高齢者が陥りがちな《秋バテ》の原因は低栄養かも? 予防と対策を管理栄養士が指南「年だからそんなに食べなくてもいい」は間違い
猛暑を乗り越えようやく暑さが少しずつ和らいできたこの時期、なんとなく不調を感じている。そんな状態は「秋バテ」とも呼ばれ、とくに高齢者は注意が必要だ。秋バテの症状には、低栄養が大きく関わっているという。その対策について、高齢者の栄養相談を行っている管理栄養士の川鍋仁美さんに解説いただいた。
教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん
管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/
高齢者は特に注意したい「秋バテ」
ようやく酷暑が過ぎ、朝晩の気温が下がり始め少しずつ秋めいてきました。食欲の秋、運動の秋といわれるように、徐々に活動的になれる時期のはずですが、「なんとなく体がだるい、食欲がわかない」。そんな症状に悩まされていないでしょうか。
夏の終わり、秋が始まるこの時期に現れる疲労感や食欲不振などの症状は「秋バテ」とも呼ばれ、とくに高齢者には注意が必要です。
高齢者が陥りがちな秋バテについて、食事面からの予防・対策についてご紹介します。
秋バテの原因は「夏の暑さが引き金に」
高齢者は、暑さに対しての免疫力、回復力も低下しています。
暑い時期に溜まった疲労が回復しきれないまま気温差の大きい秋になると、自律神経も乱れやすく秋バテを引き起こしやすくなります。
夏の暑い時期に熱中症によって命を落とされるかたが毎年いらっしゃいますが、熱中症になっていなくても、暑さが影響して死に至る「暑熱関連死」も最近注目されています。暑さによるストレスは想像以上に私たちの身体に大きな影響を与えています。
特に心臓や呼吸器系の病気、糖尿病などで慢性的な持病を抱えている高齢者は暑さの影響を受けやすいと言われているので要注意です。
秋バテ解消におすすめの栄養素と食事の摂り方
暑さが引き金となり命を落とす「暑熱関連死」とされる高齢者の多くは「低栄養の状態」のかたが多いと言われています。暑さで食欲不振・脱水を招き、低栄養状態になることで持病が悪化して、体調を崩してしまうことも。そんな秋バテ対策には、「低栄養を予防すること」が何よりも大切です。
1日3食が基本!
元気に活動するためのエネルギーや筋肉量を維持するためには、1日3食が基本です。食欲がないからといって、欠食してしまうと栄養が不足してしまったり偏ってしまったりして低栄養につながります。栄養が不足してしまうと味覚や嗅覚の低下が起こりやすくさらに食欲低下を悪化させやすいため注意が必要です。
毎食、主食・主菜・副菜が揃ったきちんとした食事を作れなくても大丈夫。まずは1日3食食べる食習慣をしっかり作ることで、1日に必要な栄養量・水分量を確保しましょう。
1回で食べられる量が少ない時は少量を小分けにしてもよいでしょう。高栄養の補助食品なども上手に活用してみるのもおすすめです。食事が1日3回以下にはならないことが大切です。
食欲がない日におすすめの食ベ物や食材
ヨーグルト、ゼリー飲料、飲むヨーグルト、チーズ、プリン、ゼリー、アイス、フルーツ、トマト、カステラ、おもち、お団子、ポタージュ、豆腐、茶碗蒸し など
こうした甘い物やおやつでもいいのか心配になるかもしれませんが、食欲がない時に食べることを無理強いしてしまうと負担に感じ、余計に食べることが辛くなってしまい、さらに食べられないという悪循環になることもあります。
なので、食欲が落ちている時は、「食べられるものを、食べられるときに」が基本です。
まずは何かしら食べられるものを口にしてもらい、1日に必要なエネルギー量を確保することが最優先。食べられる量が増えてきたら、しっかりとした食事に移行していきましょう。
