親が興奮してどなり合いの喧嘩になってしまう…|700人以上看取った看護師がアドバイス
看護師として700人以上を看取ってきた宮子あずささんが、介護の不安にこたえるシリーズの第5回。
実は多くの人が、親とのつきあいかたに頭を痛めている。若い時には言わなかったようなことを言い張る親との喧嘩は、介護をさらに大変なものにしていく。宮子さんに、専門家としての視点から、そして経験者としての体験からアドバイスをもらった。
喧嘩のような状態になったら、話をやめるほうがいい
親が「もういい」とやけくそみたいになるとか、興奮したりどなったりする時は、一回話すのをやめたほうがいいのです。
●相手が攻撃的だと無意識にこちらも攻撃的になる
揚げ足取りの応酬のようになったら、それ以上話しても仕方がありません。喧嘩のような状態なら、一度離れるのがいいと思います。特に夜にやりあうのはやめたほうがいいでしょう。話は絶対にいいほうに行きません。
相手が攻撃的だと無意識にこちらも攻撃的、暴力的になるのだということを覚えておきましょう。暴力的なところが引き出されてしまうのです。極端なケースでは、暴力に及んでしまうこともあります。
大声をあげそうだったら、近所に恥ずかしいから窓を閉めるのではなく、逆に窓を開けるようにします。人目があるということを使って、気持ちを抑えるためです。
●一度こじれたものは、話し続けても悪い方向に行く
今日、この喧嘩状態のまま終わらせるのもかわいそうだという気持ちもあって、なんとか修復しようとしがちです。しかし一度こじれたものは、なかなか譲歩してもうまくまとまりません。話し続けても、どんどん悪いほうに行ってしまうだけだったりするんですね。
一見冷たいようですが、膠着状態になった時に接近戦をやっていても仕方がない。そういう時は、適度に離れるというのも悪い解決法ではありません。
親が不機嫌であることに慣れることも必要
冷静になって考えると、親は年を取ってこんなに弱っちゃって、そりゃあ辛いのだろう、泣きたくなるのだろうと思うし、病気になった親にいつもにこにこ暮らしなさいと言うのは無理なのだとわかりはするのです。
●親が不機嫌になって辛い自分をなんとかする
私は親の介護をしている時に、これは親が辛いのか、それとも自分が辛いのかと、冷静に考えてみようとしました。
親が不機嫌になった時に、それで辛いと感じるのは自分なんですね。それなら親をなんとかするというより、私の感情をなんとかしたほうがいいのだと思いました。そう考えて、もう親をなんとかしようとするのはやめようと自分に言い聞かせたことがありました。
そうすると、あとは私の問題ですから。自分が気にしないようにする。親の不機嫌が嫌なのは、私の感情の問題なのだから、ちょっと離れて自分が落ち着くのがいいわけです。親の不機嫌に慣れていくようにすることも必要です。
<親と喧嘩になってしまった時のためのまとめ>
●喧嘩のような状態になったら、一度話をやめて離れる
●相手が攻撃的だとこちらも暴力的になるということを覚えておく
●親の不機嫌になれていくようにする
今回の宮子あずさのひとこと
「介護をしている人と愚痴を言い合うとホッとすることもある」
親とのやり取りは消耗するものです。私は、喧嘩したりうつっぽい言葉を延々聞かされて疲れた時は、似た境遇の人と愚痴ったりしました。
親や配偶者を介護している人と、こっそり「うちの親もこんなこと言うのよ。ほんとに頭にくる」「もう死んじゃえばいいのにと思うわよね」と言い合ったりしました。
煮詰まっている時に、自分だけが辛いのではないとわかるとホッとしました。そういう、王様の耳はロバの耳ではありませんが、毒を吐いても大丈夫な友達を持っていたほうがいいと思います。助けになります。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子