遠距離介護歴13年の達人が明かす「父親の介護にまつわる激しい後悔」親に会ったら早めに確認しておきたい2つのこと
岩手・盛岡に暮らす母の遠距離介護を13年続けてきた作家でブロガーの工藤広伸さん。「避けて通れない親の介護」について、最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』では遠距離介護の不安や心配を減らすコツが散りばめられている。新著の情報をふまえ、年末年始の帰省時にチェックしておきたい2つのことを教えてもらった。
執筆／工藤広伸（くどうひろのぶ）
介護作家・ブロガー／2012年から岩手にいる認知症で難病の母（82才・要介護4）を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母（要介護3）や悪性リンパ腫の父（要介護5）も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』が11月17日発売。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/ Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる？介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
離れて暮らす親の介護、不安を感じたら…
年末年始に、離れて暮らす親と久しぶりに会う予定を立てられているかたも多いと思います。なんとなく避けてきた親の介護について、急に不安になったり意識し始めたりする時期が、まさにこれからやってきます。
もし離れて暮らす親の介護が始まることになったら、次の4つの選択肢の中から介護の方針を決めなくてはなりません。
・子である自分の家に、親を呼び寄せて介護する
・子が仕事を辞めて、実家にUターンして介護する
・子が実家に通って、介護をする
・介護施設に親を預ける
帰省中の短い時間を有効活用するために、2つのポイントに絞って遠距離介護について考えてみましょう。2025年11月に発売された拙著から一部引用しながら遠距離介護に備えるコツをご紹介します。
ポイント1／認知症介護はゆっくり始まるが準備は早めに
介護には、「ゆっくりはじまる遠距離介護」と「急にはじまる遠距離介護」があると思っています。
2023年の厚生労働省の調査によると、介護が必要となった主な原因の1位は男性が脳卒中、女性は認知症でした。
「脳卒中（脳梗塞、脳出血）や骨折・転倒を「急に始まる遠距離介護」、認知症を「ゆっくり始まる遠距離介護」として考えていきます。男女の合計では、「認知症」が最も多い原因です」（新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』（翔泳社）より、以下「」同）
介護が必要になる原因の1位である認知症、すなわち「ゆっくり始まる遠距離介護」から考えてみましょう。
保険会社のデータによると、認知症の疑いを感じてから病院で認知症と診断されるまでにかかった平均期間は16.2か月だそうです。
なぜこんなに時間がかかるのかというと、親自身が自分は認知症と思っていないことに加え、子も親の認知症を受け入れられずに年相応の老いと考えてしまって、病院に行こうとしないからです。
また病院を受診せず、介護保険サービスを利用していない時期に、ひとり歩き（徘徊）による行方不明者が多くなるというデータがあります。
「『認知症の人と家族の会』によると、行方不明になった時期の要介護度で最も多いのは未診断で30.2％、要介護1と合わせると57.3％で、認知症の症状が軽い人が多い」
遠距離介護がゆっくり始まるからといって、油断は禁物です。親の認知症の気配を感じたらすぐに、実家から通えるもの忘れ外来を探したり、実家を管轄している地域包括支援センターの連絡先を調べたりして、準備を始めましょう。
病院受診までの平均期間から考えて、年末年始に親を説得して、すぐに病院を受診してもらうのは難しいと考えておいたほうがいいでしょう。わたしも母をもの忘れ外来に連れていくまで、半年ほどかかりました。
焦って親の説得をすると、親が嫌がって病院受診がますます遠のいてしまいます。始めから説得に時間がかかるかもしれないと考えておけば焦らなくなりますし、気持ちに余裕が生まれると思います。
ポイント2「親が望む介護の方針を確認する」
介護は情報戦です。離れて暮らす親が転倒して骨折したり、認知症の気配を感じたりすると、親を介護施設に預けるしかないと考えがちです。
「ただでさえ親の介護は不安なのに、距離という大きなハンデが加わると冷静さを失って『親が望んでいなくても、介護施設に入ってもらうしかない」『仕事を辞めて、地元に帰って介護するしかない』など、自分の中にある限られた選択肢で重要な決断をしがちです」
わたしが岩手の母を東京の家に呼び寄せたり、岩手の実家にUターンしたり、介護施設に母を預けなかった理由は次のとおりです。
「私が遠距離介護を選んだ理由は、母は82年間岩手以外の場所で生活したことがなく、私は18歳から東京で生活していて、お互いの今の生活を守る最善策が何かを考えた結果、自然と遠距離介護になりました」
医療や介護の情報収集は必要ですが、親の意思確認はもっと大切です。まずは親が介護費用を準備しているか、介護を受ける場所は自宅と施設どちらがいいかなど、少しずつでいいので親と話し合ってみてください。
一方で、今は亡き父親の介護は「急にはじまる遠距離介護」でした。
「父の介護が突然始まったとき、父はICU（集中治療室）のベッドの上にいました。わたしは、黄色のガウンとビニール手袋をして入室。父の鼻には胃液を吸い取る管、口には呼吸を補助する管が挿管され、会話ができない状態でした」
これでは父がどんな介護を望んでいるのか、介護費用は準備しているのかの意思確認ができません。元気なうちに父と介護の方針や介護費用について、話し合っておけばよかったと後悔した瞬間でした。
幸い父の状態がよくなったので、一般病棟に移ってから父が望む介護の方針や介護費用、葬儀、お墓について質問しました。悪性リンパ腫で余命1か月と宣告された父に、葬儀やお墓のことは聞くのは心苦しかったのですが、心を鬼にして話しをしたことを覚えています。
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拙著には遠距離介護にまつわる具体的な73のヒントを詰め込みました。親の呼び寄せやUターンの判断はどうすべきか、親とお金についてどう話し合うか、遠距離介護を続けていくコツについて詳しく書いてあります。年末年始の帰省に、ぜひ役立て欲しいと思います。
