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暮らし

シニア期に今の自宅、本当に快適ですか?「ダウンサイジング住み替え」を考える

 超高齢社会を迎え、親のことや自分たちのシニア期への漠然とした不安を抱える人は多いにちがいない。住まいについても、今からできる準備は始めておきたいものだ。「プレシニア期(50~64才位)までに、終の棲家をどうするかを決めた方がいい」と語る住宅ジャーナリストの中島早苗さんが、データや実例を元にシニア期の住宅をどう考えるべきか教えてくれた。

最期まで自宅にいたいが、今の家は快適ではない人が多い現実

 100年ライフに備え、シニア期の住まい、早めに準備しようと提案するこのシリーズ。

 前回、要支援・要介護になったとしても、今の自宅に留まりたいという人が約6割という数字をご紹介しましたが、これは、日本の持ち家率、特にシニアの持ち家率の高さと関係していると思います。

 2018年の国勢調査(※1)によると、日本の持ち家率が6割強なのに対し、65才以上の世帯員がいる世帯の持ち家率は8割強。せっかく建てた、買って住んでいる自分の家にこのまま、あるいはリフォームして住み続けたいと思う人が多いのは、当然かもしれません。

※1 平成30年 住宅・土地統計調査(総務省統計局)
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r02/zentai/pdf_index.html

 しかし一方で、では今の家に住み続けて快適だと思っているかというと、そうでもありません。内閣府の調査(※2)によると「問題がある」と答える人が多いのです。

※2 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果(内閣府 令和2年度)
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r02/zentai/pdf_index.html

「現在住んでいる住宅の問題点」についての回答では、

・「住まいが古くなり、いたんでいる」(30.2%)
・「住宅の構造(段差や階段等)や造りが高齢者には使いにくい」(19.7%)
・「台所、便所、浴室などの設備が高齢者には使いにくい」(12.9%)
・「住宅が広すぎて管理がたいへんである」(11.0%)

 など、不満を抱えている人たちが一定数いるのがわかります。

 古い、使いにくい、広すぎるなどの問題を意識している人の合計は、「何も問題を感じていない」(31.9%)人に比べてずっと多いのです。

 さらに、「身体機能が低下した場合の住宅の住みやすさ」を見てみましょう。

・「多少問題がある」(46.2%)
・「非常に問題がある」(28.3%)

 と答えた人が4人のうち3人にも上り、「住みやすい」(5.2%)、「まあ住みやすい」(16.1%)と答えた人を大きく上回っています。

 このままだと要支援・要介護になった時にまずいぞ、ここには住み続けられないかもしれないと思っている人がほとんど、というのが現状なのですね。

自宅に不満を抱きながらも、改修も住み替えもできないリスクに備える

 中には、その時に備えて改修や建て替えを予定している人もいるでしょう。しかしそれ以外の人は、まずいと思いながら住み続け、そのうちに改修も住み替えもできなくなってしまう、というリスクに直面していると想像できます。

 そう考えると、プレシニア期(50~64才位)までに、後の住まいについて真剣に検討、方向性を決めて準備をしておくのが得策ではないでしょうか。

「せっかく買った、建てた自宅に住み続けたい」という気持ちはわかります。しかし実際問題、今の我が家は、老いて健康度が低下した時に快適に住めるのかどうか。問題がありそうなら、どんな準備をしておけばよいのか。自問してみてはいかがでしょうか。

 子育て期に建てた自宅が老朽化し、夫婦2人あるいは1人暮らしとなった今は広すぎて維持が困難だという問題に直面しているシニアの中には、建て替えあるいは改修か、それとも住み替えかを迷っている人も多いと思います。

