杖の種類と選び方…自分に合う長さは?人生100年時代の杖選びを専門家が解説
足腰の筋力が低下し、ふらつきや関節の痛み、麻痺などに悩む高齢者にとって“杖”は大事なサポートアイテムだ。自分に合った杖を選べば、歩くことを長く楽しめる。要介護にならないための、まさに転ばぬ先の”杖”なのだ。そこで、杖の役割や効果、選び方などについて、高齢者生活福祉研究所・所長で理学療法士の加島守さんに取材した。併せて編集部おすすめの杖もピックアップ。
杖を使って転倒の予防!要介護になる前に…
厚生労働省の調査※によると、介護が必要になった原因として「関節疾患」「骨折・転倒」が、認知症や脳血管疾患などに並び上位にきている。
要支援は「関節疾患」が1位、「骨折・転倒」が3位、要介護では「骨折・転倒」が3位となっている。関節のトラブルで歩きにくくなり、やがて骨折や転倒しやすくなって、介護度が上がっていくことも考えられる。
「フローリングで滑った」「階段でつまずいた」などの日常生活のちょっとしたアクシデントでも、高齢者にとっては危険。転倒し骨折に至り、そのまま介護状態になることも…。
※2019年(令和元年)国民生活基礎調査の概況「現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/05.pdfより。
「“杖”などの歩行補助用具を上手に用いることで、転倒を予防することができます」
こう話すのは、高齢者生活福祉研究所・所長で理学療法士の加島守さんだ。杖の選び方や使い方についてお話を伺った。
杖の役割3つのポイント
「加齢により筋力の低下や関節がスムーズに動かせなくなると、歩きにくくなり、ふらつきによる転倒も増えてきます。
杖はこのような歩行に悩みを抱える人たちのサポートをしてくれます」(加島さん・以下同)
加島さんによると、杖には3つの役割や効果があるという。
1.体重を分散させて足への負担を軽減
2.バランスを良くしてふらつきを防ぐ
3.歩行リズムを整え安定して歩けるようにサポートする
「杖なしで立っているときよりも、杖をついているほうが体重を支える面が広くなって安定感が増します。
また、膝や腰の痛みにより歩くことが大変になると、外出することが億劫になってしまいます。杖を使うことで安定した歩行ができ、生活範囲を広げることができるようになります」
→認知症予防にも!ウオーキングで得られる4つの健康効果と正しい歩き方3つのコツ
杖の種類と持ち方を解説
●C字型…持ち手がC字で持ちやすく安心感がある。
体重をかけると杖がたわんでしまうことも。体重をかける使い方は不向きで、歩くことが少し不便になってきている人向け。
●Т字型…持ち手がT字の杖。グリップに体重をかけやすい。
握るときは、人差し指と中指の間に杖のフレームをはさんで、グリップに体重をかけるため、ある程度の握力が必要となる。グリップの太さやデザインはさまざまな種類があるので、握りやすいものを選びたい。
●L字型(オフセット型)…杖の上部にL字型のグリップが付いているタイプ。
T字型のようにグリップを指ではさむ力を必要としないため、握力が弱い人でも使いやすい。
●多脚杖…グリップを備え、地面に設置する脚部が3~5本に分岐している杖。
一般的に4点に分岐したものが多く、四点杖ともいわれる。脚部の広さにより、安定性が変わる。
使う時は、4点すべてが床面につくように垂直に杖をついて歩行することが大切。筋力の低下や麻痺がある人に使いやすいタイプ。
このほか、腕を支えるカフと呼ばれるパーツやグリップがあるロフストランド杖や、松葉杖など歩行がしにくくなったとき用の杖もある。
折りたたみできる杖はどうなの?
「折りたたみできる杖は、コンパクトに収納できるので電車やバスなどに乗ったときなど、外出先で邪魔にならない点ではいいと思います」
杖の選び方…自分のサイズに合うものを
ではいったいどのような杖を選べばよいのだろうか?
