ドリフの「大きさ」をあらためて感じた年だった|高木ブーインタビュー【連載 第33回】
「今年の自分は、まるで動物園にいる動物みたいだった」と高木ブーさんは笑う。特別な一年になった2020年。ステイホームの日々が長く続き、生きがいであるステージにもほとんど立てなかった。志村けんさんが突然いなくなったショックも、まだまだ癒えそうにない。高木ブーさんが2020年を振り返りつつ、新しい年への抱負を語る。(聞き手・石原壮一郎)
志村は、時々夢に出てきてくれる
2020年もあと何日かで終わっちゃう。けっこう長く生きてるけど、こんな年は初めてだな。ずっとステイホームで、ステージに立つどころか外出もほとんどしてない。このあいだ家族と「今年は動物園にいる動物みたいだったな」って言って笑ったんだよね。
毎日、出されたご飯を食べて、家の中をウロウロしてた。何の動物かな。ライオンっていうイメージじゃないし、象やサルでもない。ブタじゃあんまりだし、そもそも動物園にブタはいないしね。図々しいかもしれないけど、やっぱりパンダがいいな。見てくれる人を楽しませるのが役割ってところは、ちょっと似てるしね。アハハ、強引ですいません。
今年のいちばん大きな出来事は、やっぱり志村(けん)が、コロナで3月29日に突然いなくなっちゃったこと。入院したって聞いて1週間だもんね。驚くというより「えっ、なんで」っていう戸惑いが強くて、現実のこととは思えなかった。追悼番組で「志村は死なないの。ずっと生きてる」って言ったけど、今でもそういう気持ちです。
だって志村のやつ、時々会いに来るもんね。夢に出てきたり、ふと気配を感じたり。何か話すわけじゃなくて、いつも心配そうな顔で僕を見てる。26年前にいなくなったカミさんも時々会いに来るんだけど、そのときのカミさんと同じ顔してるんだよね。きっと志村は「高木さん、しっかりやんなきゃダメだよ。あと頼んだよ」って言いたいんだと思う。
ウチには『飛べ!孫悟空』の人形とか、ドリフのグッズがたくさん置いてあるんだけど、それが目に入るといろいろ思い出す。長さんが志村を「違うよ、どうして言った通りやんないんだ!」って叱りつけてる様子とかね。
荒井さんが抜けたあと、志村が24歳で新しいメンバーになったんだけど、最初は苦労してたな。今までの5人のリズムの中に入るのは、そりゃ簡単じゃない。荒井さんの代わりにはなれないよね。あのアクの強いキャラクターとは、ぜんぜん違うから。
お客さんのほうも、この新しいメンバーがやることにどう反応していいのか、しばらく困ってたと思う。志村はそれまでボーヤ(付き人)だったわけだから、やっぱり遠慮があって前に出てこれなかったり、逆に力が入り過ぎてギャグが上滑りしたりしてた。ボーヤだったころも苦労はあっただろうけど、また別の意味で苦しい時期だったと思う。
ドリフのチームワークを再認識した
志村が入った翌年の夏に、ドリフは2か月の休みを取った。そのあいだ『8時だョ!全員集合』は、傑作選とかでしのいでたのかな。毎週の生放送を6年続けてきて、みんな心身ともに疲れてたし、長さんとしては志村がどうのというより「ここらで気分を変えて再出発しよう」って狙いがあったみたい。山中湖の貸別荘で合宿して、みんなでネタを出し合ったりもした。僕は例によって「どうにかなるさ」とノンキに思ってただけだけどね。
次の年の春、志村は「東村山音頭」で一気に人気者になった。そこからはもう、何をやっても何を言っても大ウケだもんね。それまでは加藤を中心にコントを組み立ててたけど、加藤と志村のツートップになった。このあいだ加藤がテレビで言ってたけど、自分の立場が脅かされるとかそういう気持ちはまったくなくて、「ひとりで背負わなくてよくなって嬉しかった」らしい。そういうところが、ドリフのチームワークなんだよね。
志村のことは悲しかったけど、夏に「24時間テレビ」で加藤(茶)や仲本(工事)と『Long Tall sally』を演奏できたのは、とっても楽しかったな。54年前のビートルズ日本公演のときに、ドリフが前座でやった曲なんだよね。54年前よりも今回のほうがうまく演奏できたし、仲本の歌もよかった。演奏が終わった瞬間の「コケ」も決まったしね。
演奏できたことだけじゃなくて、思った以上に大きな反響があったのも嬉しかったな。ドリフがコミックバンドだったことを知っている年代の人も、演奏している姿を始めて見たっていう若い人も、「楽しかった」「また聞きたい」って言ってくれた。いろんなことで、ザ・ドリフターズというグループの「大きさ」をあらためて感じた年でもあったかな。
大晦日から元旦にかけては、ももいろクローバーZの「第4回ももいろ歌合戦」に出場したり、CS放送「TBSチャンネル2」で『8時だョ!全員集合』の傑作選が放映されたりします(詳細はプロフィール欄)。ぜひ楽しんでください。
来年は、ついに88歳の米寿を迎えます。コンサートはコロナの状況と相談しながらだけど、生配信ライブやYouTubeは、今年以上にどんどんやっていけるんじゃないかな。乞ご期待!
「2020年は、大変な年だったね。大切な人が突然いなくなったり…。でも前を向いてね、来年はいい年にしたいよね。よろしくお願いします。
2020年にマハロ! よいお年を!」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」( イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評! 12月31日18時から、ももいろクローバーZの年越しカウントダウンライブ「第4回ももいろ歌合戦」に出場(AMEBA、BS日テレ、ニッポン放送で放送)。12月31日20時からはCS放送「TBSチャンネル2」で、14時間にわたって『年またぎ!「8時だョ!全員集合」集中放送』が放映される。1月17日は初めての生配信ライブ『高木ブー家を覗いてみよう~オンラインだョ!全員集合~』(ゲスト・加藤茶、仲本工事など)を開催。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「恥をかかない コミュマスター養成ドリル」。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。