《夫がすい臓がんで他界》倉田真由美さん「代替医療に500万円」の後悔 在宅緩和ケア医・萬田緑平さん「俺の方針とは違う。でも、本人が希望をもってやってるなら…」
漫画家の倉田真由美さんは、すい臓がんの夫を自宅で看取った経緯を、新著『夫が『家で死ぬ』と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』にまとめた。その発売を記念して、東京・下北沢『本屋B&B』でトークイベントを開催した。イベントには、本書の解説・コラムを担当した在宅緩和ケア医・萬田緑平さんがオンラインで参加。白熱した対談の一部を紹介する。
最期まで家にいたからできたことがたくさんある
書棚に囲まれた静謐な空間に大型スクリーンが設置され、倉田さんが着席。オンライン参加者、そして来場者たちはイベント開始を待っていた。
この日、萬田さんはなんと世界一周クルーズの真っ最中。アフリカ沖に浮かぶ大型客船からのオンライン参加となった。
「Wi-Fiが不安定かも、Zoomがうまくつながらない!」とスタッフをハラハラさせる一面もあったが、開始時刻ぴったりに接続完了、船室の萬田さんがスクリーンに投影されると、「在宅での看取り」についての話題からスタート。
倉田真由美さん(以下、倉田):日本では、家で死にたいと思っている人がとても多いのに、なかなかそれが叶わない。私と夫が当初そうだったように、「最期は病院で死ぬのが当たり前」という常識にとらわれている人たちもたくさんいます。
萬田緑平さん(以下、萬田):そうですね。日本では、患者さん本人が希望しても倉田さんのように在宅看取りを受け入れてくれる家族はほんのわずか。私の実感値では5%くらいです。
そもそも、患者さんは「家で死にたい」のではなく「家で生きたい」んですよね。結果として死んじゃうんだけど、どう生きるのかってことだから。
倉田:最期まで夫が家で過ごせたことはとっても良かったんですよ。在宅だからできたことが、たくさんあるんです。
萬田:私の患者さんも住み慣れた自宅で自由にみなさんのびのびと生活されていますよ。叶井さんはどんなことができてよかった?
倉田:夫は映画が大好きでしたから、好きな時間に好きなタイミングで配信で映画をよく観ていましたね。好きなものを食べて、散歩にも自由に行けましたし。
これが病院だったら叶わなかったわけです。食事だって制限されますし、外の空気すら吸えない…。NG尽くしです。夫の最期を見て、私もそうしたいって思うようになりましたね。
代替医療に500万円「気持ちの整理がつかない」
萬田:倉田さんは末期がん患者の家族としては理想的なサポートだったと思いますよ。なかなかできることじゃないんだから。
倉田:だけど、後悔していることもたくさんあるんですよ。夫が望んでいたハワイ旅行に連れて行ってあげられなかった…。代替医療に何百万円もつぎ込んで、これでハワイに行けたんじゃないかと…。萬田先生には反対されましたけどね。
萬田:だからやめとけって言ったのに(笑い)。
倉田:夫は抗がん剤などのいわゆる標準治療は選ばなかったんですが、代替医療はとにかく色々と試して。500万円くらい使ったんじゃないかな。「萬田先生、どう思いますか?」と聞いたら、全否定されましたよね。もう藁をもすがる思いでしたからショックでしたよ。
萬田:ハッハッハ。俺の方針とは違うってことだよ。
倉田:結局、夫は当初宣告された「長くても1年」という余命より9か月長く生きましたけど、代替療法が効いたのかは誰にもわからないですし、これは人にはおすすめできませんね。代替医療にお金をつぎ込んでしまった、これはどう気持ちの整理をつけたらいいんでしょうか。
萬田:私のモットーは「本人の好きなように」。本人がやりたければやればいいし、やりたくないならやめればいい。
家族のためだと思って我慢しながら代替医療を続けている人もいるし、そこに希望を持ってやっている人もいる。抗がん剤治療も代替医療も、希望なんですよね。
何もしないと100%死んじゃうけど、「何かやっていれば、もしかしたら」という希望を持てる。その希望があるのとないのとでは、大きな違いです。だから、いい悪いじゃなくて、本人がしたかったら、いくらでもすればいいと思いますね。
倉田:延命治療にも同じことが言えますよね。私の父は母の意向で延命治療を受けたんですが、とても苦しそうに見えました。
萬田:多くの人は、事前に「延命治療はしないで」と家族に伝えていますが、たとえ書面でサインを交わしていたとしても、家族の意向で延命治療をされてしまうケースがほとんど。家族はなんとしてでも生きていてもらいたいですからね。
死に向かっているのに点滴やって、酸素マスクつけてって、たくさんの管につながれて、本人にとってつらい時間が増えていくことになるケースが多いんですよ。
倉田:夫は痛みを取りながら最期まで自宅で過ごす「在宅緩和ケア」を選んで、自宅で旅立ちましたから、本当に良かったですよ。
萬田:「家にいると早く死んでしまう」と考える人たちは多いんだけど、そうじゃなくて家で好きなことをして過ごしている方が長く生きられるケースは多いんです。
倉田:そうなんですね。夫も前日までシャワーを浴びて髭を剃って、好きなものを食べて過ごしていましたから。もう病院はコリゴリと言っていたので、病院で最期を迎えることは避けたかったので…。
萬田:延命治療のこともそうだし、最期までどこでどう生きたいのか、家族と具体的に話をしておけるといいですよね。この本には、幸せな最期を自宅で迎えるためにどうすべきなのか、何を準備しておけばいいのか、チェックリストにしてあるから、家族みんなで読んでみるといいじゃないかな。ぜひとも元気なうちに、より具体的にシミュレーションしておくことが大事。
倉田:そうなんですよ、病気で弱ってくると、色々なことが話しづらくなってしまいますからね。元気なうちに話しておきたいこと、やっておきたいことをやるべき。先生も世界一周クルーズ、本当に出かけましたからね。
萬田:そうそう。いつ死んでもいいように生きようと思っているから。生前葬も済ませているんですよ(笑い)。
撮影/五十嵐美弥 取材・文/桜田容子