水があったそうで、修理代およそ100万円をどうするか?と議論が交わされました。住民組合が入っている保険を使うのか? 保険を使うと月々の保険料はどのくらい上がるのか? 原因不明とはいえ加害宅が1円も払わないのはおかしくないか? そんな前例を作っていいのか? などなど、初めてのことゆえに慎重な対応となっております。
結論は、次の理事に引き継がれましたが、今後は年々こういう問題が増えていくと思われ、分譲マンションも何かと勉強が必要で、メンテナンス経費がかさみそうだと学習しております。人もマンションもまったく同じでございますね。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