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認知症の母が暮らす家に8年越しで”手すり”を設置した実録ビフォー・アフター

 岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。認知症に加え、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT病)という難病で思うように歩けない母のために、家の中に設置した”手すり”。いくらかかった?どんなタイプがある? 実際のビフォー・アフター写真とともに紹介する。

【目次】

手足が不自由なのに手すり設置に8年もかかったワケ

 シャルコー・マリー・トゥース病(CMT病)という難病を抱えている母は、手足の筋肉が萎縮しているうえに、アルツハイマー型認知症でもあるため、日常生活においてかなり不便を強いられています。

 すぐにでも自宅に手すりを設置すべき状況でしたが、介護が始まった8年前から設置しませんでした。今日は、なぜそのような決断に至ったのかをお話しします。

 母は中学生の頃にCMT 病を発症し、現在もゆっくりとしたペースで病気が進行しています。50代までは自転車を杖代わりにしながら、ひとりで外出も可能でしたが、77歳になった今では、誰かの支えがないと外は歩けません。

 しかし家の中では、壁や椅子などを手すり代わりにして、伝って歩きます。長年の習慣で身に付いたのか、認知症が進行した今でも、家具や棚、コタツなどを上手に手すりとして活用しながら、ひとりで生活できています。

バリアフリーの反対語は「バリアフル」

 母はCMT 病の影響で、つま先が上がりません。そのため、スリッパを履くと転んでしまうので、歯医者へ行っても、靴下のまま診察室へ入るほどです。

 他にも足の筋力の弱さから、立ち上がりの際は何かに捕まる必要があり、近くにある家具などに捕まって立ち上がります。あまりに時間がかかり過ぎて、自宅に来た訪問者が、留守と勘違いして帰ってしまったこともありました。

 このような状況から、介護が始まってすぐに手すりの設置を検討したのですが、見送りました。理由はバリアフリーの反対である、バリアフル(障壁がたくさんある)な環境を維持したかったからです。

 例えば、寝室にはベッドがありません。ベッドにすれば、母は立ち上がりがスムーズになります。しかし、それでは筋力アップのリハビリテーションにならないので、あえて布団の上げ下ろしを行っていて、バリアフルな環境を保っています。

 理学療法士さんによる、週1回40分の訪問リハビリを行っていますが、それだけでは不十分と考えているので、生活環境をバリアフルなままにして、生活の中で自然とリハビリテーションを行っています。

 しかし、8年続けてきたバリアフルな生活も、とうとう見直しが必要になってしまったのです。

→認知症の母が8年間お風呂に入らない理由|入浴拒否にひと筋の光が!?

認知症の進行で変わった母の行動

 母は毎朝、お湯を沸かしてポットに入れる習慣がありました。大好きなコーヒーを飲んだり、お薬を飲んだりするためのお湯だったのですが、認知症の進行とともに、この習慣が失われてしまったのです。

 母は古くてグラグラしたラックの上にいつもポットを置いていましたが、立ち上がりの際の手すり代わりとしても利用していました。

 ところが、ラックが今にも壊れそうな状況になり、ポットもラックも必要なくなってしまったので、理学療法士さんと相談して、手すりの設置を決めました。

 早速、母の担当ケアマネジャーに手すりの設置について連絡すると、福祉用具専門相談員が家に来ました。わたしから、母の立ち上がり方の特徴や古いラックを手すりとして使っていた話をしたところ、マットつきの床置きタイプの手すりを設置することになったのです。

●ビフォー:手すり設置前

●アフター:寝室から台所へ移動するときにつかまる手すりを設置

 ケアマネさんから、他にも母が転倒しそうな場所があると提案を受けました。確かにその場所は、少し不安定な木製のステップがあったので、安定したステップ付きの手すりに変更しました。

●ビフォー:駐車場への出入り口のステップ

●アフター:ステップ付き手すりへ

 2つの場所に手すりを設置したことで、立ち上がりや移動に不安がなくなったようで、母は喜んでいました。

 手すりは介護保険サービスのレンタルで、1台あたり1か月400円ほど(1割負担)の利用料で済んでいます。ちなみに、同じ介護保険サービスの住宅改修で手すりを設置することも可能です。上限は20万円となっており、わが家の場合は1割負担なので実質2万円です。

→認知症の母が暮らす極寒の岩手で悲鳴…冬の介護に必要なものとは?

 いずれ、家の中を伝って歩けなくなれば、手すりの設置や、玄関の段差をなくすなどの本格的な工事が必要になるでしょう。その際は、住宅改修を利用します。

 母は今でも、介護施設ではなく、最期まで自宅で暮らしたいと考えています。長く自宅で暮らしてもらうためには、少しずつですがバリアフルな環境からバリアフリーな環境へと移行していく必要があります。

 コロナ禍で母の活動量が減り、筋肉量が落ちている今、転倒や骨折の不安があります。転倒や骨折がきっかけで、介護度が上昇することはよくあるので、母の状態を見極めながら、自宅の改修を行っていきます。

 今日もしれっと、しれっと。

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

●認知症の母と食べるお餅とカップうどんの絶妙な昼食の話

●認知症の母がコロナ禍で”マスクしねばねぇの?”と言う意味は…

●離れて暮らす親の見守りカメラのプライバシー問題に心がザワついた話

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