妻が認知症に!トラブルを未然に防ぐために夫がするべき対策【役立ち記事再掲載】
我が家には起きない──そう思っていませんか? しっかり者の妻が、なぜ認知症に…… だが、落ち込んでいる暇はない。お金のこと、健康のこと、家事のこと、そしてこれから先のこと。早めに手を打っておく対策は何だろう。
妻が認知症になってから症状が悪化していく期間は、想像以上に短い。そして、その間に家事や買い物など「普段どおりの妻の行動」がさまざまなリスクに変わっていく。家庭の内外で起こり得るトラブルを未然に防ぐために、夫がすべきことを考える。
ご近所に「カミングアウト」を
●トラブル対策:振り込め詐欺
夫の留守中、妻が電話に出て“振り込め詐欺”にひっかかるといったトラブルも起こり得る。
「基本的に家の固定電話は撤去して、必要な時にだけ携帯電話を使わせるようにすれば、振り込め詐欺被害の心配はなくなります」(介護アドバイザーの横井孝治氏)
また、玄関先への防犯カメラの設置も、悪質な訪問販売業者への心理的プレッシャーとなる。数千円で購入でき、素人でも簡単に設置できる“ダミーカメラ”でも一定の効果はあるので、検討の余地はあるだろう。
●トラブル対策:スーパーで万引き
認知症の人がスーパーなどで万引きしてしまう“事件”も後を絶たない。本人は盗んだ自覚はなく、ただ「お金を払うのを忘れていた」、あるいは「商品を持っているのを忘れて店を出てしまった」だけというケースもあるが、スーパーに呼び出されたり、警察を呼ばれる事態は避けたい。
「基本的には、ひとりで買い物に行かせず、夫が一緒に付き添うことです。念のために最寄りの警察に事前に相談したり、いつも行くスーパーや用品店があれば、そこにも妻が認知症であることを事前に伝えておく。また、周囲の住民にも明かしておくといいでしょう。
男性の場合、妻が認知症であることをカミングアウトできず、“自分が面倒をみればいい”“他に知らせる必要はない”と考える傾向が非常に強い。でも、それでは結果的に周囲に迷惑をかけたり、妻が万引き犯扱いされて夫が追い込まれていくことになる。認知症は周囲のサポートがなければ確実に困ることになると自覚してほしい」(横井氏)
●トラブル対策:賠償請求
一般的に、女性の日常生活は地域コミュニティに根差したものであり、徒歩や自転車での行動範囲は思いのほか広い。車での移動が多い男性が認知症にかかった場合、免許を自主返納すれば行動範囲は自ずと狭まるが、女性の行動パターンが急変することはあまりない。そのため外出先で思わぬ事故やトラブルに巻き込まれるリスクがある。
特に自転車での外出は注意が必要だ。他人を巻き込む人身・物損事故だけでなく、線路内に立ち入り電車を立ち往生させてしまうような事態も考えなければならない。たとえ故意でないにせよ、そのような事故を起こせば家族は監督責任を問われ、多額の賠償請求をされることがある。
その対策として、ファイナンシャルプランナーの鴇巣雅一氏は、個人賠償責任保険への加入を推奨する。
「この保険は他人の物を壊したり、ケガをさせた場合に、その賠償金を保障してくれる保険です。個人賠償責任保険という保険商品が単独であるわけではなく、損害保険の特約として付けることができるものなので、火災保険や自動車保険の特約として入ればいいでしょう。保険料は年間1000円以内で、同居している家族は全員対象になります」
近年は線路への立ち入りなど、認知症患者の過失による損害賠償に対応した保険商品も続々と登場している。
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妻より先に自分が死んだら…「妻を守る準備」
これまで見てきた対策は、夫が生きている間にできることだ。しかし、もし認知症の妻を残して、夫が先立つことになった場合、残された妻はいったいどうなるのか。
身近に子どもや親戚がいればいいが、頼る相手がいなければ、自分が生きている間に「妻を守る」準備をしておくしかない。
●絶対にひとりで抱え込まない
認知症予防財団の吉田啓志事務局長が言う。
「妻が認知症になった時に、絶対にいけないのはひとりで抱え込むことです。各自治体が設置する地域包括支援センターに相談し、ケアマネジャーや専門医などのサポートを受ける。そうして市町村、医療・介護関係者らにサポート体制を作ってもらっておけば、自分に万が一のことがあっても、妻を支えてもらえるのです」
実際、行政は堅実な支援体制を敷いている。前出・米山医師は行政サービスの積極活用を促す。
「地域包括支援センターの介護認定調査員が『ひとりで行動ができない』と判断すれば、要支援認定を受けることも可能。要支援となれば、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が自宅訪問してリハビリを行なってくれたり、週1~2回、訪問介護員が来て食事や入浴、掃除、洗濯、調理などの生活援助をしてくれます」
夫の死後も手厚いサービスは変わらない。
「介護者が亡くなり、身寄りのない認知症要介護者となったら、生活保護法により、我々が特別養護老人ホームや介護老人保健施設に入居させます。施設に空きがない場合は、介護保険で利用できる施設にショートステイしてもらうなどの対応を取ります。介護者が事前に福祉事務所に、“介護者が亡くなると身寄りがない”などの介護扶助の申請をしておくと、我々の対応もスムーズになります」(東京都福祉保健局生活福祉部)
対応は自治体によって異なる可能性があるため、予め調べておくと良いだろう。
自分にだって、いつ万が一のことが起きるかわからない。妻が認知症になった時の対策を、いまから心しておきたい。
教えてくれた人
横井孝治さん/介護アドバイザー。
鴇巣雅一さん/ファイナンシャルプランナー。
吉田啓志さん/認知症予防財団事務局長。
※週刊ポスト2018年6月8日号