「昔の銀歯」「抜けた歯」そのままで大丈夫?歯の古い常識をアップデート!【歯科医師監修】
歯科治療の技術は進化する一方、保険診療は使う材料や方法が決められているなど、制約が多いのが現実だ。1950年と2010年を比べると、60年間で平均寿命が男性1.37倍、女性1.4倍も伸びたいま、自由診療で長持ちする治療を選ぶのも選択肢の1つ。そこで、歯科治療に関する疑問を専門家に伺った。
【Q1】古い銀歯は取り除いた方がいいの?
◆遠い昔に入れた銀歯が、アマルガムなら要注意
「30年以上前には、水銀とほかの金属の合金であるアマルガム製の銀歯が使われていました。このため、認知症のリスク要因の1つである水銀が少しずつ溶け出している可能性があります」(サウラデンタル クリニック院長・堀滋さん・以下同)
これ以外にも、銀歯の周囲の歯が虫歯になった場合は、古い銀歯は除去した方がいい。
「アマルガムを除去する際は、除去時に発生する水銀の蒸気を吸い込まないように、ラバーダム(ゴムマスク)を使用するなどの対策をしているクリニックを選びましょう」
現在、保険適用の銀歯では、パラジウム合金製が主流。
「銀歯の場合、隙間から虫歯になる人も多いのですが、この銀歯は、10年以上前から、アレルギー問題などで使用禁止の国もあります。世界では歯科材料の主流は金属から樹脂やセラミック(※6)に移行しつつあります。古い銀歯がある場合は、歯科医に相談を」
※6 セラミック:ガラス素材で透明感のある再現性の高い材料。
【Q2】歯が抜けてしまったらそのまま放置して大丈夫?
◆放置するとドミノ倒しで不具合が起こる可能性大
歯が抜けたのに「特に問題ないから」と歯科にかからず、そのまま放置すると、一体どうなるのだろう?
「歯を1本でも失うと、うまく噛めなくなり、発音しづらくなる。上下の歯の噛み合わせが悪くなり、頭痛・肩こり・耳鳴りなどを招くこともあります。場合によっては、咀嚼する力が弱くなり、将来的に認知症のリスクも高まるなど、デメリットしかありません」
なぜ、噛み合わせにまで影響するかといえば、抜けた歯のスペースを埋めるように隣の歯や上顎や下顎の歯が寄ってきてしまうからだ。
「そうなると、歯と歯の隙間が広がり、虫歯や歯周病にかかりやすくなります」
コロナ禍で、マスクで顔を隠している日々が続いているとはいえ、この先の長い人生を考えれば放置せず、早めに歯科で相談することが重要だ。
「抜けたり失ったりした歯は、ブリッジや部分入れ歯、インプラントなどの方法でカバーできます。あきらめないで」
噛み合わせがきちんとできれば、頭痛・肩こり・めまいなどの不調が解消されることもある。
【Q3】歯や詰め物の材質は、金属よりセラミックにすべき?
◆銀歯は保険適用、セラミックは保険外。特徴の見比べを!
虫歯などで欠損した部分に詰め物やカバーをする場合、保険適用なら銀歯かプラスチックを使うことが多い。
「一般にプラスチックよりも金属の銀歯は強いという利点があります。しかし、金属は目立つのと、金属イオンが溶け出して、金属アレルギーを引き起こす可能性もある。長い目で見て、材質の検討をおすすめします」
そう話すのは、補綴(ほてつ)専門医・指導医で、永田歯科医院院長の永田浩司さん。
また、保険適用外の自由診療で、白い歯にできると人気のセラミックと金属の違いについて、ジャパンデンタルクリニック院長の田名網宏樹さんは、次のように語る。
「銀歯の場合、どんなにうまく治療しても、歯の伸縮作用で、歯と詰め物の間に30μの隙間ができるため、そこから虫歯になることがあります。すると、また削って詰め直すことになる。自由診療の場合は、そうした歯の収縮や金属アレルギーを起こす心配がないセラミックがおすすめです。再治療の回数が減らせるため、経済的ですね」
★金属の詰め物の境目から広がった虫歯を治療し、セラミックを詰め直した治療例。
上にある写真が、銀歯からセラミックを詰め直した治療例だが、見た目も白色で違和感がなくなった。保険適用外では、ジルコニア(強度が高い人工ダイヤモンド)や、コンポジットレジン(セラミックにプラスチックを混ぜたもの)、金(人体と相性もよく隙間でも伸びる性質がある)などがある。
「それぞれ金額が異なるので、歯科医と相談してみてください」(田名網さん)
【Q4】痛い歯は神経を取ってしまった方がいいの?
