正しい「断食」とは?食べない時間が健康寿命を延ばすファスティングの最新事情
最近注目されている断食(ファスティング)は、ダイエットだけの話ではなく、細胞が活性化され体の中から元気になることも分かってきている。そこで、最近注目されている断食方法や効果などを専門家の方々に教えてもらった。
最近注目の「オートファジーダイエット」
近年、自宅でできる健康長寿法として注目を集めている断食(ファスティング)。食を断つとはいえ、修行僧のごとく何日も絶食を続けるのではない。特に人気なのは、1日のうち「食べない時間」を16時間続ける「オートファジーダイエット」だ。
国際未病ケア医学研究センター長の一石英一郎さん(以下、一石さん)はこう話す。
「線虫レベルの実験ではオートファジーダイエットの有効性が認められ、寿命が平均20%伸びています。これまで老化を抑えるのに有効とされたカロリー制限のメカニズムにもオートファジーがかかわっていると考えられ、さらなる研究が待たれます」
「オートファジー」とは…
食べずに寿命を延ばすオートファジーとは一体、どういうメカニズムなのか。
「長時間、空腹が続くことにより飢餓状態になり、危機感を高めた体内の遺伝子や細胞が活性化し、生命を維持するために細胞を内側から生まれ変わらせる機能を『オートファジー』と呼びます。これにより体重減少だけでなく、体の機能が“再生”して健康を増進することが期待されます」(一石さん)
寿命研究の第一人者である南カリフォルニア大学長寿研究所の教授、ヴァルター・D・ロンゴさん(以下、ロンゴさん)の研究では、1日8~10時間の食事制限を4~12週間行ったもの、週7回のうち5日間だけ行ったものなど、さまざまなファスティングを分析しており、そのほぼすべてで被験者の体重や脂肪率が低下し、ウエストのサイズも減少した。さらにいくつかの研究では、心血管疾患に関連する因子が改善されていた。
より長期間の断食もある。“48時間以上の長期断食を月に2回以下行う「周期的断食」”は、断食が終わった数か月後も効果が期待される。しかもこの断食は月1度でも効果があるとされる。
定期的な断食で体の中から健康に寿命もUP!
ロンゴさんが言う。
「健康体の50~80代が年に2回ほど定期的な断食を試みると、寿命が延びる可能性があります。仮に寿命そのものが延びなくても、体質を改善して慢性疾患にかかる確率を減らし、健康寿命が延びることは明らかです。ただし、断食のタイミングは人それぞれ。空腹時血糖が高い人や高血圧の人、腹部脂肪が多い人、家系的にがんのリスクが高い人は、月1度のペースで断食を行った方がいいでしょう」
ゆる断食「断食模倣食(FMD)」も注目
一石さんが注目するのは、「断食模倣食(FMD)」という、植物由来の低カロリー、低糖、高脂肪の栄養素食材を用いたプログラムだ。
「1か月に数日だけカロリーカットする“ゆる断食”です。具体的には1か月に連続5日間だけエネルギー摂取量を必要量の半分から3分の1にまで落とすもので、残りの25日は通常の食事で過ごします。マウスの実験では、このプログラムが複数の自己免疫疾患に関連する病態を軽減し、さまざまな腫瘍の発生や進行を抑えて、寿命を延ばしたことが確認されています」(一石さん)
FMDの人間への効果を検証したロンゴ研究によれば、脂肪率の減少やインスリン感受性の改善、炎症の低下などの有益な効果がみられた。そうした効果はプログラムが終了し、通常の食事に戻ってからも数週間続いた。
持病のある人は必ずかかりつけ医に相談を
ただし肝に銘じたいのは、人体に必要な栄養補給を一時的に停止する断食には、一定のリスクがあることだ。
「年齢や持病を考えて、無理のない断食法を選ぶことが大切です。持病のある人が断食を希望する場合は、かかりつけ医や断食に詳しい医師に相談してほしい」(一石さん)
ロンゴ研究も断食のリスクを指摘し、安全で実行可能かつ効果的な断食法が確立するまでは、「1日11~12時間の断食」にとどめることを推奨している。初めて断食に挑戦する50代以上の女性に、食糧学院副学院長で医師の馬渕知子さんがアドバイスする。
「まずは1日12~16時間程度を目安に、夜から朝にかけて生活に影響の少ない時間帯に試してみることをおすすめします。断食中は何も口にしてはならないのではなく、糖分の入っていない水やお茶は必要に応じて飲んでも大丈夫です。体調が悪くなったら決してムリをせず中断することを忘れずに。2~3日以上の断食をするならば、専門的に断食を行っている施設などのプログラムに参加するようにしてください」
正しい断食で“不老不死”を目指そう。
最後にロンゴさんがメッセージを送る。
「過去の複数の研究結果から食事制限や断食が長寿につながる仮説を立てていましたが、今回の研究でそれが立証されました。食事は内容だけでなく、摂り方も大切です。私たちの研究成果をベースにして、健康長寿に挑戦してほしい」
最強の長寿食をおいしくいただき、最悪の短命食をできるだけ避け、時には断食に挑戦してみることが老後を長くする秘訣と言えそうだ。
教えてくれた人
ヴァルター・D・ロンゴさん/南カリフォルニア大学長寿研究所・教授、一石英一郎さん/国際未病ケア医学研究センター長、馬渕知子さん/食糧学院副学院長・医師
※女性セブン2022年8月11日号
https://josei7.com/
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