口や舌の状態でみる「フレイル」危険度 チェック方法と予防のための3つのポイントとは?
要介護状態の一歩手間の状態、「虚弱」を意味する「フレイル」。世界一の長寿を誇る日本だが、平均寿命と健康寿命の間には大きな差がある。元気に自立して日常生活を送るためには、「健康長寿」を目指して日常生活におけるさまざまな老化のサインを早めに発見し、生活機能の低下を予防することが大切だ。
そこで、フレイル進行の第2段階である口腔機能の低下をいち早く発見するための「深掘りチェック」を紹介。さっそく確認してみよう。
噛む力(咬筋)をチェック
噛む機能は、硬いものを噛み砕く時に働く咬筋をチェックすることで確認できる。
下イラストのように、人差し指をもみあげのあたりにくるように置き、中指、薬指、小指を添える。奥歯をグッと噛みしめて、指先が強く押されれば、ものを噛む時に使う咬筋がしっかり動いて硬くなっているので問題なし。指先が押される力が弱い、その感覚がない、または、左右の差が大きい場合は、咬筋が動いていないため要注意だ。
※入れ歯を使用している場合は入れた状態で評価する。
滑舌「パタカ」をチェック
口や舌の力は、滑舌によってチェックできる。時計の秒針などを見ながら、5秒間、「パパパ…」と、できるだけ早く言い、1秒当たりの平均回数を計算する。1秒間に6回以上の場合は問題なし。6回未満の場合は口や舌の筋肉が落ちてきているため要注意。録音して数えたり、誰かに測ってもらうとやりやすい。次に「タ」と「カ」も同様にそれぞれ調べる。
■口の元気度テスト
以下の1~12について、過去3か月以内にどのくらいの頻度で起こったか? もっとも近いと思われる番号に1つだけ○をつけよう。
(1)口の中の調子が悪いせいで、食べ物の種類や食べる量を控えることがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(2)食べ物を噛み切ったり、噛みにくいことがありましたか(例:硬い肉やりんごなど)
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(3)食べ物や飲み物を、楽にすっと飲み込めないことがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(4)口の中の調子のせいで、思い通りにしゃべれないことがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(5)口の中の調子のせいで、楽に食べられないことがありましたがか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(6)口の中の調子のせいで、人とのかかわりを控えることがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(7)口の中の見た目について、不満に思うことがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(8)口や口のまわりの痛みや不快感のために、薬を使うことがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(9)口の中の調子が悪いせいで、人目を気にすることがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(10)口の中の調子が悪いせいで、人前で落ち着いて食べられないことがありましたか
(11)口の中の調子が悪いせいで、人前で落ち着いて食べられないことがありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
(12)口の中で、熱いものや冷たいものや甘いものがしみることはありましたか
いつもそうだった1/よくあった2/時々あった3/滅多になかった4/まったくなかった5
○をつけた数値を足して合計点を出してください。 58~60点:口の状態は良好です。 12~57点:口の状態があまりよくないようです。一度しっかり調べましょう。
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きちんと栄養を摂り、体にゆきわたらせるためには、口の健康が重要になってくる。噛む力(咬筋)チェックで、問題ありとなった場合は、噛む機能が弱っている可能性が。
東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢さんが語る。
「口から食べたものは、噛んで咀嚼することで栄養が体内に吸収されやすくなるため、噛める人と噛めない人では栄養状態に大きな差が生まれます。歯ごたえのあるものを噛むなどして、噛む力を低下させないよう気をつけましょう」
滑舌「パタカ」チェックでは、口や舌の状態がわかる。
