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木村拓哉×常盤貴子『ビューティフルライフ』初回から名ゼリフが止まらない【水曜だけど日曜劇場研究】

 TBS「日曜劇場」の歴史をさかのぼって紐解くシリーズも第12回、今回を含めてあと2回、トリを飾るのは『ビューティフルライフ』、木村拓哉・常盤貴子主演の大ヒットドラマだ。このドラマを語る上で欠かせないのは「障害はドラマでどう描かれてきたか」という視点。ドラマ考察で知られるライター近藤正高氏が、時代背景を確かめながら改めて鑑賞する。

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ハンディキャップを抱える人たちを描いたドラマの系譜

 4月スタート予定が、新型コロナウイルス感染拡大にともない撮影が中断し、放送延期となっていたTBS系「日曜劇場」のドラマ『半沢直樹』がようやく7月19日に始まると告知された。『半沢直樹』の放送が始まるまでのあいだお届けしてきたこの連載も、ひとまず今週と来週の2回をもって区切りをつけたい。

 連載の最後にとりあげる作品は、先にお伝えしたとおり木村拓哉・常盤貴子主演の大ヒットドラマ『ビューティフルライフ』(正式なタイトルは『Beautiful Life〜ふたりでいた日々〜』だが、ここではこの表記で統一する)である。いまからちょうど20年前、2000年1月〜3月に放送された本作では、木村扮する美容師・沖島柊二と、常盤扮する足の不自由な図書館職員・町田杏子が紆余曲折を経ながらしだいに愛を深めていくさまが描かれた。

 ここで、障害者が登場するドラマの系譜を簡単に振り返っておきたい。脚本家の山田太一は1979年、NHKの『男たちの旅路』シリーズの1作「車輪の一歩」において、当時ほぼ社会の片隅に追いやられ、不自由な生活を強いられていた身体障害者を描いた。そこでは車椅子の青年たちが登場し、一人では電車・バスにも乗れず、タクシーには乗車拒否され、アパートも貸してもらえないという彼らに、鶴田浩二や水谷豊らが演じるガードマンが手助けしようとする。当時の身体障害者を取り巻く厳しい状況が、この作品からはありありとうかがえる。

 山田はその後、当連載でもとりあげた『丘の上の向日葵』(1993年)でも、車椅子で暮らす青年を登場させている。「車輪の一歩」のころとくらべると、車椅子が電動になったりと、状況は幾分かは改善されたとはいえ、それでも駅の階段にはまだ車椅子用の昇降機が設置されていなかったりと、社会環境におけるバリアフリー化が進むのはもう少し先だった。同じく1993年に放送された『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)でも、両親を亡くした主人公一家の四男(まだ10代だった山本耕史が演じた)が足が不自由で、車椅子で生活していた。同作の脚本家の野島伸司はその後、TBS系の『未成年』(1995年)、『聖者の行進』(1998年)では知的障害者を登場させている。

 このように1990年代以降、障害者が出てくるドラマが目立つようになった。1995年には、日本テレビ系の『星の金貨』で酒井法子が耳と口の不自由な看護師見習いを演じたのに続き、TBS系の『愛していると言ってくれ』では、豊川悦史が聴覚障害者の画家を演じ、常盤貴子演じる女優の卵と愛を深めていくさまが描かれた。『愛していると言ってくれ』は北川悦吏子の作品だった。北川はその後も、今回とりあげる『ビューティフルライフ』、さらにNHKの朝ドラ『半分、青い。』(2018年)でもヒロインが子供のころに片耳が聞こえなくなったりと、ハンディキャップを抱えた人物をたびたび作中に登場させている。

 もっとも、恋愛ドラマを得意とする北川は、障害者を描くことで社会の不合理を訴える(いわば社会派的な歩み寄り方)というよりは、むしろ、身体的なハンディキャップも、人が恋愛をするうえでの障壁のひとつとして描いているふしがある。そこには時代の流れも見逃せない。

→日曜夜に中年男性の心を掴む戦略!?「丘の上の向日葵」あらすじ考

十把一絡げに扱ってもらいたくないという思い

 ちょうど『ビューティフルライフ』が放送されるのと前後して、早稲田大学の学生だった乙武洋匡が、生まれつき手足がない自らの半生をつづった『五体不満足』を上梓し、1998年10月の発売から約1年間で発行部数が415万部に達するベストセラーとなっていた。身体のハンディキャップは“超個性的特徴”であり、けっして不幸ではないと主張する乙武は、身体障害者への偏見をなくしてバリアフリーを進めるためにもと、メディアにも積極的に登場し、共感と支持を集める。

 他方で、障害者が社会的に活動するうえでの支障を取り除くべく、バリアフリー化も徐々に実現していく。1994年にはハートビル法が、さらに2000年には交通バリアフリー法と、社会環境のバリアフリーを促進する法律が施行されている(これら法律はのち2006年にバリアフリー新法へと統合された)。『ビューティフルライフ』でも、常盤演じるヒロインの杏子が勤める図書館の玄関にはスロープが設けられているのがうかがえる。その一方で、車椅子の彼女がレストランなどに入るのを断られたり、タクシーに乗車拒否される様子も出てきた。

