良質な油で長生きするコツ|健康によい油の種類、摂取方法、レシピ
食用油(脂肪)は太るし体に悪い…という考えは過去の話。現代医療の分野では、「良質な食用油は健康長寿に欠かせない食品」と、世界各国で研究が進められている。
10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン治療等を行った本誌記者(59才・その後、再発なし)が、各種治療とともに真剣に取り組んだのが「食生活の見直し」。食事、運動、睡眠など日々の生活が、がん予防にいかに大切か、自らの体験を踏まえつつレポートします。
認知症やがんを予防
認知症やがん抑制に効果があるといわれているココナッツオイルなどの「中鎖脂肪酸」。炎症を抑え、がん予防効果があるとされる、アマニ油、えごま油、魚油の「オメガ3不飽和脂肪酸」など。油の種類も、健康への効果もさまざまだ。
では一体どんな種類の油を、どの程度摂取すれば健康によいのだろうか。長年、食品科学を研究している医学博士の佐藤拓己さんに聞いてみた。
――食用油が体によいといわれている理由はなんですか?
佐藤さん(以下敬称略):食用油などの脂肪は、健康長寿の要であるミトコンドリアを活性化させる「ケトン体」という物質に大きくかかわる食品です。ミトコンドリアは細胞内にある小器官で、人間の体内で細胞の生死を司る役割を持っています。ミトコンドリアが活発に働く状態であれば、細胞も生き生きと働きます。逆にミトコンドリアのエネルギー代謝が悪化すると、細胞を死に誘導する因子が放出され、がんや生活習慣病など、さまざまな病気を誘引します。このミトコンドリアを活性化させるために重要となるのが、ミトコンドリアに直接取り込まれる物質「ケトン体」です。ただしケトン体は一般に売られている食品には含まれていません。中性脂肪を原料に肝臓がつくり出すのです。そこで油(脂肪)が必要となるのです。
MCTオイルはさまざまな病気の予防効果が期待されるスーパーオイル
――すなわち、ミトコンドリアを元気にさせるケトン体を増やすために、食用油の経口摂取が必要なわけですね。
佐藤:そうです。ケトン体を最も直接的に速やかに増加させるものとして「MCTオイル」があるでしょう。MCTオイルはココナッツやパーム、バターなどに含まれている中鎖脂肪酸だけを精製して取り出したオイルです。腸管で吸収されると肝臓ですぐにケトン体に変換されます。MCTオイルでケトン体を供給してやると、認知機能がすぐに回復するとの報告もあります。
――1日にどのぐらいの分量を摂取すればよいのでしょうか?
佐藤:1日20~30gが必要とされています。ですが、これを1回で摂ると日本人のかなりの人が下痢になるといわれていますので、1日1回ほんの少し、小さじ1杯前後から始めてみることをおすすめします。また注意点として、摂取すると同時に糖質を摂っていると、ケトン体は出にくくなります。ですので、認知症やがんの予防としてMCTオイルの効果を最大限に引き出すためには、糖質の摂取を自制することも必要です。
(※注意)MCTオイルは子供のてんかんの発病など、医療の現場でも使われているオイル。体質的に心配な人は医師に相談を。またMCTオイルは熱に弱いので、揚げ物や炒め調理などには使用しないこと。使う際は加熱せず、ドレッシングにするなど直接かけて食べるとよい。初めて使用する時は、1日1回4~5g(小さじ1)程度にして少しずつ増やしていく。
おすすめの油
ケトン体を生成し、ミトコンドリアを活性化させて、がんを予防するためには、質のよい脂質をたっぷり摂ることが推奨されている。なかでも中鎖脂肪酸は糖質を極端に減らさなくてもケトン体を産出できる優れた油だ。一方、NG油はマーガリンやショートニングなどトランス脂肪酸を含む油。肥満や心疾患を引き起こしやすいので控えたい。
●ナッツ類
くるみ、ピスタチオ、ピーカンなど。特にオメガ3不飽和脂肪酸を豊富に含む「くるみ」は積極的に摂りたい食品。
●オリーブオイル
抗酸化作用の高いオレイン酸を多く含む機能性油。熱に強いので炒め物にも向く。精製度の低いエクストラバージンオリーブオイルが特におすすめ。
●中鎖脂肪酸を含むオイル
ココナッツオイル、MCTオイルなど。がんや認知症予防効果が高い油。MCTオイルは加熱不可。ココナッツオイルは加熱OK。
●オメガ3不飽和脂肪酸を含むオイル
えごま油、アマニ油、魚油、サチャインチオイル、ヘンプシードオイルなど。炎症を抑えてがん予防効果がある油。ただし熱に弱く加熱調理には不向き。
