大切な人を亡くしたら…毒蝮三太夫さんが教える「残された人ができること」
大切な人との別れは、生きている限り避けては通れない。高齢の父親が長年の親友を亡くして、ふさぎ込んでしまった。そんな様子を見て心配する50歳の娘さんからの相談。どう声をかけてあげればいいのか。あるいは何も言わないほうがいいのか。マムシさんが自分の体験を踏まえつつ、あたたかく実践的なアドバイスを贈る。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み「親友が亡くなって父親がふさぎ込んでいる」
この夏もあんまり出歩けないから、何日か前にエアロバイクを買ったんだよ。日が暮れて、ちょっと涼しくなった頃にやってる。まだ最初だから10分ぐらいかな。それでもけっこう汗をかくんだよね。ほかにもスクワットを毎日やったりしてる。年齢が年齢だから、体力を維持する努力を続けないとね。好きなことを言って笑ってられるのも、元気で過ごせているからこそだ。
今回は、父親を心配する50歳の娘さんからの相談。なるほど、これは誰にでもあることだな。俺もこれまでの人生の中で、たくさん覚えがあるよ。
「父は77歳。春に父の長年の親友が亡くなりました。会社の同期で公私ともに仲が良かったようです。ガンで長く闘病なさっていました。『最後の入院』だとわかっていても、コロナ禍でお見舞いにも行けず、お葬式もありませんでした。以来、父はすっかりふさぎ込んでいます。時おり『もう一度、飲みに行こうって約束したのに』『俺とヤツががむしゃらに働いたから、会社の今があるんだ』などと、父らしくないことを呟いています。このまま認知症になってしまわないか心配です。どうすれば元気づけてあげられるでしょうか」
回答:「思い出話は供養、言いたいだけ言うのがいいよ。そして、亡くなった人の置き土産から学ぼう」
お父さんにとっては、人生をともに戦ってきた戦友なんだろうね。そりゃ、つらいよな。ましてやこのコロナ禍で、お見舞いにも行けなくてお葬式もないとなると、気持ちの区切りがつかない。あらためて、コロナウイルスってヤツは厄介だよ。
見ているあなたもつらいだろうけど、しばらくは言いたいだけ言わせてあげるのがいいと思う。「お父さん、もうそんなこと言わないで」って抑えつける必要はない。その人の思い出話をするのは、線香や花をあげるのと同じように、立派な供養だからね。
ただ、そういう状態がいつまでも続いて、「俺も早くあいつのところに行きたいよ」「もう生きててもしょうがない」なんて、どんどんマイナスのスパイラルに入っちゃうのは良くない。タイミングを見て、娘のあなたが「お父さんが元気出さないと、お友達の〇〇さんが悲しむわよ」とか「お父さんのそういう姿、〇〇さんは見たくないんじゃないの」なんて言ってあげればいい。それが家族や娘としてのサポートなんじゃないかな。
思い出話をするのは供養だし、残った人が元気に過ごすのも供養だよ。俺も親を亡くしたときは人並みに悲しかったし、親友の立川談志の野郎も10年前にさっさとあの世に行っちまった。同級生だって、ひとり減りふたり減りしていく。ふさぎ込んでいたら供養にならないから、上を向いて空に向かって「俺はまだまだ元気で頑張るから、そっちから見てろ」って心の中で叫んでる。「だから気長に待ってろ」ってね。
それと、先に亡くなった人は、残ったこっちに必ず何か置き土産をしてくれているはずなんだ。たとえばガンの発見が遅れて死んだんだったら、早期に発見できるようにマメに検査を受けないといけないとか、交通事故だったら事故にあわないようにこういうことに気を付けようとか、酒が原因だったら少し控えようとかね。
それに、財産がぐちゃぐちゃになってて遺族がもめてるなんてこともありそうだ。これは置き土産っていうより、形見だね。形見からしっかり学習するのも、生きているものの務めだよ。そして、カミさんが「あの人、とうとうやさしい言葉のひとつも言わないまま行っちゃったのよ」ってこぼしてたら、自分は死ぬ前に言っておこうと思える。
「このまま認知症になってしまわないか心配です」って書いてるけど、それは大丈夫だ。昔のことをあれこれ思い出すのは「回想法」って言って、認知症予防に効果があるといわれている。あなたが話し相手になって「会社ではどんな人だったの?」「どういう仕事をいっしょにやったの?」なんて、どんどん聞いてあげてもいい。親の昔のことを聞くいい機会でもある。そういう時間が持てることも、亡くなった人からの贈り物だよね。
どんな大事な人が亡くなったとしても、落ち込んだ状態が何年も続くわけじゃない。生活をしていくあいだに、少しずつ落ち着いた気持ちに戻っていく。それはけっして、その人に対する思いが薄くなったってことじゃない。落ち着いて自分の人生を生きてるってことだから、それでいいんだよ。あなたのお父さんも、だんだん元気になっていくはずだ。それにしても、父親思いのいい娘さんだね。これからもお父さんことを大事にしてあげてくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
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取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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