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健康

【変形性膝関節症】膝の痛みで歩けなかった70代女性「外出が苦じゃなくなった!」 理学療法士が教えるストレッチ・靴選び・生活改善法

 変形性膝関節症による膝の痛みや違和感、歩行時の不安に悩む人は多い。そこで、現役理学療法士の黒木綾乃さんに、変形性膝関節症に悩む人に役立つ、自宅でできる簡単なケア方法を教えてもらった。

教えてくれた人・文

黒木綾乃(くろきあやの)さん/理学療法士・ヨガインストラクター・介護予防運動指導士・パーソナルトレーナー

理学療法士として総合病院、訪問リハビリ、老人保健施設、デイケア、デイサービス、有料老人ホーム、介護施設役員などを経験。さまざまな現場でリハビリテーションを提供する。長年のリハビリテーションの経験から予防の発展と普及のため、医療ライターとしても活動中。現在は現場でのリハビリテーションの傍ら、一般の方へ腰痛や肩こり予防のパーソナルトレーニングも行っている。

高齢化社会を迎えた日本では国民病と言われている「変形性膝関節症」

 変形性膝関節症は、膝関節の軟骨が主に老化により変性し、膝の痛みや水がたまるなどの症状から、日常生活に大きな影響を及ぼす運動器疾患です。変形性膝関節症の患者数は、自覚症状がある人は約1,000万人、潜在的な患者 (X線診断による患者数)は約3,000万人と推定されており、重症の変形性膝関節症では、関節の変形、運動時の痛みや関節の動きの制限などにより動作が障害されます。

厚生労働省 介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会URL→https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0701-5a.pdf

 特に高齢女性に多く、歩行や階段の昇り降りで膝の痛みが生じます。発症を防ぐには、健康なうちから膝関節を正常に保つことが大切です。すでに発症している場合も、運動を中心としたリハビリテーションにより痛みの軽減や進行の抑制が期待ができます。症状が進むと、人工膝関節置換術などの手術が必要になることもあるため注意が必要です。

 理学療法士として指導してきた改善事例を交えながら、自宅で無理なく続けられる膝のケア方法と運動を紹介します。

変形性膝関節症の原因と特徴

 変形性膝関節症の原因は、年齢とともに膝の軟骨がすり減ることや、筋力の低下、過去のケガによる膝の変形などがあります。症状はゆっくり進行し、初期には膝のこわばりや床から立ち上がるときの痛み、中期になると歩き始めや、階段の昇り降りや正座がつらくなり、末期では膝関節の隙間がほとんどなくなり、腫れなどで痛みが出たり、歩くのが難しくなったりします。

 放置すると痛みで外出が減り、活動量の低下や介護が必要になるリスクも高まるため、早めの対策を心がけましょう。

変形性膝関節症と診断されたNさん。「できれば手術はしたくない」

 70代の女性Nさんは、歩行中に左膝の内側が痛む状態が続いていました。整形外科で中等度の変形性膝関節症と診断され、買い物など外出もつらくなり、自宅で過ごす時間が増えていました。別のクリニックでは、膝にたまった水を抜いたり、ヒアルロン酸や痛み止めの注射を受けたりしましたが、痛みの改善は一時的でした。さらに大学病院では、痛みが長引くようなら人工関節の手術の検討も視野に入れるよう勧められましたが、「できれば手術は避けたい」と、保存療法を希望されましました。

 歩行の様子を確認すると、左膝が外側に揺れ、加えて偏平足や外反母趾、O脚といった足の変形も見られました。普段からサンダルを愛用し、かかとがすり減った状態で歩き続けていたことも影響し、膝への負担が増していたのです。

 膝の痛みを根本的に改善するためには、膝関節だけでなく脚全体の機能を整えることが重要です。そこで、足部から股関節までをできるだけまっすぐに支えるようにリハビリを実施し、左膝の内側への圧力を減らし、炎症を起こしにくくすることを目指しました。

リハビリを数か月続けた結果、膝の内側の痛みは軽減しました。さらに、指導したケアを継続し、運動靴を履く習慣などを取り入れたことで、人工関節の手術を回避して生活できるまでに改善。Nさんは「外出が苦じゃなくなった」と笑顔を見せ、買い物などを楽しめるようになりました。

在宅でできる「膝の痛み軽減」に役立つ3つのストレッチング

(※)ストレッチングは安全を確保したうえで行ってください。特に高齢のかたは、おひとりで行わず、まわりに支えてくれるかたがいる状態で行ってください。

ケア1:椅子につかまって脚のストレッチング

 固まったふくらはぎの筋肉、および腿の筋肉をゆるめることで、歩行時や荷重時の膝への負担の軽減。

<やり方>

1.椅子、壁などの前に立ち、足は肩幅に開く

2.支持物に手をつき、伸ばしたい足を一歩後ろに下げ、つま先はまっすぐ前に向ける

3.この時、踵~ももをまっすぐに意識

4.後ろ足の踵を床につけたまま、前の足を軽く曲げ、後ろ足はひざを伸ばしたまま前足に体重を乗せる

5.後ろ足のふくらはぎが伸びているのを感じる

6.そのまま20~30秒キープし、反対の足も行う(息を止めたり、反動をつけたりせずに伸ばすのがポイント)

