連載

離れて暮らす親の見守りカメラのプライバシー問題に心がザワついた話

 コロナ禍で離れて暮らす親に会えない今、注目が高まっている見守りカメラ。作家でブロガーの工藤広伸さんは、遠距離介護をしている認知症のお母さんが住む実家に、早くから見守りカメラを導入している先駆者だ。そんな工藤さんがテレビ出演の際に話題となった、見守りカメラのプライバシーについて思うこととは…。

NHKあさイチに出演し親の見守りカメラを紹介したら…

 11月18日(水)放送のNHKあさイチに出演しました。番組テーマは「離れて暮らす親の見守り」。その中でわたしは、見守りカメラを使った親の見守りをご紹介しました。

 岩手の実家にいる母の様子を、東京からスマートフォンの映像で見守っていることに対して、母のプライバシーを尊重すべきかどうかが話題になりました。

 コロナ禍の今、親に会えない、親の様子を確認できずに不安になっている方が増えています。親のプライバシーを尊重するのか、それとも子の不安の解消のために見守りカメラを設置するのか、見守りの基準について考えてみたいと思います。

見守りカメラ導入のきっかけ

 わたしが見守りカメラを導入した1番の理由は、認知症の母をひとり実家に置いて、東京に帰ってきたあとの不安を解消するためでした。母は認知症で、手足の筋肉が萎縮する難病、シャルコー・マリー・トゥース病も抱えています。

「ご飯はちゃんと食べているかな」、「転倒して骨折していないだろうか」、「お薬は忘れずに飲んでいるかな」など、心配事が次々と浮かんできます。

 遠距離介護が始まった8年前は、ヘルパーさんが燃えるゴミを週2回のペースで、捨ててくれました。母の認知症も初期で、人の目も行き届いているので安心するかと思ったのですが、わずか週2回(1回45分)では、安心できませんでした。

→わが家の介護マニュアル作成のススメ|要望はヘルパーさんに「紙」で伝えるのが◎

 母の認知症が進行し、訪問看護師さん、理学療法士さんなど、人による見守りが強化されていったのですが、毎日誰かが来ても、24時間の見守りではありません。専門職の方から「お母さん、元気でしたよ」と言われても、家族の見立てとは違うこともあります。

 わたしが母に電話をして、見守っていた時期もありましたが、声だけでは判断できないこともありました。結局、いずれの方法でも不安は解消されなかったのですが、見守りカメラの導入のおかげで、母の様子を自分の目で確認できるようになり、安心したのです。

 では、見守りカメラ以外の選択肢はなかったのでしょうか?

遠距離介護で高齢の親を見守る方法は?

 遠距離介護を始める前に、母を介護施設に預ける、介護離職したわたしが岩手の実家へ帰って同居する、あるいは母を東京へ呼び寄せるなど、あらゆる選択肢を検討しました。

 母は自宅で出来る限り生活したい、わたしは30年住んでいる東京の生活は捨てられない、それぞれの生活を守るための選択が、遠距離介護だったのです。

 次に、母を見守る方法を考えました。介護保険サービスだけでなく、民間の見守りサービスを活用したり、映像ではなく活動センサーを使ったりする方法を思いつきました。

 しかし、自分の目で親の様子を見る以上の安心感はありません。母自身も転倒して発見されないことを恐れており、母のプライバシーの尊重以上に、安全や命を守ることを優先したのです。

 こうして見守りカメラを設置したのですが、初めからうまく運用できたわけではありません。

認知症の母が見守りカメラに違和感!?

 母も最初は見守りカメラに違和感があったようで、コンセントを抜いて片づけてしまったこともありました。

 母の違和感を解消するため、見守りカメラの電源コードをモールで隠したり、設置場所を居間の上にある神棚の影に移動したりしたところ、見守りカメラを外すことはなくなりました。最近では認知症が進行し、見守りカメラ自体を気にしなくなったようです。

 母の認知症の症状の悪化に合わせて、見守りカメラの台数を3台まで増やし、今では母の生活の8割を見守ることができるようになりました。

 こうして見守りカメラは、わたしの目となり、遠距離介護になくてはならないものになったのです。

→ひとり暮らしの認知症の母が準備した朝食が切なすぎた話

工藤さんが実家で利用している見守りカメラ

・Planex 防犯カメラ スマカメ スタンダード CS-QR100F

・Planex 防犯カメラ スマカメ2 バッテリー内蔵 どこでもスマカメ CS-QV40B

→見守りカメラほか工藤さんが活用する遠距離介護のツールとは?

見守りカメラはいつ導入すべき?

 見守りカメラが必要かどうかは、親子で話し合って決めたほうがいいと思います。プライバシーが気になる親ならば、電気ポットの使用によるメールのお知らせや、活動センサーによる見守りから始めるといいと思います。

 親の健康状態は、加齢によって変化していきます。状態に応じて、見守りレベルを変えていくべきです。プライバシー以上に命の危険を感じるようになったら、見守りカメラの導入を検討すべきでしょう。

 実際にブログに問い合わせがあった方の見守りカメラ設置のきっかけは、真夏にエアコンを使おうとしない親の見守りのためや、親が転倒して、2日間誰にも連絡できないまま、その場で倒れていた事件を経験して、カメラを導入に踏み切ったというご家庭もありました。

 新型コロナウイルスが再拡大している今、親の家に帰ることをちゅうちょされている方もいると思います。せっかくの機会なので、わが家の例を参考にして、親をどう見守るかについて、1度話し合ってみてはいかがでしょうか?

 わたしは見守りカメラを設置したおかげで、親になかなか会えなくても、安心した生活を送っています。

 今日もしれっと、しれっと。

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

●20代30代にも迫る「孫介護」の実態|祖母の介護で後悔していること

●洋服に謎のセロハンテープが…認知症の母に理由を聞いて切なくなった話

●認知症の母親を息子が介護するとき「男はつらいよ」と思うこと

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