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《「とっとと死んでや!」寝たきりの父に叫んだ》春やすこが語る、両親の壮絶ダブル介護 円形脱毛症になるほど追い詰められた彼女を救った「ずぼら介護」の考え方

 女性漫才コンビ「春やすこ・けいこ」として、1980年代の漫才ブームを牽引したタレントの春やすこさん(64歳)が約8年間向き合ったのは、寝たきりの父と要介護4の母という壮絶なダブル介護だった。一人で抱え込み、円形脱毛症になるほど追い詰められた末、父に「とっとと死んでや!」と叫んだことも。限界の彼女を救ったのは「もっと人を頼っていい」という発想の転換だった。真面目すぎる介護から生まれた「ずぼら介護」の極意を聞いた。

要介護5の父、要介護4の母のダブル介護

――ご両親の介護はどのように始まったのでしょうか。

春さん:1995年に、60代の父が脳梗塞を発症したんです。その影響で右半身に麻痺が残りました。そもそも父はあちこち手術をしていて、腫瘍のため胃は全摘していますし、腹部大動脈瘤、急性心筋梗塞などにもなっています。そんな父を支える母も、肺気腫による慢性呼吸不全で酸素マスクが手放せない状態でした。

 離れて暮らしていたので2人が心配だったのですが、2003年に自宅の新築を機に、「両親を迎えよう」と夫、娘、息子が言ってくれたんです。1階が両親の寝室、2階がリビング、3階は私たち家族が寝ていました。当時はまだ両親とも、簡単な介助があれば十分だったんです。

 それから約7年後、父が階段から落ちてしまって、寝たきり状態になりました。痩せていると言っても父は70kgありましたから、ベッドから車いすに移動させるだけでも大変です。入浴の介助もあり、おむつは3時間ごとに交換していました。その翌年には、分担して介護をしていた母も自転車で転んで大腿骨を骨折してしまい、人工股関節を入れる手術をしました。

――そこから両親のダブル介護が始まったんですね。

春さん:それまでは私がちょっと出かけても、母が父のおむつを替えていたので、そんなに負担には思わなかったんです。だけど、何もかも私1人でしないといけなくなったので、急に介護が重くのしかかってきました。仕事もセーブして介護に集中していましたから、逃げ道がなくなった感じで、精神的に追い詰められました。初めは真面目にダブル介護をしていたので、ストレスが溜まって円形脱毛症になったくらいです。

うんちまみれのカーテンを見て、思わず「とっとと死んでや!」

春さん:一度、カッとなって父にひどいことを言ってしまったことがあります。父は便秘症で、動く左手をおむつの中に突っ込んで、肛門を触って便を出そうとするんです。うんちがいっぱい付着している手をカーテンで拭くので、うんちまみれのカーテンを見た時、思わず「ええ加減にして! もうとっとと死んでや!」と言ってしまいました。

 娘が本気でそう思っているかどうかはわかるので、父は「すまん、すまん」って感じで流していましたけど。言ってはいけない言葉を口にしてしまいました。睡眠不足で疲れている状態で、もう限界だと感じました。

――その限界を、どう乗り越えたのでしょうか。

春さん:ケアマネジャーさんがきっかけをくれました。月に1回来てくれるのですが、「今、一番なにがしたいですか?」と聞かれたんです。娘が大学を卒業するタイミングだったので、「一緒に卒業旅行に行きたい」と答えました。無理だと思っていたんですけど「行ってきてください」と言われて、びっくりですよ。

 父は要介護5で介護度が一番高かったので、介護点数(単位)が多いんですね。なのに週2回のデイサービスしか使っていなかったので、点数が大幅に余っていたんです。「その点数を使って、たくさん人の手を借りて楽に介護してください、息抜きしていいんですよ」と言われて、気が楽になりました。そこから、計算して点数を使い切るという楽しみもできました(笑い)。

反省すべきは真面目に介護をし過ぎたこと――「ずぼら介護」のすすめ

春さん:それから「ずぼら介護」に目覚めました。できるだけ人の手を借りようと考えが変わったんです。例えば、私はゴルフが趣味ですが、デイサービスで午前9時から午後4時まで預かってもらっている間にゴルフに行くにしても、帰りのお迎えの時間に間に合いません。どうしようと思っていたら、ご近所さんが「任しとき、私がベッドに寝かせといてあげるわ」って言ってくれて。そうか、ご近所さんにも手伝ってもらってええんや、とか。

 あとは、おむつ替えのために3時間おきに起きていたのですが、それでは私の体がもちません。そこで、おむつの下に尿取りパッドを2枚敷いてみたんですが、それでは横からおしっこが漏れてしまう。そこで、尿取りパッドをおちんちんに巻いて、漏れないように股のところにも1枚ずつ巻いて父を寝かしたんですね。これが大成功で、12時から6時まで漏れなかったんです。これで夜中3時に起きなくてすんで、体力的にかなり楽になりました。

 介護をしていてつらいことの1つが、睡眠不足です。父のおむつ替えの問題はクリアできましたが、母の酸素マスク問題もありました。母は肺気腫で夜中も酸素マスクが欠かせなかったのですが、苦しいのか外してしまうことがありました。するとピーピーとアラームが鳴るので、それが聞こえたら1階の母の寝室に行きました。3階にいるとアラーム音が聞こえにくいので、2階の階段近くに布団を敷いて寝ていて。毎日起こされるわけではなかったので、なんとかなりましたけども、それも大変でしたね。

 反省すべきは、真面目に介護をし過ぎたことです。もっと早く「ずぼら介護」にするべきでした。友達も近所まで来てくれて私の息抜きにつきあってくれましたし、子供たちも父を車椅子に乗せたり、両親の話し相手になってくれたりと手伝ってくれて助かりました。介護をされているかたには、「もっと人を頼っていいんだよ、ずぼらでいいんだよ」と伝えたいです。

◆タレント、俳優・春やすこ

はる・やすこ/1961年6月15日、大阪府生まれ。1976年に漫才コンビ「春やすこ・けいこ」でデビューし、アイドル的な人気で漫才ブームを牽引。1981年に「上方漫才大賞」新人賞受賞を受賞。コンビ解散後は俳優としてドラマや映画、舞台で活躍。2009年より約8年間、両親の介護を行った。

取材・文/小山内麗香

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