父親の介護のために結婚を諦めようかと悩む30歳男性に毒蝮三太夫が提言「介護を快護に」
親の介護が必要な状態になったとき、子どもとしては「自分にできることは何でもしてあげたい」と考えがちだ。しかし、あれもこれも背負い込んで、たくさんの犠牲を払う道を選ぶことは、はたして親子にとっての「正解」なのか。父親の介護、家のローン、彼女との結婚……。途方に暮れる青年に、マムシさんがやさしく寄り添う。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「父親の介護が必要になって結婚が難しくなった」
立川談志が本を出しやがった。いや、ヤツはとっくにあの世に行ってるんだけど、25年前の本が文庫になったんだ。『談志受け咄 家元を笑わせた男たち』(中公文庫)っていう私小説風の交遊録で、ヤツらしい語り口が詰まってて面白い。3人出てくる「男たち」のひとりが俺なんだけど、好き勝手に余計なことばっかり書いてやがる。解説を頼まれたから、そこで仕返ししてやったけどね。よかったら読んでみてください。
今回はなかなか深刻だ。30歳の会社員の男性が、こんな相談を送ってくれた。
「60歳の父が倒れて入院。てんかん発作のようです。医者に、認知症の疑いもあり介護が必要と言われました。仕事復帰もできないとのこと。実家のローンがあと900万くらいありますが、父に貯金はなし。55歳の母は10年前に家を出て別居状態。私も2年ほど前に、25歳の彼女と結婚を前提にした同棲のために実家を出ました。なので父は独居です。22歳の弟は母と暮らしていますが、仕事を辞めていて借金もあるようです。
近々結婚を考えていた矢先に、このような問題が浮上しました。父の面倒やお金のことを考えると、この先どうしたらいいかわかりません。お恥ずかしい話ですが、自分の収入では父の介護費用を出せません。もし結婚して子どもができたら、父の面倒は見られないと思います。結婚は諦めなければならないでしょうか? だとしたらとても辛いです」
回答:「親だからといって一人で背負わないで。公的機関に相談して、受けられる支援は全部受けてくれ」
たいへんなことになったな。30歳の青年にこれだけまとめて難問が押し寄せてきたら、そりゃどうしていいかわからなくなるよ。だけど、落ち着いて考えないと、どんどん悪循環になってしまう。「もう結婚はできない」なんて思いこんで、あわてて彼女と別れるなんてことは絶対にするんじゃないぞ。彼女がかわいそうだし、お父さんだって喜ばないよ。
客観的に見れば、あなたひとりで背負いきれる状況じゃない。市役所なり福祉事務所なり公のところに相談して、救いの手を差し伸べてもらおう。SOSを出すのは、恥ずかしいことでも何でもない。困ったときに助けてもらうのは国民の権利だし、そのために税金を払ってるんだから。そもそも社会というのは「お互い様」で成り立ってるんだよ。
親が介護が必要な状況になると、子どもは「自分が何とかしないと」と思っちゃう。もちろん、親の世話をしたいと思う気持ちは尊いけど、親の介護のために自分の生活や人生を犠牲にするのが本当にいいことなのか、よく考えたほうがいい。見送ったあとで「自分は親の介護で人生を棒に振った」なんて子どもが思ってたら、親は死んでも死にきれないよ。
この頃「介護離職」が問題になってる。「自分が介護しなきゃ」と仕事を辞めたら、当然収入はなくなってしまう。介護が長引いて貯金も底をついて、経済的にも精神的にも追い詰められるケースは多い。悲しい事件もたまに聞くよね。「親のためにすべてを投げうつ」というのは、けっして美談ではないと俺は思う。
助けたり世話したりすることで人に“幸せ”を与えるには、まずは自分が幸せでなきゃいけない。自分が不幸せだったり、体や心の健康を崩していたりしたら、人を救うどころじゃないからね。不幸せな人に世話されてたら、相乗効果で両方ともどんどん不幸せになるばっかりだ。人にやさしく、自分にもやさしくが大事だよ。
病院だって辛気臭い医者に診てもらったら、病気が悪化しそうな気がする。俺がこの頃行ってる整形外科の先生は面白い人で、注射を打つときに冗談ばっかり言ってるんだよね。「はい、やぶ医者が打ちますよ」なんて。そんな風に明るく打ってもらうと、注射もよく効く気がする。人に明るく、自分にも明るくだ。
お父さんもあなたも、そしてあなたの彼女も、みんなが幸せになるために、いろんなところに助けを求めよう。お父さんにやさしくできる心の余裕をなくさないためにも、受けられる支援は全部受けて荷物を減らしてほしい。それがいちばんの親孝行だし、子どもしての責任を果たすってことだよ。
介護はけっして後悔の悔の「悔護」にしちゃいけない。理想は愉快の快の「快護」だけど、実際にはなかなか難しい。ただ、人生100年時代になって介護される人もする人も増えていくんだから、社会全体で知恵をしぼって、お互いに笑顔でいられる「快護」のやり方を考えないとね。まずは、ウソでもいいから「ワッハッハ」って声を出して笑ってみるのがいいんじゃないかな。笑う門には福来たる。そして『快護』もきっと寄って来てくれるよ。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。4月からポッドキャストでスタートした大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。