親の要介護認定、申請は「早く」、判定日は「立ち会う」ことが肝要
いよいよ、親が弱ってきてこの先のことを考えなくてはならないと思いながら、つい言い出しにくくて、先延ばししてしまうことが多いのが、要介護認定。700人以上を看取ってきた看護師の宮子あずささん教えてもらった。
親が嫌がっても、介護認定は早めに申請を
子どもから見て、親に衰えが目立ってきたと感じても、当人は「介護なんていらない」と思っていることが多いものです。そんな場合でも、まずは介護保険の認定を早めに申請しておきましょう。
●親が嫌だと言っても「念のためだから」と説得するのがおすすめ
親は「嫌だ」というかもしれません。でもそこはぐっと踏ん張って、「念のためだから」「今はいらなくても、必要になったときに安心だから」と、説得してみるのがおすすめです。
●介護申請の流れ
介護保険の申請の流れを見ておきましょう。
1:申請
2:調査
3:審査・判定
4:ケアマネジャーの選定
5:サービス開始
このような順番です。
介護保険を申請する場合、まずは役所や地域包括支援センターに相談することになります。そして調査員による認定調査を受け、その方の介護度が、低い順に挙げると、「要支援1」「要支援2」「要介護1」「要介護2」「要介護3」「要介護4」「要介護5」の中から認定されます。支援も介護も要らないと判断されると、「自立」という名称の認定になります。
→「要介護認定」のコツ|ケアマネは絶対教えてくれない【裏ワザ】
●介護サービスを受けるにはケアマネとの契約が必要
このあと、具体的なサービスが始まっていくわけですが、その時、介護の方針を定めたり、サービスの内容・費用などの計画を立てたりするのが、「ケアマネ」と呼ばれる、ケアマネジャー(介護支援専門員)です。
介護サービスを受ける場合は、ケアマネと契約することが必要になります。契約自体にお金はかかりません。介護は、介護認定の申請と、ケアマネジャーとの契約から始まると言えるでしょう。
要支援は、お住まいのある自治体の地域包括支援センターでケアプランを作成します。それぞれの自治体にサービスの運営が任されているので、どうしても地域差があります。財政に余裕のない自治体だと、大したサービスを受けられなかったりもするのです。
それでも介護用品を借りられるのは便利です。介護保険制度では、要支援の場合、工事をともなわない手すり・スロープ、歩行器、歩行補助杖をレンタルできます。介護ベッドを借りられるのは介護2からとなっていますが、業者によっては、要支援の人に貸し出す格安の介護ベッドを持っています。足元が危なくなってきた高齢者にとって、布団の上で立ち上がるのは大変です。掛け布団に足を取られて転んでしまうことは結構多いのです。そんなときに介護ベッドが借りられるととても助かります。
場合によっては、要支援や要介護の認定がおりなくても、そういったレンタルの紹介をしてもらえることもありますから、ともかく早い段階で地域包括支援センターと相談してみることがおすすめです。
→ケアマネジャー(介護支援専門員)の役割と選び方|ケアマネをどう選ぶかで介護は変わる
「あの時、介護認定を受けておけば」と後悔したSさんの話
最近、介護認定を早く受けなかったために、悔いが残った話を聞きました。その女性Sさんは、地方に住んでいてすぐに父親のもとに駆け付けることができないので、それもあって介護申請しているのだと言ったせいか、あまり市役所に取り合ってもらえず、そのままになっていたそうです。
ところがある時、父親が転倒して骨折してしまいました。もちろん入院です。慌ててそこから介護認定を受けようとしたのですが、混んでいて順番がなかなか回ってきません。入院も長引き、その間に認知症になってしまいました。
彼女は、後悔に襲われることになりました。もっと早くに介護認定を受けてヘルパーを付けていれば、そもそも骨折をしなかったんじゃないか。骨折で入院したとしても、ヘルパーがいたらもっと早く自宅に戻してもらえたんじゃないか。そうしたら、認知症にもならなかったんじゃないか。このようにグルグル考え続けてしまいました。
