「棺桶まで歩いて入りましょう」在宅緩和ケア医・萬田緑平さんが説く“死ぬ直前まで歩く”ことの重要性と歩き方とは?
「穏やかな最期」を迎えるには“歩くこと”が重要だと説く在宅緩和ケア医の萬田緑平さん。倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)も末期がんを患っていたが、亡くなる前日まで好きなものを食べ、自分の足で歩いていた。萬田さんが対談を含めて60ページに渡って在宅医療についての解説を担当した倉田さんの著書『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』から、一部抜粋して紹介する。
最期まで本人の好きなように過ごす
萬田診療所における在宅緩和ケアの基本方針は、「本人の好きなように生きること、好きなように生活すること」。私の患者さんたちは、お酒もタバコも好きなようにたしなみ、好きなものを食べて飲んで、したいことをして過ごされています。
実際、自由に過ごすことで患者さんは元気になり、宣告された余命より長く生きたケースをたくさん見てきました。
病院とは違って自宅なんだから、外出だって自由です。私の患者さんには末期がんでも痛みのコントロールをしながら、趣味のゴルフや競輪、旅行を満喫されている方もいます。
終末期というと「死を待つ」イメージを持たれる人がいますが、それは違う。私が担当した患者さんたちは、最期まで好きなように自由に生きている方がほとんど。私の仕事は「看取り屋」ではなく、患者さんが望むように最期まで生きることを支える「萬田道場、生き抜き屋」。そんな感じです。
歩くことの大切さ「死ぬ直前まで歩こう」
私が患者さんにお伝えしているのが「歩くこと」の大切さ。動かないと筋力が低下し、たちまち衰弱してしまいます。なるべく最期まで自分の足で歩き、自力でトイレに行くことを目指しています。
立ち上がることができて、歩けさえすれば生き続けられる。逆を言えば、立ち上がれなくなって歩けなくなると、その段階で余命わずかということが多い。ですから、患者さんには「生きたいなら歩いてください」「棺桶まで歩いて入りましょう」とお伝えしています。
私の患者さんには、椅子から腕の力を使わずに立ち上がるトレーニングをおすすめしています。太ももの筋肉を使うことが大切です。家の中でも外でもなるべく歩くことを推奨しています。
外来や訪問診療では、歩き方もお伝えしています。小股でちょこちょこ歩いてもトレーニングにならないので、大股でゆっくり歩くこと。なるべく自分で歩くこと。支えが必要な場合は壁か、介助の人に触れるだけで、しっかりつかまらないようにして歩くのがポイントです。
食べられなくても、痩せてしまっていても、歩くことはできる。むしろ身体が軽いほうが歩きやすいんです。
末期がんで食べものを受け付けなくなり体重が30kg台まで落ちてしまった患者さんは、1日に一度プロテインを飲みながら、歩くことを日課にしていました。
さらに25kgまで痩せていましたが、スッと立ち上がり軽やかに歩いて1年間生き続けました。
また、余命1〜2週間と宣告された女性患者さんに「生きたいなら歩きましょう」と伝えると、「無理ですよ、食べられないし、歩けないんです」と。
「あなたは今、抗がん剤の副作用で弱っているから歩けないんですよ。抗がん剤が抜けたら食べられるようになる可能性があります。仮に食べられなかったとしても、歩けますよ。根性で歩くんです」とお伝えしました。
その患者さんはそれを聞いて納得し、毎日少しずつ歩くトレーニングを始め、2か月後には外を30m歩けるようになっていました。この方は亡くなる前日までご自分でトイレに行かれていました。
萬田診療所の患者さんには、寝たきりになっておむつを使用される方はとても少ないです。
プロフィール/萬田緑平
1964年生まれ。群馬大学医学部卒業。大学病院の外科医として多くののがん患者の手術や抗がん剤治療を行う中で医療や看取りについて疑問を感じ、2008年から緩和ケア診療所に勤務。2017年「緩和ケア萬田診療所」を設立し、患者と家族のケアを続ける。『家で死のう!』(フォレスト出版)など著書多数。出会った患者と家族の日常と看取りまでを追ったドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』も話題に。
撮影/五十嵐美弥