ケア2:足の裏のアーチ改善マッサージ

 足裏のアーチ機能の改善、足底筋膜や小さな筋肉のほぐし、血行促進による足の冷え、むくみ軽減、固くなった筋肉をほぐし。アーチ機能を改善することで、歩行時の衝撃吸収力アップで膝への負担を軽減

<やり方>

1.リラックスして椅子に座る(つかまるものがあれば立って行っても良い)

2.ゴルフボールを用意して足裏の下にセットする 

3.足を前後左右に動かしながら、踵からつま先まで、全体をゆっくり転がし、足裏の筋肉をマッサージしていく

4.足の裏の内側・真ん中・外側を丁寧にほぐす

5.痛気持ちいい程度の力で1~2分行う

6.反対の足も同様に行う

ケア3:膝前マッサージ

 膝関節前面の動きの改善、曲げにくくなった膝関節の動きの改善、膝周囲の血行促進。関節内の滑らかな動きを助け、炎症を予防する、膝のこわばりや重だるさの軽減。

<やり方>

1.リラックスして椅子に座り、膝を軽く曲げる

2.ももの下側に手を添え、膝のお皿に向かって滑らせ、少し落ちくぼんだあたりで、

膝のお皿から指2本分(下記写真参照)を探す

3.円を描くように両手で丁寧にマッサージする

4.くっついてしまった組織をはがすように、痛みのない範囲で優しく行う

5.1回30秒~1分程度、1日2~3回行う

靴の見直し生活習慣の工夫で膝の負担を減らす

 変形性膝関節症の改善には、まずストレッチングで脚の筋肉をほぐすことが大切ですが、プラスして、歩きやすく足に合った靴を選ぶことや、階段や座り方など日常生活の工夫を取り入れることで、膝への負担をさらに減らすことが期待できます。

靴の見直し

 足に合った良い靴をはくと、足首や膝がぐらつかず、しっかりと安定して歩けます。膝の一部にだけ強い負担がかかるのを防ぎ、全体に力を分散してくれるので安心です。さらに、靴が衝撃をやわらげてくれるため、痛みや炎症が悪化しにくく、長く歩いても疲れにくくなります。

 特におすすめなのは、サイドにチャックがついた靴です。毎回ひもを結び直す手間がなく、高齢の方でも着脱がしやすいため便利です。反対に、サンダルやヒール部分のないスリッポンは安定性に欠けるため避けましょう。

★チェック項目

1.かかと(ヒール部分)がしっかりし、硬い補強(ヒールカウンター)がある靴を選ぶ(足全体を固定できる紐靴が理想)

2.ソールの硬さとしなりをチェックする 

3.かかと部分を持ち、つま先を軽くひねったときに、かかとはしっかりと硬く、固定され、前足部はほどよくしなるか確認する

4.適度なクッション性があり、土踏まずを支えるインソール(アーチサポート)付きが望ましい

生活の工夫

 膝の負担を減らすためには、日常生活のちょっとした工夫が大きな効果を生むことがあります。実践して欲しい具体的なポイントをまとめました。

●床生活から椅子生活へ切り替える(床からの立ち上がりは膝関節内圧を高め悪化の原因に)椅子は膝よりやや高めに設定し、膝を深く曲げずに座れるようにする

●肥満体型の場合は、体重コントロールする

●座りっぱなし(とくに正座)を避け、1時間ごとに立ち上がる習慣をつける

●杖の使用を検討する(杖は痛む膝と反対の手で使用し、重心を預けて膝への負担を軽減する

●膝専用のサポーターやアーチサポート付きの中敷きを使用し、負担を軽減する。

まとめ

 変形性膝関節症による膝の痛みは、高齢者の生活の質に大きな影響を与えます。しかし、早めに対処し、継続的にケアすることで、痛みの軽減や進行の予防が可能です。

 日常生活では、サンダルは脱ぎ履きがしやすい反面、膝に負担をかけやすいことがあります。普段の生活では運動靴の使用を検討し、さらに体重のかけ方や身体の使い方を専門家と一緒に見直すことが重要です。

 さらに、筋肉をほぐして足を正しく接地できる状態に整え、靴の選び方や杖・サポーター・インソールの活用など、生活全般を工夫していくことも効果的です。

 また、膝まわりの筋力トレーニングを指導されることがよくあると思いますが、最初に行うのではなく、まず筋肉のこわばりや膝への過度な負荷を改善してから始めることが重要です。状態が整わないまま無理をすると、かえって悪化する可能性があるため注意しましょう。根本的に痛みの改善を目指すには、膝関節だけでなく、脚全体や身体の機能を総合的に見ていく視点が欠かせません。

 病気の進行度によっては、骨の変形による痛みも関わってきます。そのため、必ず医師や理学療法士といった専門家の指導を受けながら、無理のない範囲でケアを続けていきましょう。

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