前屈して靴下を履くとき腰が痛むのは<腰椎椎間板ヘルニア>の可能性が|医師おすすめの「仰向けもも裏のばし」で痛みの軽減を目指す
中高年世代に多く見られる「腰の痛み」。腰痛が慢性化する主な原因は、誤った体の使い方や、腰の動かし方のクセだという。侍ジャパンの4番バッター・吉田正尚選手(レッドソックス)の腰痛手術や運動療法の指導を担当するなど、多くのスポーツ選手の腰痛治療や指導も手掛けてきた西良(さいりょう)浩一さんに、前屈した時の腰の痛みを和らげる「1日1分でできる体操」を教えてもらったのでご紹介します。
教えてくれた人
西良(さいりょう)浩一さん/医師、徳島大学医学部運動機能外科学教授。『運動を頑張らなくても腰痛・坐骨神経痛がみるみるよくなる1分ほぐし大全』(文響社刊)の著書がある。
腰を前に曲げて痛みを感じた人は「前屈時痛」タイプ
まず最初に立ったままお辞儀をするようにゆっくりと腰を前に曲げてみるーーこの姿勢で痛みを感じた人は「前屈時痛」タイプの腰痛が疑われる。
「背骨の前方にある椎体や椎間板などに原因があると考えられます」(西良浩一医師、以下同)
■前屈すると痛む場合
背骨の前方にある椎間板や椎体が原因の可能性
■後屈すると痛む場合
背骨の後方にある椎間関節や椎弓などが原因の可能性
→腰を反らせると痛む腰痛で疑われる症状<腰部脊柱管狭窄症>おすすめの運動法「お尻キック」を医師が指導
国内患者数は約100万人も「腰椎椎間板ヘルニア」の主な症状とは
前屈時痛の代表的な症例が「腰椎(ようつい)椎間板ヘルニア」だ。患者数は国内に約100万人とされる。
「椎間板は、背骨の椎骨(ついこつ)と椎骨の間にある円盤状の軟骨です。その外側にひび割れが生じ、中心にあるべき髄核という組織が本来の位置から飛び出ることで、神経が圧迫されて痛みを感じます。前屈時に生じる強い痛みと坐骨神経痛が特徴で、あまりの痛さに歩行困難になることもあります」
腰の骨の前方の椎体にひびが入ってつぶれるように骨折する「椎体骨折(圧迫骨折)」は、加齢に伴って発症者が増える。
「骨密度が低下した人に起きやすく、転倒や尻もち、くしゃみや咳などのちょっとした衝撃でも起こります。気づかないうちに発生することもあり、腰痛に加えて『背中が丸まってきた』『以前より身長が縮んだ』という変化があれば、専門医を受診しましょう」
前屈時痛タイプには、30~40代で発症することが多い「椎間板性腰痛」や、40~50代以上の人に多く、朝目覚めた時に強い痛みが出やすい「腰椎終板炎(しゅうばんえん)」も考えられる(下の表を参照)。
「靴下を履く時に痛む」「座っていると痛む」「洗顔がつらい」などの症状がある人は該当する可能性がある。
前屈時に痛む人の「疑われる原因」
疑われる原因:腰椎椎間板ヘルニア
【病状・特徴】
●下肢に痛みやしびれがある
疑われる原因:椎体骨折(圧迫骨折)
【病状・特徴】
●寝た状態から体を起こしにくい
●痛みで寝返りが打てない
●以前より身長が縮んだ
疑われる原因:椎間板性腰痛
【病状・特徴】
●咳やくしゃみをすると痛みが腰に響く
●激痛というほどではなく鈍痛が続く
疑われる原因:腰椎終板炎(モディック変化)
【病状・特徴】
●起床時の痛みが最も強い
●少し動き回って体が温まると痛みが軽減する
前屈して靴下が履けないなら寝ながら「もも裏伸ばし」
前屈時の腰痛を改善するカギは、太もも裏の筋肉であるハムストリングスだという。
「ハムストリングスの柔軟性が低下すると、腰を丸めながら前屈しなければならないため、椎骨や椎間板への負担が増大し、炎症や神経の圧迫が生じます。ハムストリングスの柔軟性を高め、腰を伸ばしたまま前屈できるようになるには『仰向けもも裏のばし』の体操が有効です」
「仰向けもも裏のばし」のやり方
その方法は、仰向けになって片方の足を両手で抱え、ゆっくりとかかとを天井に向けて伸ばす。
「寝ながらできるので、腰椎に負担をかけずハムストリングスの柔軟性を高められます。毎日続ければ椎骨や椎間板にかかる負担が減り、腰痛が引いていくはずです」
※【1】〜【3】を左右4〜5回ずつ繰り返し、1日1セット行う。
【1】片足の膝裏を両手で抱える。
【2】口から息を吐き、太もも前面に力を入れながら、かかとを天井に向けて伸ばす。
<チェックポイント1>足はまっすぐ伸ばせない人は少し膝を曲げてもOK
<チェックポイント2>太もも裏の筋肉を伸ばす
【3】鼻から息を吸いながらゆっくりと【1】の姿勢に戻る。
最後に西良医師は「前屈によるセルフ診断はあくまで目安なので、痛みが続く場合は、最終的な確定診断のために専門医を受診してほしい」と注意を促す。正しいアプローチを知ることが腰痛改善の第一歩となる。
※週刊ポスト2024年8月16・23日号
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