「いろいろな杖が販売されていますが、杖が必要になったときの体の状況や使う環境などを考えて選ぶことが大切です。自分の体に合うタイプを選んだうえで、デザインや色などの見た目を考えるといいですよ。自分の体に長さが合うかどうかが重要なポイントです」と加島さん。
以下の3つのポイントを踏まえて杖の長さを調整するといいという。
1.杖のグリップが手首までの長さ
腕を垂直に下ろしたとき、杖のグリップの位置が手首(とう骨茎状突起・尺骨茎状突起)あたりにくる。
2.杖の長さは足の付け根ぐらい
立ったときに足の付け根あたり(大転子)までの長さ。
3.肘が軽く曲がる長さ
足の小指の外側15cm、前方15cmのところに杖をついたとき、肘関節が約30度屈曲位になる長さ。
杖を使った正しい歩き方とは?
「杖は麻痺や筋力低下などがないほうの足側の手で握ります。足一歩分ほど前に杖をついて歩くようにします。
ふらついてバランスがとりにくい場合は、持ちやすい方の手(利き手)で握ってみてください。長さは少し長めの方が安定します」
杖を持って歩くことを楽しもう
歩きにくい身体の状態でも、杖を使うことにためらっているシニアもいるが、加島さんは積極的に杖を使ったほうがいいという。
「私自身が脊柱管狭窄症で痛みが強く歩行が大変だったとき、杖を使用していました。転ぶ前に使えば安全に歩くことができ、生活範囲を維持、もしくは拡大することができるでしょう。
福祉用具専門相談員など歩行補助用品の専門家に相談して、身体の状態に合った杖を選ぶことをおすすめします」
→プロが教える在宅介護のヒント 福祉用具専門相談員・山上智史さん<第1回>
実は、88歳になる記者の母は、自分に合った杖を見つけるまでに3本もムダな買い物をしていた。「色がキレイ、デザインがおしゃれ」という視点で選んでは、「使いにくい…」と失敗の繰り返しだった。4本目にしてようやく小柄な母のサイズに合った長さで、グリップが小さめのТ字型の杖に出会った。
杖を使いたいと思ったときは、ケアマネジャーを通じて福祉用具の専門家などに相談し、購入やレンタルできるかを検討するのが安心。自分に合った杖を活用することで、長く自分の足で歩くことを楽しみたいものだ。
→介護が始まるときに慌てない!要介護認定の申請、介護保険サービス利用の基礎知識
→ケアマネジャーとうまくつき合うには…いいケアマネって?|訪問看護師がアドバイス
※図出典元「福祉機器 選び方・使い方 副読本 基本動作編/杖・歩行器等補助用品の選び方、利用のための基礎知識」(加島守/一般財団法人 保健福祉広報協会刊行) https://hcrjapan.org/
※同協会ならびに全国社会福祉協議会主催によるオンライン「福祉機器Web2020」を開催中 https://www.hcr.or.jp/web2020
教えてくれた人
高齢者生活福祉研究所所長・理学療法士/加島守さん
越谷市立病院、武蔵野市立高齢者総合センター補助器具センター勤務を経て、平成16年10月高齢者生活福祉研究所を設立し、所長に就任。一般財団法人保健福祉広報協会評議員。「福祉機器Web2020」では、福祉機器の選び方・使い方セミナーの講師も務めている。
シニアにおすすめの杖5選
今回取材した杖選びの内容を踏まえ、編集部で気になる杖をピックアップ。初めての杖選びの参考にして欲しい。
1.女性でも持ちやすい小ぶりなT字グリップ
右手左手のどちらの手にもなじむ。小柄な女性が持ちやすいように、グリップが小ぶり。
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2.多脚タイプで安定感あり
多脚タイプだから安定感があり、杖が自立するので使いやすい。
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3.握りやすいL字タイプの杖
シリコンで握りやすいグリップと接地面が4本脚で、安定した歩行をサポート。
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4.ドイツ生まれのシンプルなT字型杖
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5.持ち歩きには便利な折り畳み杖
コニュニティバスに乗る時など携帯する場合にとても便利。ついた時にぐらつかないものがお薦め。
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取材・文/本上夕貴
●寿命を延ばす歩き方|1日1万歩は間違い。歩幅、早歩き、正しい靴選び がカギ