◆昔に比べ極力残す方向だが、取らざるを得ない場合も
昔は歯の神経を残す治療法が進んでいなかったが、最近は神経を温存する治療が進歩している。
「虫歯が神経に達した場合、歯の内部の細胞を除去した後、内部の穴を精密に封鎖する根管治療が必要です。この治療の5年経過後の成功率は米国で90%、日本の保険治療では60%。この差は技術力ではなく、日本独特の保険制度の弊害で、根の治療に充分な時間とコストをかけられないという事情もあります」(堀さん)
「歯は、神経の空洞部分に血液が流れて生きています。ウイルス感染や炎症が起きた場合は、この血液内の白血球により歯は守られています。そのため神経を安易に取ると炎症に気づかず、歯がもろくなりやすい。当院では神経を取る場合は、薬剤とセメントを充填・封印する治療を行っています」(田名網さん)
神経を取るかどうかは慎重な判断が必要だ。
【Q5】インプラントや入れ歯は一度作れば一生モノ?
◆口の中の状態によってケアや調節が必要
高い治療費をかけてインプラントや入れ歯にしたからには、一生大丈夫と思いたい。だが、それは大間違い。
「入れ歯でも、年齢とともに顎の骨の形が変化することもあるので、長く使うためには定期的なチェックと調節が必要になります。また、インプラントも、インプラント周囲炎という歯周病になる可能性もあります。長持ちさせるには、歯科医院での3か月ごとの定期的なクリーニングと検診を受けることが必須です」(堀さん)
毎日のお手入れも忘れずに。
【Q6】歯が痛くなければ歯科に行かなくてもよい?
◆ホームケアだけじゃ無理。歯科で定期的にケアを
「口腔内が酸性に傾くと虫歯の、アルカリ性に傾くと歯周病のリスクが高まります。歯間などにできる細菌の集団であるバイオフィルムは一度掃除しても、約3か月で再び成熟します。バイオフィルムを自宅ケアだけで除去するのは、実質無理」(堀さん・以下同)
もし歯が痛くなくても、下記の項目に心当たりがある場合は、検診やクリーニングなどを受けておきたい。
「歯の定期検診に通えば、体調や口の状態も診てもらえます。身近な“かかりつけ医”として歯科を利用しましょう」
自分の歯は大丈夫? 歯周病セルフチェック
□口臭を指摘された・自分で気になる。
□朝起きたら口の中がネバネバする。
□歯みがき後に毛先に血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。
□歯肉が赤く腫れてきた。
□歯肉が下がり、歯が長くなった気がする。
□歯肉を押すと血や膿が出る。
□歯と歯の間に物が詰まりやすい。
□歯が浮いたような気がする。
□歯並びが変わった気がする。
□歯が揺れている気がする。
○が1~3/歯周病の可能性が。軽度のうちに治療を受けよう。
○4~5以上/中等度以上に進行している可能性が。早期に治療を。
○なし/無症状でも歯周病になる可能性があるので年に1度の検診を。
(※)上記のチェックリストは、日本臨床歯周病学会ホームページより。
教えてくれた人
堀滋さん/サウラデンタル クリニック院長
1990年に開設。2016年に自由診療専門クリニックに。著書に『歯のメンテナンス大全』(飛鳥新社)など。
田名網宏樹さん/ジャパン デンタルクリニック院長
2015年に同クリニックを開設。「抜かない、痛くない、怖くない」歯科診療を最新の医療技術で実践している。
永田浩司さん/永田歯科医院院長
日本補綴歯科学会指導医、ヨーロッパインプラント学会(EAO) 認定医、噛み合わせ認定医。
取材・文/北武司 イラスト/こさかいずみ
※女性セブン2021年4月1日号
https://josei7.com/
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