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暮らし

介護が始まりそう…まず何をしたらいい?|700人以上看取った看護師がアドバイス

 宮子あずささん(57才)は、看護師として700人以上を看取ってきた。それでも、親を介護することはとても難しいという。

 自らも悩んだり喧嘩したりしながら父と母を送った経験と、専門家としての経験をもとにした宮子さんの助言は、介護に向かうたくさんの家族たちを力づけてきた。冷静さとあたたかさ、時にはくすっと笑いもある宮子さんのアドバイスをお伝えするシリーズ。介護の始まりに知っておくべきことからスタートする。

まずは、かかりつけ医を作っておく

 いつから介護の手を必要とすることになるのか、それを予測することはできません。では、どういう準備をしておくといいでしょうか。高齢者に限りませんが、まずは「かかりつけ医を作っておく」ことです。

 かかりつけ医を作っておくと、継続して診てもらうことになります。変化に気づいてもらえますし、悪いところも見つけてもらいやすくなります。

 今は大きな病院に入院するのに紹介状が必要ですが、かかりつけ医がいれば、入院する事態になった時、すぐに紹介状を書いてもらえます。病状にあった病院を紹介してもらうこともできますし、「○○病院に入りたい」といえば、そこへの紹介状を書いてもらうことも可能です。

訪問診療を行っているクリニックでないと二度手間に

 介護まで視野に入れるなら、かかりつけ医は、訪問診療を行っているところを探すのがいいでしょう。

 例えば、健康が回復しない状態で退院するような場合は、退院直後から訪問診療が必要になります。自分のかかりつけ医が訪問診療をやっていなかったら、またもう一度はじめからかかりつけ医を探す二度手間になってしまいます。訪問診療をしているクリニックはまだ多いとはいえませんが、今後増えていきますので、探してみてください。そういうクリニックをかかりつけ医にしておくと、退院の時や介護認定の時などにも、何かと便利です。

自分の親に合うクリニックを探すためのネット・メールの使い方

 では、訪問診療を行っていて自分の親に合うクリニックをどうやって探したらいいでしょうか。私自身、父と母を介護した時には、インターネットとメールを使って探しました。

 ネットに書いてあることを読んだだけで、どんなクリニックか判断するのは難しい。だからと言って、弱ってきた親の病院を決めたいという時に、いくつものクリニックに行ってみるのも大変です。

 それで私は、最初にクリニックにメールで質問を送りました。親がこうこうこういう状況なのですが診てもらえますか、と細かいことを相談しました。

 クリニックに行ったこともないのに、突然メールを送りつけたら失礼なんじゃないか、と思うかもしれません。しかし、医師にとっても、自分のクリニックで診療することになるかどうかわからない話を診察時間に綿々と聞くよりも、メールでデータや文章を読むのほうがいい場合もあるのではないでしょうか。
  
 かかりつけ医を選ぶ場合は、実際に行ってみるにしても、メールで質問するにしても、あらかじめ「自分たちの状況」「望んでいること」「聞きたいこと」を書き出して、ポイントを整理しておくのがいいと思います。

ベテラン医師がいいか、若い医師がいいか

 経験が豊富な先生に診てもらいたいというかたが多いようです。しかし私は個人的には、年齢の行った医師よりも、若い医師のほうを選びます。

 医療の世界は、日進月歩です。はるか昔に医学部を出て、その時代の知識のまま診療を続けているようなタイプの医師は躊躇してしまうというのがその理由です。もちろん、大学を卒業してから年月がたっても、ずっと勉強を続けている医師ならばいいのですが。

 私がお世話になっているかかりつけ医は、三十代で開業した先生です。中堅私立大学を卒業しているのですが、今でも大学の病院に、週一回、非常勤で通っています。大学病院と繋がっているので安心だと思っています。

 大学病院と繋がっている医師が安心、とは、権威があるからいいという意味ではありません。新しい医療の情報をたくさん得られるためです。大学病院に出入りしているかどうかで、医師がアクセスできる情報量は格段に違ってくるのです。多くの症例を実際に目にすることができますし、学会誌などもすぐに閲覧できます。

 ちなみに、東大医学部を卒業した先生に診てもらいたいという東大医学部信仰は根強く存在します。しかし、旧帝大の医学部の中には、研究者育成を重視しているところもあります。偏差値の高い大学を卒業した医師が臨床医として優秀とは限りません。
 
 若い先生がいいというのは、あくまで今の私の場合の基準です。最新の薬を出してくれる若い医師よりも、家に来た時に親身になって話を聞いてくれるベテラン医師のほうがいいという場合もあるでしょう。

