いつまでも『おかあさんといっしょ』ノリを求められてしまう、うたのおねえさん卒業後問題
この4月、NHK Eテレの『おかあさんといっしょ』の第21代「うたのおねえさん」小野あつこが卒業。祝って前途に期待したいところだが、うたのおねえさんの再出発は意外に難しいらしい。あつこお姉さんの場合はどうなるのか? テレビウォッチャー・北村ヂンさんが検証し、エールを送ります。
アイドルグループよりも厳しいルール
ド定番の幼児向け番組・NHK Eテレの『おかあさんといっしょ』。
この4月には、うたのおねえさんが第21代・小野あつこから第22代・ながたまやへと交代した。
うたのおねえさんの卒業は(うたのおにいさん、たいそうのおにいさん/おねえさんもだが)、他のテレビタレントの番組卒業とは大きく意味合いが異なる。そもそも、うたのおねえさんはタレントとして『おかあさんといっしょ』に出演しているわけではないのだ。
これまで報じられたことでは、「NHKの契約社員扱いとなり、支払われるのは出演料ではなく給料。出演期間中は、他のテレビ局へ出演ができないのはもちろん、恋愛禁止、夜遊び禁止、SNS禁止、立ち食いや派手なファッション、スキーや自動車運転まで禁止」という、厳しいおきてがあるとも言われている。
うたのおねえさんは子どもたちのお手本となる存在。スキャンダルを決して起こすわけにはいかないという配慮からなのだろうが、アイドルグループよりもはるかに厳しいルールでギチギチに管理されながら、子どもたちに夢を与えていると思うと頭が下がる。
そんな管理体制からの卒業は、セカンドバースデーくらいの意味合いがあるのだ。
あつこお姉さん初の民放出演は……
あつこお姉さんも卒業後、早速芸能事務所に所属して公式サイトやTwitterアカウントを開設。NHK外での芸能活動を本格的始動しようとしている。
『おかあさんといっしょ』で楽しませてもらった視聴者としては当然、あつこお姉さんの新たな船出を応援しないわけにはいかない!
初の民放出演は、日本テレビの『スッキリ』。エンタメ情報を伝えるコーナー「SHOW CASE」のマンスリーMCに起用されたのだ。
ということで初回放送をドキドキしながら見守ったのだが……。
『おかあさんといっしょ』と、一般の芸能界は、まったくの別世界だということを 思い知らされてしまった。『スッキリ』のスタジオに登場したあつこお姉さんは、とてつもなく浮きまくっていたのだ。
まずは、うたのおねえさん時代の持ち歌を披露してから、コーナーに入るという構成だったのだが、あつこお姉さんは「みんな~げんき~!?」と、もう『おかあさんといっしょ』でのテンションそのまんまで登場したのだ。
『おかいつ』を見ていた視聴者的には「あつこお姉さんが民放に……」と感涙モノの場面ではあったものの、はじめましての視聴者はポカーンとしてしまったのではないだろうか。それくらいのハイテンション。
『おかいつ』で、着ぐるみたちと一緒に歌っている分には、あのハイテンションも気にならないが、朝のワイドショーのスタジオでは異様な存在だ。
一部、子育て世代の出演者たちは、あつこお姉さんの登場に「ワーッ」と感激していたものの、メインMC・加藤浩次をはじめとした他の出演者たちはぼうぜん。そんなヤバめな空気の中でも、あつこお姉さんは一切ブレることなく、歯をむき出しにした全開の笑顔をつくり、歌って、踊りきっていた。
その姿は感動的ではあったが、「これから芸能界対応していくのは大変だぞ」とも思ってしまうのだった。
もちろん、あつこお姉さんに非があるわけではない。おそらく番組側から「『おかあさんといっしょ』みたいなノリで〜」なんて依頼され、それを忠実にやりきっただけなのだろう。その後の週も、『おかあさんといっしょ』のテンションのままでMCを勤め上げ、スタジオをちょっと微妙な空気にしていた。
他の出演者を『おかいつ』テンションに付き合わせる気がないのなら、あつこお姉さんも素のテンションでやらせてあげればいいのに……。
うたのおねえさん卒業後問題
『おかあさんといっしょ』に数年間出演し、テレビの前の視聴者の心をガッチリとつかんだ、うたのおねえさんたちも、卒業後、多くはイベントやコンサート中心の活動となり、テレビタレントとして定着しているケースは意外と少ない。
うたのおねえさんとして知名度は抜群だし、歌はうまいし踊りもいける。しかし、一般的なヒット曲を持っているわけでもなく、トーク力は未知数ということで、番組での使いどころが難しいのだろう。
……ということで、とりあえず幼児番組特有のあの独特なテンションを求められ、ちょっと変わった人的なポジションでの出演となりがちなのだ。
うたのおねえさん出身者のテレビ業界での成功例といえば、近年では、はいだしょうこが挙げられる。
しょうこお姉さんの場合、歌がうまい&幼児番組テンションに加え、絵が破壊的にヘタだという画伯キャラ、天然キャラを持っていたのが強みで、早々に「うたのおねえさんキャラ」から脱却することに成功していた。それでは、あつこお姉さんはどうかというと……。
整った容姿で食べ物にがっつく食いしん坊キャラ。おにいさんがドン引きするレベルの思い切った変顔もいけるし、トークからは天然感も漂っている。意外とバラエティー対応できそうな素材ではあるのだが……。
非常に真面目で、求められたことにキッチリ答えてしまいそうな性格が足を引っ張りそうな気もする。必要以上に「うたのおねえさん」を演じきってしまいそうなんだよなぁ〜。
「うたのおねえさんキャラ」だけではない、あつこお姉さんの持ち味を活かすことができる番組と出会えることを願っています!
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。