良質オイルで作るアンチエイジング・メニュー
MCTオイルを使ったレシピ
ココナッツやパームに含まれる中鎖脂肪酸だけを取り出し精製した食用油。脳のエネルギー源となる。
●鯛とまぐろのカルパッチョ
<材料>(2~3人分)
鯛(刺身)…100g
まぐろ…100g
玉ねぎ…1/4個
かいわれ大根…適量
スプラウト…適量
塩…少々
<A>
酢…適量
はちみつ…適量
塩…少々
<B>
MCTオイル…大さじ1
ゆず果汁…1個分
塩…少々
<作り方>
【1】鯛とまぐろはスライスして皿に並べ、軽く塩をふる。
【2】玉ねぎはスライスして塩をふり、しんなりするまで置く。
【3】【2】をAに漬け込みマリネにする。
【4】【1】に【3】を添えて、Bをかければ完成。
●厚揚げ豆腐のオイルかけ
<材料>(2人分)
厚揚げ豆腐…150g
しょうが(すりおろし)…適量
青じそ(千切り)…適量
梅じそ(千切り)…適量
<A>
MCTオイル…大さじ1
しょうゆ…大さじ2
<作り方>
【1】厚揚げ豆腐を好みの大きさに切り、電子レンジで約2~3分加熱する。
【2】しょうが、青じそ、梅じそを添えて、Aをかければ出来上がり。
●果物と豆乳のスムージー
<材料>(2~3人分)
好みの果物…(いちご…5個、キウイ…1個、バナナ…1本)
MCTオイル…大さじ1
豆乳…150ml
水…150cc
りんご酢…10g
はちみつ…適量
<作り方>
ミキサーにすべての材料を入れて攪拌(かくはん)すれば完成。
えごま油を使ったレシピ
シソ科一年草、えごまの種子から抽出した油。抗炎症、抗酸化作用のあるロスマリン酸、抗肥満効果のあるルテオリンを含む。
●キャベツのナムル
<材料>(2人分)
キャベツ…180g
<A>
えごま油…小さじ2
塩…少々
七味唐辛子…少々
すりごま…少々
<作り方>
【1】キャベツをさっと茹でて水気を切り、一口大に切る。
【2】【1】にAを混ぜ合わせれば完成。
ナッツ類を使ったレシピ
おすすめは、約7割が脂質のくるみ、高血圧予防になるピスタチオ、ミネラル豊富なカシューナッツなど。
●小松菜のミックスナッツ和え
<材料>(2~3人分)
小松菜…150g
ミックスナッツ(くるみ、ピスタチオなど)…30~40g
<A>
黒すりごま…大さじ1
しょうゆ…大さじ1
みりん…大さじ1
<作り方>
【1】小松菜を熱湯でさっと茹でて水気を切り、食べやすい長さに切る。
【2】ナッツ類をフライパンで香りが立つまで炒って、みじん切りにする。
【3】【1】と【2】とAを混ぜ合わせれば出来上がり。
オリーブオイルを使ったレシピ
オリーブの果実からとれる油。酸化されにくいオレイン酸が多く熱に強い。動脈硬化やがん予防に効果がある。
●さばときのこのホイル焼き
<材料>(2~3人分)
さば…2切れ
塩・こしょう…少々
まいたけ…50g
しめじ…50g
玉ねぎ1/2個
<A>
オリーブオイル…大さじ1
カレー粉…少々
塩…少々
<作り方>
【1】さばはひと切れを半分に切り、塩こしょうをする。
【2】まいたけ、しめじは小房に分け、玉ねぎは薄くスライスする。
【3】アルミホイルに【1】と【2】とAを入れて包み、オーブントースターで約10分焼けば完成。
アマニ油を使ったレシピ
アマ科一年草、アマの種子から抽出した油。女性ホルモンに似た働きを持つアマニリグナンが含まれ、更年期障害改善に利用。
●豚肉とほうれん草のサラダ
<材料>(2~3人分)
豚バラ肉(しゃぶしゃぶ用)…100g
ほうれん草…100g
<A>
アマニ油…大さじ2
レモン果汁…小さじ1
にんにく(すりおろし)…小さじ1
塩…少々
<作り方>
【1】ほうれん草は熱湯でさっと茹でて水気を切り、3cmほどの長さに切る。
【2】鍋に湯を沸かし、豚バラ肉を入れて色が変わるまで茹でてザルにあげ粗熱をとる。
【3】【1】と【2】とAを混ぜ合わせれば出来上がり。
教えてくれたのは
医学博士・佐藤拓己さん/1961年、岩手県生まれ。一関第一高等学校卒業、東京大学農学部・畜産獣医学科卒業。京都大学大学院医学系研究科・分子医学専攻・博士課程修了。岩手大学工学部・応用化学生命工学科・准教授。大阪バイオサイエンス研究所・研究員。現在、東京工科大学・応用生物学部・教授。著書に『ケトン体革命』など。
撮影/茶山浩
※女性セブン2019年12月19日号
●【オメガ3(えごま油・亜麻仁油)】&【オメガ9(米油・菜種油・オリーブ油)】を使ったレシピ