 大事なことは、ひとりひとりが納得してかかりつけ医を選ぶことです。そして言うまでもありませんが、基準に合っていたとしても、実際に診察してもらって合わなかったら、その時点で違う医師を探すことです。

〈介護が始まりそうになった時のためのまとめ〉

●訪問診療も行っている、かかりつけ医を作っておく

●探すためにクリニックに行ってみるのが難しいなら、メールで状況を書いて質問を送るという方法もある

今回の宮子あずさからのひとこと

後から苦しむことのないように

 介護、老いとか死に関して、必ず出てくるのが選択という言葉です。どう選ぶか、どう意思決定するか。

 しかし、そもそも病気になること・老いることは、選んだわけではありません。あたかも、いろいろなやり方の中から選べるかのように、「賢い選択をする」のを求められるというのは違うのではないか。それが、看護師として人の死に立ち会ってきた私が感じてきた違和感です。そのために、無用の心配や後悔にさいなまれている人が多いのではないかと思ってきました。

 私がお伝えしたいと思い始めたのは、このことからです。病気や老いには、状況や成り行きから決まってしまうことが多い。難しい状況の中で選んでいくのでいい結果は出にくいし、「こんなに選択の余地がない」ということこそ、わかっておいたほうがいいのだと思います。

 そしてあとから「選べたのに」と思って後悔に苦しむことがないようになればと願っています。
 
 どうなった時に、どこに駆け込めばいいのか。次回も、まずは初動をどうしておくといいかについてお話ししていきます。

新型コロナウイルスについて

 私がご相談を受ける時にお話しするのは、やはり手洗いです。家に帰って手を洗っても、ウイルスは服にはついているのではないかなどと言う人もいて、心配し始めるときりがないのですが。

 ともかく、ウイルスが口に入ってしまうことを防ぎたいので、私は外出から帰った時と、何かを食べる前に手を洗うようにしています。外で食べる時は、食べ物を素手で持たないようにしています。

 高齢の親御さんがいらっしゃるかたは、何かとご心配だと思いますが、どうぞお大事になさってください。

教えてくれた人

宮子あずさ

宮子あずさ(みやこあずさ)さん/1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。

構成・文/新田由紀子

●初めての介護|介護はいつから?タイミングを見逃さない7つのチェックポイント

●親の認知症が心配 チェックポイントと病院に連れていくコツ

●信頼できる医師の見極め方|医師が明かす病院の本音とウソ

コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • ハハ

    気付けば介護まもなく20年 何が正解かわからず、続けてます 後悔したくないから頑張りつつ、ダブルケアでは育児に後悔 両立は難しいですね ここまで続けると最期までとは思ってますが 主人の母だけに足りないと思われることばかり 足りるように修行は続き、まもなく同居へ

  • モトコ

    介護を始めて1年になります。母がよくなり、一人で生活をできることに向かって介護を始めたつもりでした。しかし、私が目指していたのは看護であって、介護ではなかったのだと気が付きました。歩行器がなくても歩けるのに今は歩行器を使って部屋の移動をしています。また転ぶと怖いと言います。私がいるときはそばにいるから、歩行器なしで歩いてみようとか、身の回りのことも自分でできることは自分でやってみようとか、かなり励ましながら、お母さんならできるよと言いながら促しているんですが、それがストレスになると言います。私も、できるなら穏やかに過ごしてもらいたいし、私ができることは何でもやってあげたいと思いますが、それが母にとって本当にいいことなのか、寝たきりになってしまうのではないか、どんどん歩けなくなってしまうのではないかと思い、叱咤激励しながら自分でできることをしてもらいたいと思っていました。インターホンに出るのも。電子レンジを使うのも、スマホを触るのもお風呂も入るもの、数をこなさないと忘れてしまいます。毎日の積み重ねが大切なんだと思いやってみようと誘ってきました。けれど、嫌がる母を見るていると、もういいのかなと思ってきたのです。母が今を快適に穏やかに過ごすほうが、母にとって幸せなのかな。だんだん歩けなくなることを予防するより、歩けなくなったらなったでしかたないのかなと・・母は小脳梗塞から足が痺れるようで、そのj結果転んで右肩を骨折し入院しました。肩はコロナの影響で手術ができず待っているうちに歪んで固まってしましました。利き手の腕なので日常生活が不自由です。食事の支度,洗濯は私がしており、排せつはできる限りトイレに行き、夜はポータブルを利用しています。私の家の近くにマンションを借りて行き来しています。私の家族のこともあるので、お互い気を遣うことを避けるために同居は選びませんでした。母は82歳。要介護2、物忘れはありますが認知ではありません。デイサービスは週1回。あまり好きではないようです。 先の見えない介護に疲れない?と友人に言われ、気が付きました。介護は回復を求めてはいけないのかと・・

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