「母との同居を考えると死にたくなるほど嫌」と思い詰める女性に毒蝮三太夫さんが真剣に向き合う【連載 10回】
親子の絆は太くて頑丈で、切ろうとしても切れない。それだけにいったん関係がもつれ始めると、どんどん深刻になっていく。ひとり暮らしの母親を心配しつつも、顔を合わせるたびに怒りが爆発し、あとで自分が嫌になるという51歳の女性。激しく揺れ動く心情を吐露する相談者に、マムシさんが解決の糸口になる方法を提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「母親と暮らすことを考えると死にたくなる」
昔の偉い思想家は「人間は考える葦(あし)である」と言った。足じゃないぞ。こうやってお悩み相談のコーナーをやってると、あらためて「人間は悩める葦である」と思うな。誰しも大なり小なり悩みを抱えている。出口を見失って悶々としている人も多い。ここを読んだ人が、自分の悩みと同じじゃなくても、参考になる部分が何かあったら嬉しいね。
今回の相談者は、51歳の女性。76歳の母親との関係に悩んでいる。長いメールだったから、ちょっと短くさせてもらった。
「母親といると私の怒りが爆発します。10代の頃からです。高校を出てひとり暮らしを始めて以来、ほぼ連絡を絶っていました。私のことは大事に想ってくれているので、嫌いたくはありません。いっしょに過ごす時間だけでも、機嫌よく愛想よく振る舞いたいと思うのですが、それができなくて、いつも変な別れ方をして自己嫌悪に陥ります。
三姉妹の真ん中で、私だけ独身でいちばん近くに住んでいます。ひとり暮らしの母が心配で、私がいっしょに暮らすべきだと考えています。母親のことは受け入れています。同時に、自分の中にある母親が苦手だという気持ちも受け入れています。恩返しもしたいし、残りの人生は同居して楽しく過ごしたいと考えています。でも想像すると、嫌で嫌でしかたなくて『死のうかな』と思ってしまいます。 死にたくないし、母にも死んで欲しくないです。ほんとにほんとに辛いです。葛藤を少しでも減らしたいです」
回答:「うまくいかなければまたやり直せばいい。顔を上げて視野を広げてみて」
これはまた、ずいぶん思い詰めちゃってるな。たとえ本気じゃないにしても、「死のうかな」なんて言っちゃダメだ。死ぬほど嫌なんだったら、同居なんてしなくていいよ。同居するって決めてるみたいだけど、まあそこは、いろんな事情や考えがあるんだろう。
相談全体から伝わってくるのは、あなたがお母さんと自分との1対1の関係の中に閉じこもって、がんじがらめに縛られてるってこと。まわりも見えなくなってる。あなただけじゃなくて、お母さんもきっとほかに関心を向ける対象がない。だから、あなたにキツイ言葉を言ってきたりして、結果的に「私の怒りが爆発」ってことになるんじゃないのかな。
まずは、自分の生活パターンを変えてみよう。同性の友だちでもボーイフレンドでも、気の合う相手と楽しく過ごす時間を増やす。ひとりで趣味に没頭してもいい。趣味がないなら、映画でもお城めぐりでも人形作りでも、あれこれ手を出して探してみる。男前のアイドルにはまって「推し」を一生懸命に応援するのも楽しいんじゃないか。
お母さんは、犬とか猫とかペットを飼うといいよ。高齢の親が動物を買うことで心が和んだって話はよく聞くからね。マンションの規約で動物は飼えないとか、最後まで面倒を見る自信がないとかっていうことなら、鳥を飼うのもいいかな。鳥なら散歩に連れて行く必要もないし、家をあけられないってこともない。
いっしょに暮らすことになったとしても、動物なり鳥なりがいたら会話のきっかけになるし、クッションにもなってくれるよね。ふたりっきりで顔を突き合わせていると、つっけんどんになったり余計なことを言っちゃったりする。今だって会うたびに腹が立つと書いてあるけど、どっかに出かけるときは自分の友だちを連れて行くといいんじゃないかな。お母さんの友だちでもいい。そうやって、ふたりだけの息が詰まる状況を壊していこう。
俺の知っている50代の女性の親は、今は施設に入ってるんだけど、普段は穏やかで愛想がいいのに娘が来ると怒鳴り散らすらしい。娘には甘えられるもんだから日頃の反動が出るんだな。長年の人生で積もり積もった不満をぶつけている部分もあると思う。娘のほうも、腹は立つけど「自分にしか言えないから」と思って、ウンウンって話を聞いてあげてる。
これだって、いっぺんにたくさんは受け止められない。あなたの場合は、頻繁に電話をする手もあるよね。話すことなんてなくてもいいんだよ。「生きてるかなと思って電話した」なんてふざけた調子で電話をかけて、どうでもいい話をする。そこから関係が変わっていくかもしれない。愚痴や不満を言い始めても、少しなら聞いてあげられるしね。
葛藤を減らしたいって最後に書いてあるけど、それには先回りしてあれこれ心配しないことだな。用心は大事だけど、心配ってヤツはすればするほど不安や葛藤が増えるばっかりだ。顔を上げて視野を広げて、とにかく行動してみる。うまくいかなかったらまたやり直せばいいんだよ。失敗は成功の母、心配は失敗の母だ。
あなたが生まれてきたのも、母親がいたからこそ。つらいことも楽しいこともあっただろうけど、母親はかけがえのない存在なんだ。そのことだけはしっかりと心に留めておいてくれよ。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調!毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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