「パ」は唇のまわりの筋肉を使い、唇に力を入れて、しっかり締めて発音するため、ゆっくりしか言えない場合は食べたものをこぼす可能性が高い。
「タ」は、舌の先に力を入れ、前歯の裏側の歯茎部分に強く押し付けるようにして発音する。この舌の動きは食べ物を飲み込む時に似ており、飲み込み力がチェックできる。
「カ」は、舌の奥の方を、上あごの天井に強く押し付け、のどの奥に力を入れて発音する。食べ物を飲み込んで食道に送るための動きにつながるため、うまく発音できなければ、誤嚥リスクにつながる。
1秒当たり6回以上言えない場合は、ラも加えて「パパパ、タタタ、カカカ、ラララ」、「パタカラ」をそれぞれ5回繰り返し言う、パタカラ体操で口を鍛えるといい。また、大きな声で歌う、早口言葉も有効だ。
「口の元気度テスト」は、口腔フレイルの危険度を測るもの。すべての項目が5点になるように生活習慣、食習慣を見直すことが大切。この中で、8と12が3点以下の場合は、すぐに歯科医を受診し、治療を行うことが大切だ。
たとえすべてが5点だったとしても、かかりつけの歯科医を持ち、定期的に口腔内健診を行い、口の健康を保とう。
また、「噛めない」ことで「軟らかいものを食べる」ようになる。これがさらなる「噛む機能の低下」を呼び、「噛めない」という口腔機能低下の悪循環を生む。
脱却するには、噛みごたえのある食品を積極的に噛んで食べ、パタカラ体操などの口のトレーニングを行うこと。もちろん、虫歯や歯周病の治療、入れ歯の調整も必須だ。
予防のための3つのポイント
最後に、予防のための3つのポイント(食事・運度・社会参加)を紹介しよう。
1.食事:家族がいても「孤食」の高齢者は高リスク
食事と健康の関係は深く、中年から高齢期の入り口にかけては過栄養のメタボ対策として、塩分や脂肪を控えるなどの食事制限が重要だ。しかし、後期高齢者になると栄養の吸収力が落ちてくるため、たんぱく質を積極的に摂取し、野菜などの栄養もバランスよく摂ることが大切になってくる。
これに加え、食べる環境もフレイル対策には重要だと、前出・飯島さんは言う。
「若い頃から太りすぎは健康によくないため、お腹をひっこめるために食事に気をつけるよう指導されてきた人が多く、市民講座で『あと3kgやせなきゃと思っている人は?』と問うと、6割近くの人が手を挙げます。でも、フレイル対策には、この意識を変えることが必要なのです。実は今、もっとも怖いのは、肥満よりも孤独です。同居家族がいるにもかかわらず、ひとりで食事をする『孤食』の人は、フレイルチェックのほとんどのデータが悪く、うつ傾向をはじめ、さまざまなリスクが高いことがわかってきました。ひとり暮らしの方が危険なようですが、そうとは限らない。ひとり暮らしでも友達と食事をする機会が多ければ、リスクは低いのです(上グラフ参照)」(飯島さん・以下同)
フレイル予防にとっては「誰かと食べる」ことが重要。家庭内の社会性も必要なのだ。
■食事スタイルによるフレイルリスク
【ひとり暮らしだけど誰かと供食】
・うつ傾向 0.78倍
・食品の多様性が少ない 1.4倍
・低栄養 0.88倍
・咀嚼力の低下 1.3倍
・残存歯数が少ない 1.6倍
・歩く速度が遅い 1.1倍
【同居者がいるけど孤食】
・うつ傾向 4.1倍
・食品の多様性が少ない 1.8倍
・低栄養 1.6倍
・咀嚼力の低下 1.7倍
・残存歯数が少ない 1.6倍
・歩く速度が遅い 1.6倍
2.運動:「楽しみ」に運動を結びつける
運動が苦手な人に、ウオーキングや筋トレを勧めても、なかなか続かないことが多い。無理して挫折するよりも日常生活の中のできる範囲で、体を今より10分長く動かす方が、毎日続けられる分、効果は期待できる。
「毎日8000歩歩くなど、数字だけを目標にすると、運動が苦痛になりかねません。むしろ『誰と歩くのか』『歩いたあとに何が待っているのか』が重要です。目的地を決めて出かける、誰かに会いに行くなど、外出する理由をたくさん見つけましょう」
孫に早く会いたいと思えば、歩くスピードは上がるもの。その後、公園で一緒に遊べば、1日に必要な運動量は、軽くクリアできる。
3.社会参加:他人とかかわる機会を増やす
フレイルの最初の入り口は孤立にある。とはいえ、社会とのつながりを持つためには、地域活動やボランティアなど、社会貢献をしなくてはならないと身構える必要はない。友達と一緒にカラオケに行く、趣味の手芸サークルに入るなども、立派な社会参加だ。
「足腰に不安があり、外出して他人とかかわるのを躊躇する場合は、自宅に友人を招くのもいいですね。そのために掃除をし、お茶を入れたり、料理をするのは体も頭も使うことになりますから。それも無理なら、電話をかけて声を聞きながら話をするものいい」
家族以外の他人とかかわりを持ち、孤立を防ぐことも、フレイル予防につながるのだ。
教えてくれた人
飯島勝矢さん/東京大学高齢社会総合研究機構教授
イラスト/坂木浩子(ぽるか)
※女性セブン2019年10月24日号