大傑作!『101回目のプロポーズ』は『銀河鉄道999』のオマージュ 武田鉄矢と浅野温子は鉄郎とメーテルだ
「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。今月はゲーム作家の米光一成さんが武田鉄矢主演『101回目のプロポーズ』(1991年 フジテレビ)を鑑賞。今もまったく褪せることのない武田鉄矢と浅野温子の圧倒的な魅力について考えました。
いまならば完全にストーカー認定
「僕は死にましぇん! あなたが好きだから」の名台詞が新語・流行語大賞金賞を受賞。浅野温子と武田鉄矢のダブル主演で、最終回は視聴率36.7%。ドラマの影響で中年おじさんがピアノを次々と習い始めたという伝説もある。
そう! 今回紹介するのは、ドラマ史に残る大傑作『101回目のプロポーズ』である。
浅野温子と武田鉄矢のダブル主演。「トレンディドラマ」大ブームの時代である。トレンディドラマの女王と言われた浅野温子の相手役に抜擢されたのが武田鉄矢!当時、トレンディ御三家といえば、織田裕二、吉田栄作、加勢大周。いわゆる若手イケメン俳優だ。
そもそも、都会に生きる若者のイケてる生活(トレンド)を描いたのが、トレンディドラマだ。そのトレンディな世界に、ぶっこまれるのが当時すでに40歳を超えた武田鉄矢だ。建設管理会社の万年係長、途中でその会社も辞めて「うらぶれおじさん」になってしまう。
キラキラした若者の恋愛群像劇ではない。99回のお見合いに失敗したうらぶれおじさんが、100回目のお見合いで矢吹薫(浅野温子)に出会いひとめぼれ。
きっぱりと断られるが、くじけずに何度もアタックする。しつこくつきまとっていて、いまならば完全にストーカー認定されるだろう。
昭和のドラマ世界引きずり込まれる
この設定のドラマ、いまみると厳しいんじゃないかと思っていた。武田鉄矢を応援しながら観ることができたあの素朴な時代は終わったんじゃないかと思っていた。
ところが!ドラマの凄さよ。ドラマ・マジック!
“当初は武田が振られる予定だったが、視聴者から「主題歌のようなハッピーエンドを」という要望が殺到したため、急遽ハッピーエンドになった。”とWikipediaに書いてあるのだが、そりゃ、そうだよ。
これハッピーエンドにしないって、どうする気だったんだよ! と怒りたいぐらいに、ふたりが幸せになることを願いながら観てしまうハメになった。
たしかに、当時の熱狂具合がドラマに影響を与えて、後半のドラマそのものが熱に浮かされた凄みがあって、それは「いま」ではない。だが、主演ふたりの人間力が、付け焼き刃の倫理観を削いで、昭和のドラマ世界に観るものを引きずり込むパワーを持っているのだ!
と勢いで書いたら、ドラマは1991年放送、平成3年だった。昭和ってすげー過去だな。
とにかく、浅野温子と武田鉄矢
矢吹薫は、結婚式の日に、愛した男性を交通事故で失っている。それ以降、恋愛もできず、生きる屍のように生きている女性だ。妹の矢吹千恵(田中律子)と一緒に暮らしている。
そして、星野達郎(武田鉄矢)は、建設管理会社の万年係長。お見合いに99回失敗したダメ男。弟の星野純平(江口洋介)と一緒に暮らしている。
矢吹薫と星野達郎ふたりの恋以外もしっかり描かれる。
弟・星野純平(江口洋介)と妹・矢吹千恵(田中律子)のふたりは、会えば軽口を叩き合い、けんかばかりしてる。純平は、涼子(石田ゆり子)に恋をしていて、千恵は、姉にプロポーズしている尚人(竹内力)に恋をしている。お互い相談しあっているうちに、だんだん仲良くなって……。っていう完全にトレンディなドラマ展開も裏で進むのだ。
だが、まあ、観ている間、圧倒的に意識を占めるのは、しつこくくじけずにアタックする星野達郎のプロポーズに、魔性の女矢吹薫がSAY YESするのかどうか。その一点にかかっているのだ。
とにかく、浅野温子と武田鉄矢だ。このふたりを観ていることの至福。
