杖はいつから持つべきか5つのチェック「若さを保つために杖はおすすめ」専門家解説
杖というと歩行補助器具のイメージが強いが、最近では軽くてデザイン性も高く、実用性に富んだ商品が増えている。また、転倒防止、ひざの負担軽減などの効果を期待しつつ、親をより若く見せたいと願う子からの需要も増えている。そこで、杖選びのコツや使い始めるポイントを教えます!
杖を持つべき?75才を過ぎたら足元のチェックを
“杖”は自力歩行ができなくなったときに使うものだと思ってはいないだろうか。
「それは大きな間違いです」
と言うのは、長野県にある杖メーカー『シナノ』の杖品種担当の山浦正行さん。
「杖がないと歩けない状態になってから使い始めるのでは遅いです。取っ手がT字になっている『T字杖』という一本足の杖は、足腰が弱ってからではバランスがうまく取れずに転倒しやすい。それに、杖を持つ手に体重がかかって、腕や肩を痛めてしまうこともよくあります」(山浦さん)
「昔から“転ばぬ先の杖”とよくいいますが、まさにその通りです」
と言うのは、介護老人保健施設『ひまわりの里』リハビリテーション部部長で認定理学療法士の安藤岳彦さんだ。
「もちろん、自分でスタスタと歩けるほど足腰がしっかりしている人は80代でも90代でも杖は必要ありません。ただ、後期高齢者と称される75才くらいから足腰のバランス感覚が衰え始めるといわれているので、この年齢を超えたら、一度、杖を持つことを検討してみてもいいでしょう」(安藤さん・以下同)
杖を使い始めるタイミングは?
杖を使い始めるタイミングについてはどうだろうか。
「過去1年くらいの間に、何も障害物がないところで転んだことが1回でもある場合、検討が必要でしょう。これに該当する70%以上の人に、この先も転倒する危険性があるといわれているからです。
危ないのは、急いだり考え事をしているときに、足がおぼつかなくなって転倒してしまうこと。たとえば、高齢者はインターホンが鳴ると、慌てて出ようとして転ぶケースがあります。1回でもこうしたケースがあれば、足腰が弱っていると考えられるため、杖を持つことをおすすめします」
次に考えたいのが、歩く速度が遅くなったときだ。
「横断歩道を渡るときに途中で青信号が点滅するようになったら歩く速度が落ちている証拠で、以前に比べて足腰が弱っている可能性が高い。
そのほか、猫背になっていたり、ひざが曲がって前かがみの姿勢になって、つま先が上がりにくい場合も、つまずきやすくなっています。さらに薬を毎日5種類以上のんでいる人は、転倒リスクが2倍高くなるというデータもあります。これらの人は杖を持つことで安心できます」
しかし、自分では足腰の衰えを認めにくいのも事実。家族など第三者の目も必要だと、安藤さんは続ける。
「足腰が弱ると外に出るのが億劫(おっくう)になり、家に引きこもるようになります。すると、どんどん筋力が衰え、将来的に認知症を発症したり、寝たきりになる可能性も高くなる。“安心して歩くためや健康づくりのために杖を使う”という考え方も大事だと思います」
杖=年寄りというネガティブなイメージはない
前出の山浦さんは、高齢者のために杖を贈る人が増えていると話す。
「東京・銀座にある当社のアンテナショップでは、購入者のおよそ半数程度の人がギフト購入です。ひと昔前に比べてデザインもバラエティーに富んだものが多く、お子さんやお孫さんからプレゼントされると喜んで使ってくれるケースも見かけます」(山浦さん)
杖=年寄りというネガティブなイメージはいまではもうない。
「転倒リスクを減らすだけでなく、持つことで歩きやすくなり、歩行距離が伸びるため、健康づくりに役立ちます。運動すれば何才になっても筋力は上がりますし、足腰も鍛えられます。杖を持つことで長く自分の足で歩くことができれば、行動範囲も広がり、前向きな気持ちにもなれる。長い目で見て若さを保つためにも、杖を持つことをおすすめします」(安藤さん)
杖はいつから持てばいい?5つのチェック
1.75才以上である
2.過去1年に転んだことがある
3.最近、歩く速度が遅くなった
4.背中が丸くなった
5.毎日、5種類以上の薬をのんでいる
上の項目に該当する人は、身体機能の衰えやフレイル(虚弱、老衰、脆弱などの意)の兆候が表れやすくなる。2と、そのほかのいずれかに当てはまる人は、転倒リスクが高いので杖の使用を検討してみよう。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2022年3月31日号
https://josei7.com/
杖の種類と選び方…自分に合う長さは?人生100年時代の杖選びを専門家が解説