あの時に介護認定を受けておけばよかったと思わないためには、早めに進めておくことです。
「市長に手紙を書いてでも」認定申請は早めに
Sさんのケースを聞くと、地域包括支援センターの対応に問題があるように感じられるかもしれませんが、これには理由があります。
現在、介護保険の認定申請は数が多く、順番待ちをしている人がたくさんいる状態のところもあるのです。必然的に、元気そうだったら後回しにされがちです。Sさんの父親もそういう扱いをされたのではないかと考えられます。
「介護保険の認定をしてもらっておいたほうがいいかもしれない」と思った時が認定申請のタイミングです。躊躇することはありません。私はよく「市長に苦情の手紙を書いてでも、早くやってもらったほうがいいですよ」と言っています。
具体的な手続きとしては、まずは地域の役所に電話してみることです。包み隠さず状況を説明します。
「ひとり暮らしの親が弱ってきていて、介護が必要になった時のことが心配なのですけど、介護認定はどうすればいいですか?」
「同居している親が高齢になってきて要介護が近いような気がするのですが、今から聞いておきたいと思って……」
というように相談すれば、役所の担当者がちゃんと教えてくれるはずです。
役所は、「地域包括支援センター」(地域によって名称が異なる場合もあります)を紹介してくれるでしょう。そこに連絡を入れて介護保険の認定をしてほしいと申し込み、調査員が自宅に来ることになるのです。
認定調査を受けても、要支援認定やその上の要介護認定がつくかどうかはわかりません。ただ、認定がつかなくても、この時の調査で、ある程度のことを調査員が把握し、記録に残しますので、そのあと状況が悪化した時の2度目の調査がスムーズになります。
介護認定判定調査のときは、親はいつもより元気になってしまうので、家族も同席を
実際に判定を受けるとなったら、調査員が来るときには、できる限り家族が同席したほうがいいでしょう。
本人だけに任せると、これはできますかと質問されたことに対して、とかく「自分でできる」と答えてしまう傾向があります。親が判定のときだけ、すごく元気になってしまったというのはよく聞く話です。そうなると、調査員が調査票の「できる」の欄にたくさんの丸をつけて、介護認定がおりなかったり、要介護度が低く出てしまったりするのです。
高齢者は、第三者の前では、気丈に振る舞いがちです。実際の言動もいつもより元気になります。やはり要介護と認定されるのは、本人にとって大変なことなのです。プライドというものがある。自分でできないというのを認めたくないのですね。
日常の状況を説明できる人間が立ち会うのは、必要です。調査の質問に対して本人が「できる」と答えているのに、周囲がその場で「いいえ、本当はできないんですよ」と否定するのはどうかと思ったら、調査員が部屋に入る前や後に説明するのがいいかもしれません。調査員もそうした例を見てきているので、わかってくれるはずです。
<介護が始まりそうになったときのためのまとめ>
●「念のためだから」と親を説得して介護保険の認定は早めに受けておく
●役所や地域包括支援センターに連絡して、相談員による認定調査を受ける
●一度調査を受けておくと、その時に要介護認定がつかなくても、状況が悪化した時の調査がスムーズになる
●親は、調査の時に元気であるように答えてしまいがちなので、調査員が来るときに家族が同席する
今回の宮子あずさのひとこと
介護のプロたちでも、自分の親のこととなるとうまくできなくて苦労しています
親のことは、自分だけでなんとかしなくてはならないと思って逃げ場がないからしんどいのです。そうそう、世の中には親の面倒をみることから逃げてしまう人も結構います。逃げてしまわない人はみんなしんどい。そのなかで少しでもらくになる方法を探していきましょう
私が介護していたときには、しんどくなると、同じように介護をしている友人と愚痴をこぼしあったりしていました。お試しいただければと思います。春とはいってもまだ天候が定まりませんが、どうぞお大事になさってください。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子