武田鉄矢の愛嬌
なにしろ武田鉄矢。猫背で、どたばた走って、落ち着きがない。まっすぐ立てなくて、会釈もちゃんと前にできず、横に体を傾ける。何か困ったときも体が傾く。すぐ金を掴ませて事を済ませようとする。洗練からはほど遠く、がさつで、デリカシーもない。サエない男を見事に演じている。
99回お見合いに失敗したという大げさな設定をねじふせる説得力。そのうえで、なんともいえない愛嬌がにじみ出してくるのが凄い。
武田鉄矢が画面に出てくると目が話せない。矢吹薫(浅野温子)からもらったコンサートチケットをおでこに貼って大喜び。ざるそばを持ち上げようとするとダマになって持ち上がる。おしゃれなバーで「マタニティーもういっぱい」と注文する。ボーナス全部はたいて一点買いした競馬を反復横飛びしながら応援する。
どうしょうもないダメっぷりの一挙手一投足がぜんぶ愛嬌の塊。面白いのだ。
「お見合いのときおねーちゃんすごい楽しそうだった」
というのが妹の千恵(田中律子)が、ふたりの恋を応援する理由なのだが、それを見事に納得させる演技というか人間力だ。
万華鏡のような女性
いっぽう浅野温子。美人というだけじゃない。魔性の女としかいいようのない魅力。セイレーンだ。
第4話で、彼女のことを「一瞬にして表情の変わる万華鏡のような女性だ」と説明するセリフがでてくる。これ、第1話を観た脚本家の野島伸司が彼女のことを的確に描写したんじゃないかと思うのだ。
それほど表情が魅力的に変わり、常時、顔芸で人を魅了する熟達した職人なのだ。そして、武田鉄矢同様、彼女も体を傾ける。ピシッとまっすぐ立っているときは、めちゃくちゃ姿勢よく立つ。
ここぞというときに、上半身を横に曲げる。重力で長い髪がパサッと流れ、にっと笑ったり、甘えた顔したり、泣いたりする。
なんで、そこで、そんなポーズとったよー!と突っ込む暇を与えず、魅力にくらくらしてしまう。テレビ画面越しに見てもそうなんだから、直接会っていたら、そりゃもうたいへんだろう。
このドラマ、矢吹薫がじょじょに達郎に惹かれていく様子は、全12話をかけて、繊細にしつこく描かれるのだが、実は、なぜ達郎が薫に惹かれたのかといいうのはあまり描かれない。
いきなりのひとめぼれであり、とてつもなくひどい目にあってもあきらめない境地に達している。だが、そのことが不自然に思えないのは、浅野温子の魔性っぷりが見事に発揮されてるからだろう。理屈はいらぬ!というやつである。
『銀河鉄道999』のオマージュ
『101回目のプロポーズ』は、『銀河鉄道999』のオマージュ作品だ。
主人公の名前が星野達郎。これは『銀河鉄道999』の主人公の名前、星野鉄郎と一字違いだ。イケてない男主人公が、ロングヘアの魔性の美女(999ではメーテル)に翻弄されるという構造も同じ。
そもそも、星野達郎は99回お見合いに失敗した男として登場する。これは『銀河鉄道999』の999が由来だろう。そして、『101回目のプロポーズ』のラストで、ナットを指輪替わりにする場面は、『銀河鉄道999』のラストのキーアイテムがネジであることと呼応している。
「僕は死にましぇん」の名台詞も、『銀河鉄道999』の鉄郎が「機械の体」を求めて旅をすることを連想させる。
照応させていくと、いたるところが『銀河鉄道999』オマージュでありながら、こんなにまったく違うドラマとして成立させている脚本家野島伸司、天才!
そして、これほどの奇想を、それぞれの人間力でリアルに体感させる出演陣の熱演の凄さ。この座組を実現したプロデューサーの大多亮。トレンディドラマという大きな流れのなかで、こんなドラマが生み出された奇跡に感謝せざるをえない。
かつて観た人も、観たことがないという人も、ぜひ観てみてほしい。
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。