兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第71回 光回線」
若年性認知症を患う兄は、このところできないことが増えてきた様子。一緒に暮らす妹のツガエマナミコさんは兄のサポートのみならず、家のこと全てを1人で対処している状況だ。そんな折、インターネット回線を変更しなければいけない事態になり、孤軍奮闘するツガエさんだったが…
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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インターネット回線にまわつわる一大事
珍しく「新聞取りに行こうか?」と言ってくれたので「ダイヤルだけど…行けるかな」と返すと「ああ、ダメだ、ごめんね」と秒で断念する兄と2人暮らしのツガエでございます。
先日、インターネット回線をADSLから光に変更いたしました。光回線にしたいと思ってしたのではなく、なんと愛用しているADSLサービスが廃止されるとのことで、光にせざるを得なかったのでございます。
自宅に送られてきた廃止のお知らせに「NURO光」がオススメされていたので、「料金高めだけど、これでいいか」と記載されている番号に電話をいたしました。
この時点ではわたくしは、マンションに光回線が対応しているなら問題なくいけると信じて疑いませんでした。我がマンションは築14年と若干古めながら光に対応しているという記載を見た記憶がございます。でも、光にもいろいろ種類があることを、そのときのわたくしは知らなかったのでございます。
オペレーションの女性は、口調から優秀さが滲み出ており、きっちり事務的にお話しをすすめてまいります。結構な長い尺で説明や確認があり、最終的に「では〇月〇日に工事に伺います」という運びになりました。
事前にマンションの管理会社に連絡をして、光の工事が来ることを管理人さんにもお知らせして、準備万端で迎えた工事日でしたが、結論から申し上げると、NURO光は我がマンションでは対応しておりませんでした。
工事に来てくれた30代と思(おぼ)しき男性は、電話回線のカバーを外し、壁の穴に手を突っ込んで確認していましたが、「ここはケーブルが来てないですね」と言い、各部屋の回線箇所を確認し、お風呂場の天井裏まで見た結果、「ケーブルが部屋まで来てないので工事できません。マンション下までは光が来ているんですけど。壁を全部壊してケーブルを通すか、引越すしかありません」と、とてもクールにおっしゃいました。
わたくしは気が動転して、「え?でもこのままだとADSLが終わって、インターネットできなくなってしまうんですよね。それ困るんですけどぉ!」と詰め寄ってしまいました。
その後、工事の男性は、紙に書いてNURO光の仕組みを教えてくださり、このマンションに備わっている光回線のシステムまで解説してくださって「じゃぁ、今回はキャンセルということで」と爽やかに我が家を立ち去ってゆきました。
難しいことはわかりませんでしたが、とにかくNURO光はダメだけれど、このマンションが対応している光回線がどこかにあるのだということだけはわかりました。
兄は、その間、あちこち動き回る工事の人の邪魔をしないようにと気を使って移動し、なぜかことごとく行く手を阻むという残念な生き物になっておりました。そして、途方に暮れるわたくしをよそに、「ご苦労様。ありがとうございました~。気を付けて」などと言って工事の男性を玄関までいざなって、爽やかに見送ってくださいました。
後日、再び優秀なオペレーターのいる番号に電話をして、ことの次第を切々と訴え、工事の男性が教えてくれた光回線の形式を伝えると、あっさり工事の段取りとなり、あっさり移行が完了いたしました。
わたくしは未だにガラパゴス携帯を愛用している古風な人間でございます。ネット環境も古風なままで十分でございました。でもどこかで「光回線にしたらWEB閲覧がめちゃくちゃ速くなるはず。どんだけ~!」とワクワクしておりました。
ところが光が開通しても「何が変わったのだろう」と思うほど何も変化が感じられません。これで料金だけは上がるのだから理不尽な話です。それともパソコンの性能が光に追い付いていないだけでしょうか…。
兄に「何の工事?」と訊かれて、「インターネットがすごく速くなるんだよ」と自慢げに言っていたわたくしのドヤ顔を返してほしいと思っております。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