引っ越しの準備や片づけが面倒だったばかりに住み替えられなかった例

 私の知人も、還暦を迎える頃、その悩みに直面していました。

 その女性は夫に先立たれ、40代の息子と2人暮らし。2階建ての木造家屋は築40年を過ぎ、あちこち修繕が必要な状態です。彼女は維持管理が手に余るその戸建てを売り、ワンフロアの小さなマンションに引っ越したいと希望していましたが、息子は「家を売りたくない」。となると、建て替えが選択肢となりますが、建築中はどこかに借り住まいをする必要があり、2度引っ越しをする可能性があります。彼女は「2度も引っ越しなんて、ゾッとする。絶対ムリ」。2人の意見は平行線のまま10年が過ぎて彼女は70代になり、とうとう住み替えの体力・気力が失せてしまったのか、何も言わなくなりました。

 そうなる前に建て替えか住み替えをしておけば、1日も早く快適な家に住めたのに。この話を思い出す度に、私まで切ない気持ちになります。

 増えてしまったモノの片づけ、断捨離、引っ越しは確かに一大事で骨が折れますし、私自身も引っ越しは大嫌いです。余談ですが、私は荷物のパッキングも苦手なので、楽しみにしていた旅行さえ、前日のパッキングが面倒でキャンセルしたくなるという本末転倒的な気分になります。

 そのくらい、荷物の整理はストレスだというのはわかります。しかし、増えすぎたモノの整理、断捨離はいつか、できれば定期的にすべきもの。そのままにしておくと、残った家族が後に困ります。いつかしなきゃならないなら、早い方がいい。なにせ、今日が一番若い日なのですから。

ダウンサイジングに成功した実例

 ダウンサイジング住み替えに成功した知人もいます。

 友人の両親は信越地方の実家に長らく住んでいましたが、高齢になり、老朽化したその戸建て住宅を売って娘たちのいる関東地方の戸建て賃貸住宅に引っ越して来ました。その後、ほどなくして小さいマンションに住み替え、さらにまた、URが運営する賃貸の高齢者用団地に住み替えて、現在に至ります。

 友人曰く「住み慣れた家を手放す時は、両親は失意のどん底という感じだったが、今となってはコンパクトな暮らしで掃除もラク、床暖房で暖かい。ゴミ出しもいつでもできると便利なことが沢山あって、引っ越してよかったと言っている。引っ越しを重ねるごとに、どんどんモノを捨ててくれて、よく親の家の片づけが大変だという話を聞くけれど、そういう意味で妹も私もとても助かっている」のだとか。
 
 断熱性も気密性も低く、バリアフリーでもない、今では広すぎる戸建て住宅はヒートショックや転倒のリスクもあるので、この友人の両親は、思い切ってダウンサイジング住み替えができて本当によかったと思います。

 高齢者用住宅はシニアに優しい間取り、設備が工夫されているので、健康寿命を延ばすという意味でも住み替えにはよいチョイスの一つではないでしょうか。

モノを捨てるのは辛いが、その先にある清々しさの方が大きい

 自身がシニアになり、やはり子ども家族の住む町のマンションに夫婦でダウンサイジング住み替えをした別の友人が金言を教えてくれました。

 新聞記者だったその友人はとにかく本を沢山持っていました。でも思い切って多くのモノを断捨離したそうです。

「捨てる時には泣くほど辛いが、1週間も経てば何を捨てたかも忘れている」

 私も断捨離する時、この言葉を思い出して自分を励まし、捨ててみましたが、本当でした。捨てる時は思い出のモノとの別れが辛いですが、慣れると、新たな空間を得られた清々しさ、喜びの方が大きいことに気づきました。

 ダウンサイジング住み替えも、同じようなことなのかもしれません。古い家を手放す、建て替える時は泣くほど辛いでしょう。でも、今の自分、未来の生活に合ったサイズ、仕様、設備になった新居に慣れれば、その快適さに、きっと自分の決断に満足すると思います。

 住めば都。人によって住み替え、改修、建て替え、かたちはいろいろだと思いますが、動けるうちに、動きたいうちに。未来の自分のための住まい、考えてみましょう。

文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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