 病気のため17歳のときに足が動かなくなった杏子だが、自分でクルマも運転するし、人前では努めて明るく振る舞う。それというのも、自分を障害者として十把一絡げに扱ってもらいたくないという思いがあるからだ。そのため、彼女は他人から同情的に接されることに敏感で、ときに激しく抵抗を示す。こうした杏子の人物造形は、社会が少しずつではあるものの障害者が自由に活動できる方向へと進み、ハンディキャップを個性の一種としてとらえようという主張も出てきた時代を反映していたといえる。

展開の速さに驚かされる

 さて視線を、『ビューティフルライフ』が出てきた時代背景から、肝心のドラマの内容へと向けたい。15分の拡大版となった第1回では、初回からさっそく物語にグイグイと視聴者を引きこんでしまう北川たちつくり手の力量に感心させられた。それというのも、よけいな説明はせずに人物の設定などを示し、また物語上重要な要素やセリフを出し惜しみせずに最初からどんどん出しているからだろう。

 第1回は、柊二はバイク、杏子はクルマを走らせるところから始まった。杏子は信号待ちのあいだケータイで話に夢中になり、思わず窓の外へ腕を突き出す。それが隣りへ走り込んできた柊二にぶつかりそうになった。彼は抗議するも、すぐ信号が変わって話が終わらないまま彼女のクルマは発進してしまう。だが、二人はこのあと同じ道順をたどり、図書館(青山学院大学の裏にあるらしい)へとたどり着く。その玄関前の駐車場で杏子のクルマのすぐ横にバイクを止めた柊二は、バイクをどかすよう促された。このとき彼女が足が不自由で、普段は車椅子で生活していることがあきらかとなる。ドラマが始まってここまでわずか5分。一気に主人公の二人が出会い、杏子の境遇が示される展開の速さに驚かされる。しかも彼女の独特のパーマ姿にどうしても目が行ってしまう。この髪型がのちのち物語の展開にかかわってくることを思えば見せ方がうまい。

 柊二が杏子の勤務する図書館に来たのは、水酸化ナトリウムの本を探すためだった。杏子の図書館職員としての柊二への対応はやや気になるとはいえ(たとえば相談を拒否したかと思えば、水酸化ナトリウムで爆弾をつくるのではないかと言い立てたり……)、そこはひとまず目をつぶろう。このあと、柊二が水酸化ナトリウムについて調べていたのは、美容師として髪を傷めないパーマ液をつくるためだとわかる。ただ、彼は研究熱心で腕も確かなものの、その頑固さから客に苦情を受けることもしばしばだった。おかげで勤務先の美容室では最大のライバルである同期の悟(西川貴教)、また元カノの真弓(原千晶)にも人気で引き離され、焦りが募っていた。

 柊二は後輩の巧(池内博之)とともに、新たなヘアスタイルを試させてくれるモデルも探していた。そこでふと杏子のことを思い出し、再び図書館を訪れると話を切り出す。当初は渋った彼女だが、意を決して柊二の勤める美容室を訪ねた。ちょうど店には雑誌の取材が来ていた。それを知ってまた嫌がる彼女を、悟に負けたくない柊二はどうにかなだめて、カットさせてもらう。もし仕上がりが気に入らなければ、カット後の写真撮影は断ってくれていいとの約束だったが、杏子は彼の切ってくれたヘアスタイルにすっかり満足し、レンズに収まった。

 撮影終了後、歩道橋の上で二人は一緒に夕陽を眺める。そこで柊二がおもむろに体をかがめ、杏子と同じ目線に立った。その行動に不思議がる杏子に、彼は「いや、車椅子だとさ、いつも目の高さ100センチぐらいでしょ。そうするとやっぱり見えてくる世界違うんだろうな」と返す。それまで、ありきたりの優しい言葉をかけられるばかりだった彼女には柊二の言動は新鮮で、すっかり感動してしまう。もう少し回を追ってから出してもよさそうな名ゼリフだが、このドラマは出し惜しみはしない。

お手本のような完成度

 こうして第1回から主人公二人は、あまりよい出会い方をしなかったにもかかわらず、一気に距離を縮めていった。単発ドラマなら、このまま歩道橋の場面をクライマックスに終わってもおかしくないが、そこは連続ドラマとあって、ちゃんと次回へと続く展開が待っていた。杏子の写真が載った雑誌が発売されたものの、そこでは彼女の髪型より、障害者であることが強調されていたのだ。そのことに杏子は深く傷つき、柊二は美容師として売り込むために自分を利用したのではないかと疑念を抱く。柊二はその夜、写真があんなふうに使われるとは思わなかったと杏子に電話で弁解するが、彼女から問いただされ、注目されたいという思いがなかったとは言い切れない自分に気づく。

 だが、杏子も電話を切ったあと、しばらくして思い直し、雨のなか彼に会いに行った。また図書館に来ていいと許す彼女に、柊二が傘を差し出す。この和解の場面に、杏子のモノローグで「ねえ、柊二、この世はきれいだったよ。高さ100センチから見る世界はきれいだったよ。あなたと会ってラスト何ヵ月かで星屑を撒いたように輝いたんだ」というナレーションがかぶさった。こうして、のちに彼女の身に何かが起こることがほのめかされながら初回を締めくくられると、どうしたって今後の展開が気にならずにはいられない。第1回だけで、まるで単発ドラマのような緩急ある展開を見せながら次回へとつなげる、連続ドラマの初回のお手本のような完成度であった。そんな『ビューティフルライフ』はそれからどのように展開し、結末を迎えたのか、次回連載最終回では見てみることにしたい。

『ビューティフルライフ』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)

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文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。


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