「親が好きになれない…」と悩む人に毒蝮三太夫が目からウロコのアドバイス【連載 第38回】
親と子どもの関係は、時になかなか厄介だ。世の中の親が、すべて「尊敬できる存在」とは限らない。近い関係だからこそ、欠点が目に付くこともある。「好きになれない親」と、そして「親が好きになれない」という気持ちと、どう付き合っていけばいいのか。誰よりも多くの高齢者と接してきた毒蝮さんに、子どもの側の心得を聞いた。(聞き手・石原壮一郎)
親に「もっとこうなってほしい」と思うのは、ないものねだり
世の中には、いろんな親がいるよな。ホームドラマや泣ける映画に出てくるような、やさしくて子ども思いの親ばかりじゃない。子どものほうだって、立派なのもいればダメなのもいるから、尊敬できる素晴らしい親ばかりじゃないのは当たり前だ。
俺は常々「チャーミングな年寄りを目指そう。そのほうが周囲も自分も気持ちがいい。やさしく接してもらえて何より自分が得だよ」と言い続けてる。だけど、すべての高齢者がチャーミングになれるわけじゃない。ハナから「そんなの知ったことか」とソッポ向いちゃうのもいるだろうね。
ただ、憎たらしいジジイやババアがいても、他人だったら「まったく、しょうがねえな」と思ってればいいけど、それが自分の親だったらそうはいかない。近い関係だからこそ、困った部分が余計に目に付くってこともあるだろう。どんなにロクでもない親でも、子どもとしては「親を悪く思っちゃいけない」って後ろめたさが付きまとうしな。
俺も何度か、若い人から「親が好きになれないんです」って相談を受けたことがある。そういえば、ちょっと前に元総理大臣が失言でずいぶん叩かれた。奥さんや娘さんもたいへんだったよな。あの立場だったから大騒ぎになったけど、あんなこと言ってるジジイはいっぱいいるよ。だけど、歳をとってから性格や考え方を変えるのは、まあ無理だね。
子どもが親に対して「もっとこうなってほしい」「どうしてこうなんだろう」と思うのは、ただのないものねだりだし、はっきり言ってしまえば勝手なワガママだ。そういう親のところに生まれたのは自分の運命なんだから、受け入れるしかないんだよ。親には親の人生や都合があって、その中で精いっぱい生きてるんだから。
本にも書いたしここでも話したことがあるけど、ウチの「ゴリおやじ」も好き放題、言いたい放題に生きた人だったな。おふくろが死んで何年かたったら、好きな女ができて一緒に暮らすんだって言って、住んでた家を売っちゃった。でも、そういう破天荒なおやじだったけれど、今の俺があるわけだ。長い目で見たら、あのおやじでよかったんだと思う。
→毒蝮三太夫の親孝行「好きな人ができたオヤジに俺がしたこと」【連載 第24回】
「こういう親じゃなきゃいけない」っていう決まったパターンは、どこにもないってことだよ。極悪人の子どもだって、立派な人に育つこともある。親が自分の背中で「こういう人生は俺だけで終わらせろよ」と語ることもあるし、子どもが親を反面教師にして学ぶこともあるだろう。逆に、いい親だからっていい子ができるとは限らない。禍福は糾(あざな)える縄の如しだし、人間万事塞翁(さいおう)が馬ってことだよ。
親の性格は変わらない
親がデイサービスに行きたがらないとか、行ってもほかの人とうまく付き合えないとか、ワガママばっかり言い出すみたいな話も、よく聞くよな。「なんでウチの親はこうなんだ」って腹を立ててもしょうがない。そういう性格は、もう変わらないんだから。
ものは考えようだ。こういう年寄りもいるんだと、親は身をもって見せてくれているとも言える。それもまた一種の教育かもしれない。親にイライラしたり怒ったりしても、お互いにストレスになるだけだ。自分はそんな親みたいにならないようにすればいいし、自分の子どももそうならないように仕向ければいいんだよ。
「子どもは親を好きなのが当たり前だ」っていうのも、一種のパターンだ。好きになれないこともあるよ。好きになれないからって、罪悪感を覚えることはない。「好きになれない自分はダメな子どもだ」なんて思っちゃうと、好きにならせてくれない親を逆恨みして、余計に嫌いになるんじゃないかな。「そういう親なんだ」と見てあげればいいんだよ。
無理に好きにならなくたって、親との縁はそう簡単には切れない。それが厄介なところでもあるけど、ありがたいところでもある。確実に言えるのは、その親がいなかったら自分は存在していないってことだ。自分がいい人生を送っていれば、どんな親だろうと文句なんて言う必要はない。親にどういう感情を抱くかは、結局は自分自身の問題かもしれないな。
親との関係にせよ、親に限らず高齢者との接し方にせよ、何かと悩んだり迷ったりすることが多い。どんなことでもいいから、俺に相談を送ってみてくれ。役に立つかどうかはわからないけど、たくさんの年寄りと接してきた経験を生かして、俺なりの考えを話してみようと思う。マムシだから、たまに毒を吐くかもしれないけどな。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
マムちゃんの極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治
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