虫歯・歯周病の最新Q&A|歯を磨かないと人はどうなる?感染リスクとの関係は?【医師監修】
100才以上が8万人を突破した日本では、歯を守ることが社会的な課題となっている。歯を守る知識を得るために、まず押さえておきたいのが、新型コロナウイルス感染症に関する新常識。コロナ自粛で、飛沫と接触の多い歯科医院への診療控えが話題になっていたが、そこには大いなる誤解が。間違った知識で歯をダメにしないためにも、素朴な疑問を解消しておこう。
【Q1】口内トラブルがある際、新型コロナに感染した時のリスクは高まる?
◆歯周病菌による敗血症が新型コロナの死亡リスクに関与
新型コロナウイルス感染症は、糖尿病や慢性腎臓病などの基礎疾患がある人が感染すると、重症化リスクが高くなるといわれている。
「実は、歯科疾患の歯周病や重度の虫歯も、新型コロナウイルス感染症を重症化させる基礎疾患の1つと考えられます」(鶴見大学歯学部 探索歯学講座教授 花田さん・以下同)
基礎疾患とは、体の中で酸化ストレスや慢性炎症を抱えている状態であり、いわゆる善玉コレステロール(HDL)が少ない人のことだ。
「腫れたり出血したりする歯茎の歯周ポケットや、虫歯の根の先にできる根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)から、グラム陰性菌という歯周病菌が増殖し、その表面にあるLPS(エンドトキシン)という毒素が血流に入ると菌血症(※3)を起こします。
菌血症とウイルス血症が重なると敗血症(※4)になり、新型コロナウイルスの死亡リスクに関与することがわかってきています。新型コロナウイルス感染症に感染したとき重症化させないためには、歯周病菌の増殖を止めておくことが大切なのです」
■6つの心がけと早めの治療が大切
本来、私たちの体にはHDLが40mg/dL以上あるため、LPSを除去し、無毒化できるが、歯周病の重症度が高いと菌血症などを起こしやすくなるため、HDLの数値が40mg/dLを下回らないようにすることが重要だ。
「そのためには、栄養や運動、休養、禁煙、禁酒、歯の健康、の6つを心がけ、総合力でHDLを増やすことが大切です」
またその際、コロナウイルスを血液中に入れないことも忘れてはいけない。そのためには、すでに歯周病や虫歯がある人は早めに治療することが重要だ。
(※3)血流に細菌が存在する状態をいう。
(※4)体の中で細菌が繁殖し、生命を脅かす状態
【Q2】歯磨きをしなかったらどんなリスクがあるの?
◆3週間歯磨きをしないと動脈硬化リスクが上昇
新型コロナウイルス感染症に備えるには、歯周病菌ケアを日々続けることが重要だ。では、もし歯磨きをしなかったらどうなるのだろう? この点について、欧米では人での実験が行われている。
「アメリカで実施された『歯磨きをしないで3週間過ごす実験』では、エンドトキシンが血中に入って全身の血管で炎症が起き、動脈硬化のリスクが上がることがわかりました。ドイツでも追加試験が行われていて、歯を磨かないと動脈硬化の血液マーカーが上昇し、磨くと低下することも報告されています」
つまり、歯を磨かないだけで歯周病菌は血管にダメージを与え、症状を悪化させる。歯周病や虫歯を放置するのは危険!と肝に銘じておこう。
【Q3】歯科医院で感染クラスターが発生しないのはなぜ?
◆以前から感染症対策を徹底してきた歴史あり
「そもそも、歯科医院は飛沫と接触の多いところ。しかしコロナ禍以前からC型肝炎やエイズなどの感染症対策に力を入れてきたため、新型コロナウイルス感染症の院内感染の例は聞きません」
と、サウラデンタルクリニック院長の堀滋さんは話す。感染予防できる理由は、グローブやマスクの交換、ハンドピース(歯を削る機械)やスケーラー(歯石除去に使う金属棒)の滅菌・交換、歯を削る際も水しぶきが飛び散らない口腔外バキューム完備の医院が増えた点も見逃せない。
「新型コロナウイルスは舌の表面や唾液腺など口腔内で増えますが、治療用機器では常に水を出すことでウイルスも希釈される効果があるのかもしれません」(サウラデンタル クリニック院長 堀さん)
【Q4】洗口剤や舌磨きを使うのは、コロナ対策に有効なの?
◆ウイルスや細菌の数を減らすのに効果あり
唾液でのPCR検査が広く行われるのは、唾液腺や舌などの口腔粘膜に新型コロナウイルスの受容体があるからだ。
「洗口剤で口うがいや舌磨き、さらに歯間掃除や歯磨きをしてウイルスだけでなく細菌の数を減らすのは、感染後の重症化予防の一助になると考えられます」(花田さん・以下同)
欧州では市販の洗口剤のうち、リステリンのミント味やポビドンヨードを含んだものが効果ありと報告されている。
「特にCPC(※5)という殺菌剤がウイルス不活化に効くとわかったことは大きい。ウイルスは微量なら免疫でコントロールできるが、大量だとコントロール不能。数がカギです」
外出から帰ったら、口うがいや舌磨きを手洗いとともに、日課に取り入れよう。
(※5)CPC:正式にはセチルピリジニウム塩化物水和物(塩化セチルピリジニウム)という。口腔用製剤では殺菌剤として配合されることが多い成分。
【Q5】マスク着用で増えている口呼吸や、筋肉の衰えを改善する方法は?
◆「あいうべ体操」で口呼吸と筋力を改善
コロナ禍ではマスクの弊害も指摘されている。たとえば、口呼吸や口のまわりの筋肉の衰えなどだ。
「人間は通常、鼻呼吸をしていますが、マスクの息苦しさから、つい楽な口呼吸になり がちです。口呼吸になると呼吸が浅くなるだけでなく、口の中が乾燥して、口臭や歯周病が悪化することもあります」(堀さん・以下同)
鼻呼吸では、吸った空気が鼻の奥の鼻腔を通って肺に送られ、鼻毛や鼻の粘液にも異物を取り除く働きがあり、細菌やウイルスを防御できる。だが、口呼吸では吸った空気が直接肺に送られてしまうため、さまざまな悪影響を及ぼす。
「マスクで表情を気にする必要がなくなり、口や顎を動かす機会が激減。その結果、口のまわりの筋力が低下してしまうのです。そうなる前におすすめなのが『あいうべ体操』です」
これは、口呼吸を鼻呼吸に改善していくために考案された口の体操だ。やり方は下記のイラストを参考に行おう。
「あいうべ体操」のやり方
『あいうべ体操』は、福岡にあるみらいクリニック院長の今井一彰さんが考案。
【1】「あー」と口を大きく開く(普段より大きめに)。
【2】「いー」と口を大きく横に広げる(首に筋が張るくらい)。
【3】「うー」と口を強く前に突き出す(しっかり前に出す)。
【4】「べー」と舌を突き出して舌の根元から伸ばす(顎の先をなめる感じで)。
この【1】~【4】を1セットとし、1日30セットを目安に毎日行う。口を動かすことで、口まわりの筋肉も強化できる。
教えてくれた人
花田信弘さん/鶴見大学歯学部 探索歯学講座教授、
口腔衛生研究の第一人者。3DSという除菌治療法を開発。歯科大学などで客員教授や非常勤講師を務める。
堀滋さん/サウラデンタル クリニック院長
1990年に開設。2016年に自由診療専門クリニックに。著書に『歯のメンテナンス大全』(飛鳥新社)など。
取材・文/北武司 イラスト/こさかいずみ
※女性セブン2021年4月1日号
https://josei7.com/
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