猫が母になつきません 第228話「ソテツの木」
その木はこの家ができて最初に植えられた植物だと思います。門の横にあり、庭木としてはなかなか攻撃的な形ですが、それだけに印象的で我が家のシンボルツリーのような存在。父は自分でよく庭の手入れをして大事にしていたのに、母は「木があると家がいたむ」と誰かから聞いて以来やたらと木を切ろうとして困っています。木のせいで家が倒れてしまうと言うのです。もし家がいたむのが事実だったとしても私は庭が丸坊主になった家には住みたくない。木を切るためにすでに到着していた職人さんを待たせて大げんかです。母が「家のためにこの木は絶対切った方がいいわよねっ?」と職人さんに加勢を求めると、ずっと黙っていた職人さんは「いいえ、家は基礎があるから大丈夫ですよ」。あっさりと、しかしきっぱりした返答に母もぽかんとして、結局木は切らないことになりました。無駄足をさせてしまったのにもかかわらず職人さんは帰り際「木は生きてますもんね、思い出もあるだろうし」とやさしく声をかけてくださいました。まだとげとげしていた私の気持ちが一瞬で丸くなりました。一対一の関係はつらくなってしまうことも多い、時には冷静な第三者の介入が必要だのなぁと実感させられました。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。