ただし、血糖管理が必要な方の場合、甘い物の摂りすぎは控える必要があります。また、嚥下機能が低下している場合には、パサパサしたカステラや、粘りのあるおもちやお団子は小さくカットするなど、介助者が注意して見守りましょう。
エネルギーとタンパク質を意識して
1日の活動量や筋肉量を維持するためには、食事からエネルギーとタンパク質をしっかり摂る必要があります。ベッド上に横になっている時間が多い高齢者でも同様です。
まずは、活動するためのエネルギー源になる炭水化物を多く含む食品である穀類(ごはん・パン・麺)の主食を毎食食べてもらいましょう。
また、筋肉量を維持するためには、良質なタンパク質を多く含む食品も必要です。魚介類、肉類、大豆製品、卵、乳製品を組み合わせて選ぶのがポイントです。
肉や魚はタンパク質が豊富ですが、生物なので保存がきかないので、タンパク質を豊富に含む缶詰や乾物を活用するといいでしょう。ツナ缶やサバ缶、焼き鳥缶などの缶詰や、高野豆腐などの乾物は、常温で長期保存でき、タンパク質を摂れるので常備しておくとよいでしょう。
秋バテにおすすめレシピ2選
食欲が落ちがちなこの時期におすすめのレシピをご紹介します。
洋風にゅう麺
そうめんをスープで煮て、ツナ缶でタンパク質もプラス。1食でバランスよくいろいろな栄養素を含んでいます。
<材料>※2人分
・そうめん…1束
・ツナ缶…1缶
・トマト…小さめ1個
・なす…小1本
・かぼちゃ…1片
・水…200㏄
・固形スープの素…1個
・塩コショウ…少々
<作り方>
【1】トマトは湯剥きして1cm角に切る。
【2】なすとかぼちゃは皮を剥き、1cm角に切る。
【3】そうめんを茹でて、冷水でさらしざるにあげておく。
【4】鍋に水とスープの素、野菜を入れて柔らかくなるまで煮る。
【5】そうめんを皿に盛り、【4】のスープをかける。
【6】油切りしたツナを上にのせて完成。
お好みで小口ネギやオリーブオイルをかけても♪
豆乳粥
冷房で冷えてしまっている体には、体の内側から温めるメニューもおすすめです。
<材料>※2人分
・ご飯…小さめお茶碗1杯
・豆乳(無調整)…200㏄
・鶏ガラスープ…小さじ1.5
*肉そぼろ
・豚ひき肉…100g
・サラダ油…小さじ1/2
・しょうゆ…小さじ1
・砂糖…小さじ1
・みりん…小さじ1
・甜面醤…小さじ1
<作り方>
【1】肉そぼろの調味料を混ぜておく(サラダ油以外)。
【2】サラダ油で豚ひき肉を炒める。
【3】【1】を加え、味がなじむまでよく混ぜて火を止める。
【4】鍋に豆乳、ご飯、鶏ガラスープの素を入れ、とろみがつくまで5分ほど煮る。
【5】器に【4】を盛り、肉そぼろをのせる。
お好みで、青ねぎやラー油をトッピングして。ラー油は辛みが強いとむせやすいので注意してくださいね。
低栄養を侮ると危険!
高齢になるほど、食べられる量は低下し、それに伴いエネルギーや栄養素の摂取量も低下してしまいます。
栄養相談をしていて、食事量が少ない高齢者にもう少し食べることを促しても「もう歳だから、あまり動いていないから…。そんなに食べなくてもいいでしょう」と話されるかたも多いのですが、高齢者ほど意識して「食べる」ことが大切です。
夏の暑さによる疲労感・食欲不振などの蓄積による体調不良は、始めのうちは症状も軽いため、様子を見ていることも多いかもしれません。しかし症状が進行してしまうと、気づいたときには「低栄養」になり、抜け出せなくなるケースも起こります。
なんとなく不調だなと感じたときは高齢者こそ早めに対策を講じる必要があります。かかりつけ医に相談したり、管理栄養士に相談したりしながら、普段の食事・水分量が十分に足りているか改めて確認してみましょう。